スポーツコラムNo.47

チーム青森の五輪とその後(2010/2/24)


−大誤算の近江谷−

2008年の世界選手権で金メダルを獲得したカナダ相手に準決勝で勝利寸前までいってほとんどメダルを手に掛けていたチーム青森。

今回の五輪は前回の五輪から大きく成長したところを見せてメダルを獲得することが目標だった。

2008年の世界選手権(WCC)の時とはオーダーが異なり、2008年WCCでは石崎-山浦-本橋-目黒だったのを山浦をリザーブに置き、本橋をサードからセカンドに配置換えして空いたサードに20歳の近江谷杏菜を置いた。

確かに2008年WCCではセカンドの山浦が一番の弱点のように見えてここにトリノ五輪でもセカンドで活躍した本橋を入れてサードの近江谷が本橋並みのパフォーマンスを見せられればチーム力は大きく上がる計算にはなる。

しかし、初のシニアでの世界舞台が五輪という大舞台だったのとサードの重責で硬くなったのか近江谷のパフォーマンスは全くいいところがなく、長いリーグ戦で一度も好調なパフォーマンスを見せることなく終わってしまった。

サードが戦略通りに投げられないとラストストーンを投げる目黒に掛かる負担は非常に大きくなり、難しいショットを強いられることになる。よって目黒のショット成功率も下がる結果となり、相手に大量得点のチャンスを与えることになり、日本は手堅く1点を取らせることが難しかった。

序盤のアメリカ、カナダ、中国、イギリス(スコットランド)の強豪4戦で2勝2敗は結果だけを見ればまずまずの発進となったが、内容が良かったのはイギリス戦のみで少なくとも調子の悪かったカナダには勝たないといけない試合だった。

前半の4戦で絶好調だったリードの石崎とセカンドの本橋の調子が5戦目から落ちてきて日本はどうしようもなくなった。リーグ戦9戦を通して絶好調をキープするというのはほぼあり得なく、どこかで誰かが調子を落としたらそれを他の人間がカバーしなければいけない。
しかし、近江谷が一貫して不調だったために序盤の不調から調子が上向いていたとは言え目黒ひとりの力でそれまでの劣勢を挽回するのは不可能だった。

今回のチーム青森は2008年の時よりもショットの精度が非常に悪く、近江谷の不調が伝染してしまう結果となった。
カナダのアイスが曲がることは百も承知のはずだと思われるが、その曲がるアイスに対応できるだけの技術力が足りなかったのかもしれない。あるいは地元日本で行われたWCCでもカナダのアイスメーカーが作った氷に苦戦していたので曲がる氷を苦手としているのかもしれない(結局技術力が足りないということだが)。
TV解説では近江谷は戦略面で欠かすことのできない存在でショットが悪くても代えることができないと言っていたが、この五輪を育成の場と割り切るならともかく、スイス戦に勝てば準決勝進出がほぼ見えていた状況だっただけに戦略面はスキップの目黒に全権委任して2008年のオーダーに戻してドイツ、スイスと戦いたかった。いくら近江谷が戦略面で貢献できるといっても戦略を実行できなければ戦略は成り立たないのは誰でも分かることだ。
それだけに中国戦で何が悪いのか把握できず自分を見失っていた近江谷を引っ張り続けた阿倍監督の責任が一番重いように思える。

−継続性が何より大事−

チーム青森にとってはこれからが重要だ。カーリングは経験が必要なスポーツだというのはTVで見た方ならお分かりだろう。カーリングは他のスポーツよりも圧倒的に選手寿命が長い。そしてチーム青森の選手はみな若い。一番年長の石崎でさえまだ31歳だ。海外の選手では40代の選手もゴロゴロいる。

今回の五輪でカーリングの面白さに気付いた方も多いだろう。カーリングは日本人に合った種目だ。日本が成長を続けるには選手が安心してプレーできる環境を整えることが大事となる。トリノ五輪後に小野寺と林を失ったことを繰り返してはいけない。トリノ五輪前まではカーリングはあまり知られておらず選手の環境は劣悪で全く将来に展望が開けない状態だったので二人が辞めてしまうのも無理からぬことだった。

日本人に合っているからと言って簡単に五輪出場が可能ではないということも肝に銘じておかないといけない。カーリングは五輪前の3大会の世界選手権の獲得ポイントで五輪出場が決まる。
世界選手権に3回連続出場できればほぼ五輪は当確だ。しかし、2回しか出場できなければ1回はベスト4に近い成績を出さないと落選もありえる。

チーム青森は2009年の世界選手権に出場していない。というのも韓国がホスト国だったためにアジア・太平洋枠が1となり、心境著しい中国と争わないとならず、枠を取れなかった。

今の中国は日本のレベルのかなり上を行っているのは明らかで例え日本に負けて、さらに韓国にも負けるということはほぼあり得ない。しかし、日本は中国に勝つチャンスもあるが、韓国に取りこぼすことも十分ありえ、実際2009年のWCCの枠をかけた大会では韓国にも負けて3位だった。せっかく可能性を感じさせる種目だけに韓国には絶対取りこぼすことはないほど力をつけるために充実した環境で強化を図ってもらいたい(実力が上がれば必然的にコンスタントにベスト4を狙える)。

4年のサイクルで中心選手が抜け、新しい選手の加入を繰り返してしまえばなかなか大きな進歩は望めない。かといってチーム青森を脅かすチームもまだ出てきておらず当面はチーム青森に五輪の枠取りを含めて頼らざるを得ない状況だ。
可能性を感じさせる種目なので余計に強く思ってしまうのかもしれないが、JOCやカーリング協会が環境面の充実、普及、育成、強化をうまくやって欲しいと思う。しかし十分な資金力は望めないので他からの資金援助も重要になる。例えば五輪で入賞した団体種目にはtotoから重点的に強化費を投じるなどの策もあっても良いと思う(日本は夏季を含めて団体種目、特に多くの球技がアジア予選を突破すらできないほど弱いだけに希望の持てる団体種目は貴重)。それぐらいカーリングを強化する価値はある。
ウィンタースポーツを取り巻く環境は非常に悪く、先細りが懸念されている(企業が支えられなくなり、選手層もベテランが多い)。国民が五輪でメダルを期待するのならばそれ相応の環境を与えなければフェアでないと思う。
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