僕は今、とあるホテルの一室で彼女宛のメールを書いている。
「そう言うわけで、今週も会いに行けない。
いつもこんな調子で、僕もつらいんだけど・・・。」
何が、そう言うわけなのかと言うと、こうだ。
僕はコンピュータ関係の会社に勤めている。
会社の規模はそこそこで、あえて詳しくは言わないが、
システムを作って提供してる、と言えば雰囲気は分かるだろう。
僕はそこで、お客さんのところへ出張して、
システムについて説明したり・・・
云々とやっているわけだ。(売り込みに行ってる訳じゃないよ)
そして今週も出掛けたんだけど、今回も出だしが悪かった。
「高城君。明日、大阪だよね」
「はい」
「そしたらさ、そのまま韓国行ってくれる?」
「韓国ですか?」
「そう、また来て欲しいって言ってるんだよ。
ま、別に指名してるわけじゃないから他の人に行ってもらっても
いいんだけど、高城君何回か行ってるし、東京戻って
また出かけるより、関空から行ったほうが楽でしょ」
「・・・」(この人、人事だと思ってるよな、絶対そうだ)
「チケットは手配しとくから、また空港で受け取って」
「・・・はい。」(嫌だって言っても、大阪から戻ったら、
行くように言われるんだろうな)
で、今、韓国のホテルでこうしてメールをやり取りしてるんだ。
”いつも会えないね。韓国に行く人って、高城君だけなの?”
彼女からのメールには、いつも
「会いたい」の文字が見える。
少し親密な関係になってから、会う事ができたのは1度だけだ。
「そういう訳じゃないんだけど、いつも違う人が行くよりは、
同じ人が行ったほうが分かるし、どうせ行くなら
近くのところにも回って・・・なんて話になって。
まるで韓国ツアーだよ」
”それで、結局、今週末も帰ってこないんだ。
東京にいるのっていつも平日なんだよね。
土日に出張だと平日に休みがもらえるって言ってるけど
私は休みじゃないし。そんな遠くに住んでるわけじゃないのに、
なんだか遠距離恋愛みたいだね。”
確かにそうだ。僕の家から彼女の家まで、電車で約1時間30分。
定時で帰れば待ち合わせぐらいはできるはず。だけど・・・
「ごめんね」
僕はそんな風にしか、彼女に返せなかった。
”謝らないでいいよ。
ところで・・・お正月のことなんだけど。年末年始の休みはあるよね。
お正月。会いたいな”
「そうだね。」
最近は、彼女とのやり取りの後にも、
ため息しか出ない。
大阪で買った煙草も、もう、1箱
空になった。東京に戻るまで、もつかな?
2箱目のシールをやぶった。
「お前の彼女、相当待たされてるよな」
「う〜。それは俺も気にしてる」
「まあなぁ、出張で東京にいないのは、しょうがないけどさ」
「ん。行かないって言って、行かないわけにもいかなくて。
会えないのは俺もつらいよ。けど、いつも
”会いたい”ってメールもらうと・・・」
「俺には、良いアドバイスなんてできないな。悪いな」
「いや、いいよ」
「そういや、お前の彼女いくつだっけ?」
「3つ上」
「なら、お前の仕事の状況とか、分かってくれてもいいのにな」
「分かってると思うんだけど」
「・・・にしては、なんか我侭言ってんじゃない?」
「我侭かな。なんか、前の彼氏とひどい分かれ方したらしくて、
会えないと安心できないみたい。心配してるんだよな。」
「へ〜。前の男の話とかするんだ」
「ちょっとな」
「ふっきれてないとか?」
「切れてるよ」
・ ・ ・
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あけましておめでとうございます
Y2Kの関係で、僕は会社で2000年を迎えた。
「やっぱり、何事もなかったな」
「高城〜あけましておめでと〜。お前も飲め!」
「・・・帰ろうと思ってるんですけど。電車動いてるし」
結局朝まで付き合わされてしまった。
僕は重い足取りで家に帰った。
元気に初詣に向かう人に混じって、疲れた顔の僕がいる。
ピ
携帯にメールが届いた。
どうせ、”あけまして”メールだろう。なんて思いながら一応確認する。
彼女からだ。
”今東京駅に来てるの”
!
間を置かず着メロが流れる。彼女の携帯からだ。
「高城君?今いい?」
「うん。今、電車降りて家に向かってる」
「今から、行くから」
「え?今どこ?」
「もうすぐ、○○駅」
「じゃ、このまま駅で待ってるよ」
時間は大して待たなかった。
そのまま僕の家に行って、彼女はその日、僕の家に泊まった。
話す事は、ほとんどなかった。
普段のことは、ほとんど全てメールで話していたから。
今年のお正月は短かった。曜日の関係だ。
その後も彼女からは、”会いたい”
というメールが届く。
少しづつ、精神的に負担になってきている。
メールの内容から考えると、彼女のほうが深刻そうだ。
・・・・・・
僕は、このままの状態を続けていけるだろうか?
僕より先に、彼女のほうが限界に達するだろう。
・・・限界に?
「高城君。ちょっと話があるんだけど」
なんとなく嫌な予感がした。
「韓国の、例の会社からなんだけど。
エンジニア一人つけてくれって話が来てるんだよね」
一瞬何の事か分からなかった。
「海外に、赴任の話なんだけど。1年間」
なんだって?
「上のほうでは、もう誰か行くって事で決定したから、
誰かが行かなくちゃいけないんだけど。高城君、どうかなと思って、
安心して送り出せる人間って少ないからね」
うそだろ?まじで遠距離恋愛かよ!
彼女の事はどうする?この上更に会いにくくなるって知ったら・・・?
「それはちょっと」
「ちょっとは考えてよ」
「考えさせてもらえますか?」
「できるだけ早めに」
何てことだ!
僕は断った。しかし、上司の説得は続く。
仕事の事、彼女の事、
ほとんど毎日のように”会いたい”
・・・僕は、韓国へ行くことになった。
彼女へはメールで”さよなら”を送った。
彼女と彼女の友人から”ひどい男”と言われ、
彼女は手首を切った。・・・成功はしなかったが・・・
彼女の前の彼氏はひどい男だったらしいが、
僕もその一人という事になったようだ。
たくさんの”会いたい”というメールと、
”ひどい人”の文字を見ながら、
ナイフをつかんでいた。
彼女と彼女の友人からのメールに紛れていた僕の友人のメールの
”お前のせいじゃないだろ”
の文字を見て、
僕は彼女とのメールの全てを消去した。
僕は韓国へ向かって家のドアを開け、
荷物になるなと思いながら傘を開いた。
韓国なんて、すぐだ。時差もほとんどない。
慣れたはずのテイクオフのGは、苦しく感じた。
雲の上に出てしまえば、彼女のいる町も見えない。
雲がなくて、見えたとしても、飛行機でなら一瞬で通り過ぎる。
雲の中を通るとき、機体が少し揺れた。 |