スポーツコラムNo.59

アジア大会を終えて(2010/11/30)


−全体が低調の中健闘した球技−

盛り上がる五輪と比べてどうしても軽視しがちとなっているアジア大会。日本は圧倒的な力を誇る中国だけではなく、韓国にまで金メダルの数で大きく劣る大惨敗の大会となった。

個人競技が総じて振るわない中で比較的健闘したのが球技だ。五輪種目ではサッカーが男女とも金メダルを獲得し、バレーボール男子、7人制ラグビー男子も金メダルを獲得した。

金メダルを獲得できなかったとしても価値ある銀メダルもある。女子ハンドボールは格上の韓国を準決勝で破ったものの決勝では力が残っておらず銀メダルだったが価値ある銀メダルだったことは間違いない。

日本は球技でアジアを突破して五輪に参加することがなかなか出来ない状況となっており、この調子を持続してひとつでも多くの球技が五輪出場権を手にして欲しい。

−層の厚さを見せつけた男子サッカー−

サッカーは男女共に金メダルと中国人からの大量のブーイングが心地よいと感じているのではと思うほど素晴しいパフォーマンスを発揮した。

女子はベストメンバーを組み、ワールドカップの頂点を目指しているチームだけにこれまで優勝のない大会とはいえ十分優勝も考えられた(攻撃陣の不調が今後の気掛かりだが)。

誰しもが驚いたのはベストメンバーには程遠いメンバーで臨んだ男子の初優勝だろう。
この大会は五輪と同様のレギュレーションで23歳以下の選手にオーバーエイジ3人を加えた編成が可能となっている。
日本は来年から始まるロンドン五輪予選を見据えて21歳以下の選手のみで構成され、J1で主力として活躍している選手は所属クラブを優先させてJ1所属の控え選手とJ2スタメン級と大学生がメンバーに選ばれた。

正直今回選ばれたメンバーでロンドン五輪メンバーに選出される選手は数人いれば良い方だろう。
つまり今回メダルが取れなかった女子バレーのような主力は一切出さないメンバーで力を入れて臨む各国に挑んだ。

結果は全試合90分で勝利するという文句のつけようのない結果となった。押される試合もあったもののワールドカップから日本の新しい伝統になりつつある堅守を見せつけて7試合で僅か1失点に抑えた。

このメンバーで優勝できたことで日本サッカーの層の厚さを改めて感じさせた。アジア各国はこの日本のメンバーがほとんど総入れ替えされてさらに強くなると知ればショックを受けるのではないか。個人能力が上の者を揃えれば強くなるとは限らないもののドルトムントの香川や宇佐美を始めとする今回の選手とは比較にならないほど才能豊かな選手が控えている。

今回優勝できたのは地道に底辺を拡大していった成果だろう。現在J1J2合せて37クラブある。来年は38クラブに増え、数年後には40に増えるだろう。若手選手は試合を通じて急激に伸びる。控えでくすぶるよりもひとつ下のカテゴリーで実践を積んだ方がその選手にとっては良い可能性が高い。
もしもJリーグが開幕当時のままの10チーム、もしくはプロ野球と同じ12チームしかなければ若手が出場する場は香川や宇佐美のような別格の選手しかなかっただろう。今回所属クラブに配慮して選ばれなかった選手の中にもJリーグが10クラブしかなければレギュラーではない選手も多いだろう。

今回のメンバーよりも能力の高い選手がまだまだ多く控えている状況ながら堂々の優勝を果たしてしまうことによってJリーグがチーム数を増やしたことの成果が見られた大会となった。

−インドが台頭し始めた長距離女子−

このコラムでは陸上競技の中では日本で最も人気のある女子長距離に関して厳しいことを書いている。今回のアジア大会は日本が得意としてきたマラソンを含めても金メダルは0で3000m障害の早狩の銅メダルのみと陸上選手にしては待遇が恵まれている選手が多い5000m、1万m、マラソンはメダル0と大惨敗に終わった。

トラックシーズンが終わり、これから駅伝シーズンに移行するのでパフォーマンスのピークでないという言い訳をTV解説者はしていたようだが、現実に目を背けているとしか思えないほど他国のパフォーマンスが素晴らしかった。

5000mと1万mはエースの福士加代子が出場し、日本は手を抜いたメンバーを送ったわけではなかった。
しかし、両種目とも福士はメダルに手が届かず、メダル争いにさえ持ち込めなかった。
これまではケニアやエチオピアの帰化選手にやられるパターンでケニアやエチオビア出身のバーレーン選手に負けるのはある種織り込み済みだっただろう。

しかし、今回は純アジア人のインドのパフォーマンスが明らかに日本勢を大きく上回った。
スローペースで展開してスパートで負けたのであればまだ傷は浅かったかもしれない。しかし、今回のインド人のパフォーマンスは速いペースにもついてこれてラストスパートも日本人を圧倒する力を持っているという少し遅くしたエチオピア人かのようだった。
特に1万mを制したインド人選手のフォームは非常に奇麗でレース途中で福士には勝ち目はないと思わせるほど素晴らしかった。
帰化選手だけではなく、インドにも後れを取る時代が始まったのかもしれない。

−五輪に復帰する気は毛頭ないと受け取られても仕方ない日本野球−

オリンピックのアジア版のアジア大会。オリンピック競技以外の種目も採用され、空手などの各競技とも五輪種目採用へのデモンストレーションを行っているとも言える。

五輪から削除され、言葉では五輪復帰を口にしているものの、言葉と行動が伴っていないのが野球だ。
五輪では一線級のメジャーリーガーが参加しないことも五輪削除の一因となったが(薬物や普及の問題の方が大きいが)、五輪のアジア版のアジア大会で日本は同じことを行い、外から見ると本当は五輪復帰など望んでいないのではと思えるやる気のなさだった。

野球は人知れず銅メダルに終わり、3カ国しかまともにやっていない競技で3位だった。韓国は兵役免除が掛かっているだけに五輪と同様の本気ぶりで五輪に続いて金メダルを獲得した。

女子バレーのように直前まで世界選手権があったのならばまだベストメンバーを組めなくとも言い訳が立つだろう。しかし、日本シリーズに出場した2チーム以外はとっくにシーズンは終了していたはずで、やろうと思えば日本シリーズに出場した選手以外でメンバーを組むことは楽に出来たはずだ。
アジア大会からも削除される可能性のある野球がこのような対応を取っているのだから五輪復帰など100%あり得ないと断言していい。



必ずしも全競技がアジア大会にピークを合わせ、ベストメンバーを送り込んでいるわけではないものの中国はおろか韓国にまで大きく金メダルの数で劣った今大会。ほとんどの種目においてアジアで勝てずして世界で通用するとは考えにくく選手強化に大きな課題が残った。理想を言えばベストメンバーを送らずともメダルを取ってしまう今大会の男子サッカーのような層の厚さがあれば何も心配ないが、マイナー競技でそのようなことは望むべくもない。アジア大会は報道量も少なく、マスコミは一部の選手以外はほぼスルーしている。マイナー競技者が生きて行くには少しでもいいのでマスコミ露出が必要だ。
特にTV関係者は日本スポーツの未来を担っているという自覚を持って特定のスポーツ、選手に偏り過ぎずに日頃からマイナースポーツにも時間を割いて報道するべきだと感じる。
ファジーノ岡山と日本スポーツ ホーム スポーツコラム目次