スポーツコラムNo.49

バンクーバー五輪を終えて(2)(2010/3/2)


−ライバルの力が上だった上村−

2007-2008シーズン総合王者で2009年の世界選手権覇者という実績もあり、メダル有力候補と見られていた上村愛子。過去3度の五輪は7-6-5位とひとつずつ順位を上げていただけに4位に終わるのではとジンクスを心配する向きもあったが、実際にその通りになった。

上村のメダルを阻んだのはアメリカ勢だった。カナダのジェニファー・ハイルには上村が力を出し切ったとしてもハイルがノーミスで滑れば届かない可能性が高いことは予想されていたのでメダルの色を別にして上位3位の残りの2つの枠をアメリカ勢と争うとみるのが順当だった。

アメリカ勢は五輪直前に調子を上げてそのままハイルさえ破って1-3位を占めた。W杯のアメリカ大会で得点の出るアメリカ勢に対して五輪の審判ではないから五輪とは別だと言い聞かせていた上村陣営だが、五輪でもアメリカ勢の得点は高かった。

ただ別に審判が偏向しているわけではなく、明らかにアメリカ勢の出来が上村を上回っていた。五輪前のコラムを書いた後に見たW杯の映像でのアメリカ勢の滑りは速く攻撃的だったので嫌な予感はしたが、上村のアドバンテージを消し去るほどのスピードとターンの質だった。

上村自身もミドルセクションでやや暴走気味でこぶを吸収しきれないように見えてミスをしていたと思うが、力を出し切ったとしても上村のメダルはなかっただろう。

これまでの傾向はターンで優位に立った者が勝つという傾向だったが、多くの選手のターン技術が上がり、ターンの出来は甲乙つけ難くエアで差が出てくるかもしれない。
その点今回8位入賞した村田愛里咲に魅力を感じる。大きなエアが持ち味の村田はターンを磨きあげればソチで十分期待できる選手に成長する可能性があるように見える。

−五輪のプレッシャーを実感した男子500m−

スピードスケート男子500mは事前の予想は大混戦で誰にでもチャンスがあるとみられていた。

バンクーバーの前には誰が力を貯めているのかと思っていたが、有力選手で力を隠していた選手はおらず誰もが勝てるチャンスのある団子状態のレースだった。
それだけに各選手五輪のプレッシャーに次々と負けてしまった。

最有力とみられていた韓国の二人はメダルにさえ届かず、ひとりは大惨敗を喫し、銀メダルを取った長島は1本目でプレッシャーに負けて硬くなってタイムが伸びず、加藤は2本目で伸びを欠いた。
そして優勝をかっさらったのは大混戦とみられた中でもメダル候補に挙がらなかった韓国人選手だった。タイムそのものは金メダルを取っても不思議ではないが、多くの選手にとって100%の力を発揮できていれば上回れる範囲のタイムだったことも間違いない。
それだけにプレッシャーが掛からなかったことが明暗を分けたレースとなった。

−誇れる銅メダル−

男子フィギュアスケート史上初のメダルを獲得した高橋大輔。単に得点を追うだけならば4回転ジャンプに挑戦しない選択肢もありえたが、自身の競技者としての思いが迷いなく4回転ジャンプに挑戦させた。もし、4回転に挑戦することなくメダルを取っていたとしても、4回転に失敗してメダルを取れなかった時よりも後々後悔することになるのは明らかだ。
今シーズン一度も試合で決めたことのない4回転への挑戦はスポーツ選手としての志の高さに拍手を送りたい。

高橋は4回転で転倒するも気持ちを切り替えてその後の演技をまとめて銅メダルを獲得した。彼のプログラムは全選手中ナンバー1の演技構成点を叩き出したが、贔屓目なしに見てもナンバー1のプログラムと演技だった。

高橋は今後も競技生活を続けるとのことだ。男子選手は25歳前後の五輪で一線を退くことが多いだけに朗報だ。元々高橋は4回転をかなりの確率で成功できるところまで4回転をものにしていただけにまだまだ自分の限界を感じていないのだろう。4回転と表現力を兼ね備えた誰からも文句を言われない世界チャンピオンになってもらいたい。

−環境が結果に直結−

今回の五輪はスピードスケートで3個、フィギュアスケートで2つの合計5つのメダル獲得だった。

不況の影響もありウィンタースポーツを取り巻く環境は厳しさを増している。その中で恵まれた環境で練習出来たフィギュアスケートと500mの二人を筆頭としたスピードスケートも比較的環境に恵まれて練習に専念できる中でメダルを獲得した。

対してマイナースポーツでは練習環境、そり競技ではさらに技術的サポートが圧倒的に不足しており、満足な結果を得ることは不可能に近い。

カナダが強化費を100億円ほど投じて強化した甲斐があり、冬季五輪史上最多の金メダルを獲得した。日本も長野五輪で結果を出しており、強化費をつぎ込んで選手を強化すれば一時的にはメダル獲得数が増えることは分かっている。

しかし、一貫して多額の強化予算を組むのは難しい中でどのようなスタンスで五輪と向き合っていくのか考えなければいけない。一企業丸抱えの危うい企業スポーツから総合スポーツクラブの中の一部門として広く薄くサポートを受け、一般市民が気軽にスポーツを出来る環境を整える底辺を広げて頂点を高くして結果として五輪でも好結果が出ることが日本に求められていることだと思う。
だからといっていきなり完全に普及・育成にシフトせよといういうわけではなく、トップ選手を強化する予算もある程度はつけながら普及・育成に力を入れていくべきだ(普及育成には時間がかかる)。
他には税制の改正、金持ちが社会還元の意味合いでスポーツや文化に寄付をする風潮が出てこないと現実的にはなかなか総合スポーツクラブでも運営は厳しくなるだろう。
スポーツ文化の成熟と一人一人がスポーツを身近に感じるようになることがスポーツでも先進国になるための健全な発展の仕方だと思う。

中国や韓国が五輪で好成績を残しているが、決してやり方を真似をしてはいけない。中国や韓国はエリート選手をピンポイントで強化する方式でメダルを量産しているが、これでは一般国民のスポーツ環境向上には何の役にも立たないのだから。
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