HELLO TAXUS Book Mark

 薬
ふと思い出して、カフカを読んだ。
なんとなく真似て書く、似せられるものではないけれど・・・


風邪をひいたようだ。
ベットに入って1時間もたった頃というのに、鼻がむずむずしてきて眠れない。
確か風邪薬があったはずだと、わざわざ起きて引出しを開けてみる。 確かにある。カプセルが一つ、二つ、・・・五つ。だがこれは風邪薬ではない。 腹痛で医者に行った時にもらったものだ。弱い薬では効かないからと、 強めの痛み止めを調合してもらったのだ。 あの時は本当に死ぬかと思うほどに痛かった。 これはまずいと病院に電話をし、家を出て角の交差点を曲がった頃には 歩けないほどの内臓を絞ったような痛みに襲われた。
ようやくタクシーをつかまえ、病院に入ったものの 順番があるといってすぐには見てもらえない。 ひたすら痛みをこらえるが、こらえきれるものではない。 息をするのもつらくなり、手までしびれてきた。 周りで順番を待っている患者たちまでこちらの様子をうかがっている。 私は見世物ではない、そう思うとよけいに気分が悪くなった。 あまり様子が悪いので、順番を早めて診てもらえることになった。 とてもありがたく思ったが、この医者、適当に診た後痛み止めを打つ気になったらしい。 早くこの痛みが引くなら注射だろうがなんだろうがかまなわない、とっととやってくれ。 そうして注射を打ったのだが痛みはいっこうに治まらない。 どうしたことかよけいに痛みが増したようにさえ思えてくる。 なんてことだ。私はひろい食いなど当然しないし、 最近は暖かいスープなどが好みでなまものも食べてはいない。 なのに何故こうも腹が痛いのだ!
我慢しきれず近くの看護婦を呼び止めて、また痛み止めを打つことになった。 今度のはさっきのものよりも強い薬らしい。 そんなものがあるなら初めからそれを打て! そう言いたかったが、一言声を発するにも痛みが響いてままならない。 これで治まらなかったら死んでしまう・・・しまった、部屋をかたずけていなかった。 こんなことなら昼間のうちにかたずけておくんだった。 そしたら今ここで死んでしまっても悔いはなかったのに・・・。 だが今更どう思っても仕方がない。 ああ、今日くたばるのはやめておいた方がいい。
結局のところ二度目の注射で痛みは治まり、さて帰ろうかという気分になった頃 点滴をする事になった。もう痛くない、さっさと帰らせてくれ、そう思ったが、 せっかく点滴を用意してくれたし、午後まで用事はなかったので点滴をする事にした。 二時間もかかってもうそろそろ帰れるな、お腹もすいてきたしなどと思っていると、 看護婦がまたもや点滴の用意をしている・・・もう痛くないからいらないと断ったのだが あっけなく管につながれた。午後の予定はキャンセルするしかなかった。 休日の約束をとても楽しみにしていたのに、痛みが引いたというのに、 その日の午後はまた痛くなった時のためにと気を利かせて強めに調合してくれた薬を 握り締めながら、暗澹たる気持ちで過ごしたのだ。なんと悔しかった事か!

そうだ、今ほしいのはこの薬ではなかった。今は風邪薬があればいいんだ。 強い痛み止めがほしいのではない。違う引出しを開けてみる。 ・・・そういえば、冷蔵庫に置いたのだ。薬は冷蔵庫に、基本だ。 さっきの薬を引き出しに入れっぱなしだという事などさっさと忘れて 冷蔵庫を開けた。袋ごとおいてある、薬の賞味期限はいつなのだろうと、 くだらない事を考えつつ取り出した。これこそが捜し求めていた風邪薬だった。 しかもどうぞ飲んでくださいといわんばかりに栄養ドリンクまである。 のども渇いているし・・・ とまずは栄養ドリンクを、続けて風邪薬を三錠、水を二口ほど飲み込んだ。 ふう、と一息つく、だがよく考えると三錠できくだろうか?袋には確かに一度に三錠と書いてはあるが、 薬の効きにくい体なのだからもう少し飲んでおこう。 そうしてもう三錠と水を二口飲み込んだ。さて、これでいいだろう。
そしてふと薬の袋に目をやると、食後にと書いてあるではないか! もう薬は飲んでしまったぞ。なんてことだ!注意書きはもっと目立つようでなくては 注意などできるわけがない。 ま、しかし、先に栄養ドリンクを飲んでいたので、それで良い事にして再び寝床に潜った。 薬のおかげか、すぐに眠りにつく事ができた。

夢を見ていた。 見た事のない、異国のような風景が広がっていたが、そのずっと向こうは靄がかかっているようで 何も見えなかった。軽い軽い足取りで進んでいくと獣用に仕掛けたらしい 罠にかかって身動きがとれなくなった。もがけばもがくほど罠はきつくなり、 どうにも逃げられそうにない。遠くから何かが近づいてくる。 何とかしなければと思っているとポケットに見覚えのないカプセルが入っている。 これは何の薬だ? よくわからないが試しに飲んでみる。のどに激痛が走った。 今まで飲んだどんな薬よりも不味かった。腹痛で歩けなくなった時よりも痛かった。 イタイイタイと言っても今日は看護婦は来てくれない。 痛み止めを打ってははくれない。・・・ああ今日は部屋を片付けた後だ。 ・・・今日は田舎に出かけ・・・て

「おばぁちゃ〜ん。タマが倒れてる!」
「あら!殺鼠剤でもなめたかね?」
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Last Up Date 2001.11.27 By Fey