スポーツコラムNo.56

日本のW杯を終えて(2010/7/7)


−基盤はJリーグ−

パラグアイにPK負けした直後の選手インタビューでゲームキャプテンを務めた長谷部誠は”ほとんどの選手がJリーグでプレーしているのでJリーグの方に足を運んで盛り上げてもらいたいと思います”と発言した。

長谷部自身はドイツのブンデスリーガに所属していて長谷部にとってJリーグは関係ないのではと思う人間もいるかもしれない。
しかし、長谷部自身もJリーグの重要さがよく分かっていることだからこその発言だと思う。そして半数近い国民が見ている中で心の整理もついていない敗戦直後にこのような発言をよくぞしてくれたと思う。

今回最も名を上げた本田も言っているように若いうちに海外に出ることは必要で海外で多くの日本人が活躍するようになることは日本のサッカーのレベルアップには必須だろう。

しかし、本田も長谷部もJリーグから世界に羽ばたいた選手であり、Jリーグを盛り上げてレベルの高いリーグにして行くことこそ安定して海外挑戦する選手を生み出す基盤になり、日本代表を強くする。

今回のワールドカップで改めて多くの人がJリーグに所属している選手も世界レベルのプレーが出来るということだろう。
とかくJリーグはレベルが低いと刷り込まれて見向きもしなかった層はかなり多くいると思われる。
このコラム等で何度も書いているようにJリーグのレベルは決して低くない。もちろんヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝トーナメントに出場するようなビッグクラブと比較すれば相当落ちるのは仕方ない。
レベルは低くない上に実力差が接近しているため世界でも有数の面白いリーグだと言えるだろう。日本がメキシコのような決勝トーナメント常連国となり中堅国になるためにはJリーグがより盛んになることが必要だ。

−サッカー潰しの危機を回避−

ワールドカップ前は選手選考、選手起用に大いに不満を持ち、ドイツの二の舞は避けられないと思っていた。老害と化している川淵-犬飼体制を崩壊させるにはワールドカップで惨敗することが近道だと思っていたが、メリット以上に受けるダメージがあまりにも大き過ぎることでジレンマがあった。

日本のサッカーを取り巻くメディア環境は年々悪化しており、早くサッカーから手を引きたいという態度が見え見えだった。

まずJリーグの放映権を持つTBSは地上波でのJリーグ中継を取り止め、さらに視聴率的には健闘していたスーパーサッカーを徐々に縮小し、金曜深夜に追いやって南アフリカでの惨敗を契機に潰す気満々のように見えた。

しかし、グループリーグを勝ち抜くとともに視聴率も他のコンテンツでは到底及ばない数字を叩き出して日本代表とワールドカップのブランド力が色褪せていないことを知らしめた。
さらに日本代表が絡んでいない他国同士の試合も高視聴率を記録し、ナショナリズムだけが国民の目を引きつけているわけではないことも明らかとなり、真の世界大会の凄さを実感した国民も多かっただろう。

−フランスを反面教師とせよ−

今大会最もチームの体をなしていなかったのがフランス。2006年ドイツ大会で準優勝と結果を出したものの監督の力というよりも”ジダンのために”という結束が大きかったように見えた。ジダンが抜けると選手個々はヨーロッパでも有数のタレントを誇りながらユーロで惨敗し、協会がドメネク監督を更迭出来ず、W杯予選でも力を発揮出来ず疑惑のハンドで本大会に進出するものの無残な結果に終わった。

協会が適切な判断を下せないと個々の力を持ったチームでもここまで弱体化してしまうという見本を示した。
日本は今回決勝トーナメント進出と素晴らしい結果を残したが、これは中心選手の不調というアクシデントを受けての方針転換が功を奏した。
もしも当初のプラン通りの中村俊輔を中心としたチームでW杯で臨んでいれば決勝トーナメント進出はまず不可能だった。

決勝トーナメント進出に浮かれて協会改革がおざなりになってしまえば4年後はフランスのような惨敗、あるいはアジア予選で敗退ということも考えられる。他の球技の協会に比べれば遙かにマシとはいえ世界一競争の激しいサッカーで協会が適切な判断が出来ないとあっという間に天国から地獄に落ちることはフランスが証明している(反対にドイツは地元大会を契機に協会の取り組みが功を奏している)。

ドイツ大会後に意図的なうっかり発言で責任逃れをし、今も権力にしがみついている川淵前会長と否定され続けている秋春制をしつこく再提案してくる犬飼会長に協会をうまく回していく能力があるとは思えないだけに協会がきちんと機能するのかどうかが最大の懸念事項だ。

近い将来の日本代表の成績に直結する次期監督選びの条件に犬飼会長が挙げているのが「哲学があり、頑固じゃなくて、マスコミとうまくやれる。カリスマ性がある。」となっており特に3つ目のマスコミとうまくやれるというのを条件に挙げるのは首を傾げざるを得ない。最もマスコミとうまくやったジーコ時代の末路がどうなったのか。むしろマスコミに迎合しないという条件をつけた方が良いくらいで不安を感じさせる次期監督選びとなっている。
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