スポーツコラムNo.45

バンクーバー五輪を前に(2)(2010/2/7)


−上村愛子に過大な期待は禁物−

2007-2008シーズンの総合王者で2009年の世界選手権を制してフィギュアスケートを除けば最も期待され、メダル候補として注目を浴びているモーグルの上村愛子。

今シーズンの上村は優勝はなく、2位が最高で予選落ちも複数回あって安定感に欠き、トリノ五輪金メダリストで今季好調の地元カナダのジェニファー・ハイルが優勝候補筆頭であるのは間違いない。

ただ上村にとって順調に来なかったことが逆に良い成績に繋がる可能性がある。もしも今季優勝を重ねてバンクーバーに乗り込んでいたとすれば日本のメディアは上村をメダル確実で金メダル最有力候補として過剰なプレッシャーを上村にかけていただろう。

上村は4度目の五輪で過去3大会は7位、6位、5位とひとつずつ順位を上げている。メンタル的に弱くはないが、長野で金、ソルトレイクで銅を獲得した里谷の勝負強さと比較すると実力以上の結果は望めないように見える。

ただ上村が実力を出し切ればメダルは確実に取れるところまでこの4年間で実力を上げてきた(ターン重視のルール変更も上村には追い風となっている)。
過剰な期待はせず、まず上村のパフォーマンスをしっかり発揮して欲しい。自分自身の力さえ出れば結果は後からついてくる。上村の敵は自分自身になる。

−ジャンプ個人は厳しい戦い−

長野五輪で団体で金、個人でもラージヒルで船木が金メダルを獲得した絶頂期からルール変更の対応に失敗して長らく低迷してようやく復調を見せているジャンプ。

ジャンプはノーマルヒル、ラージヒルの個人2種目と4人が2回ずつラージヒルを跳んだ合計得点を競う団体があるが、個人2種目は非常に厳しい戦いになる。

マスメディアでは37歳の葛西が取り上げられることになると思うが、残念ながら葛西は一桁順位は狙えても相当な幸運がないとメダルには届かない。

確かに葛西は非常に調子を上げていて良い状態で五輪を迎えたように見える。しかし、ライバルの壁は非常に厚いというのが正直な感想だ。まずオーストリア勢は全て葛西の実力を上回る。シュリーレンツァウアー、モルゲンシュテルン、ロイツル辺りが出場してくると思われるが、その他にもジャンプ週間を制したコフラーもおり、誰が出てきても金メダル候補というオーストリアの充実ぶりが突出している。

さらに現在ワールドカップポイントトップでソルトレイク五輪金メダリストのシモン・アマンも金メダル候補で今季から復帰したフィンランドのヤンネ・アホネンも調子を上げて悲願の個人金メダルを狙えるパフォーマンスを取り戻してきた。
その中に葛西が割って入れるとはなかなか思えない。入賞は実力で狙えるところまで来ているが、メダルとなると風が葛西の時だけ向かい風が強く吹くなどの相当の運に恵まれない限り厳しい。

−団体は銀メダル以降が大混戦−

個人よりも団体の方がメダルの可能性は高い。金メダルは充実のオーストリアが獲得する可能性が非常に高いが、銀メダル以降はどの国が来てもおかしくない。

4人強力なメンバーを揃えられているのはオーストリアのみで、他国は計算できる選手が足りず、全く読めない。

ジャンプといえばフィンランドのイメージがあるが、復帰したアホネンのみしか計算できる選手がいないという惨状で、他の選手のパフォーマンスは出たとこ勝負の感が強い。
ドイツは軸となる選手がおらず、メダル候補であることに間違いはないが、もう一押しが足りない。

日本は葛西と伊東がそれなりに計算できるので残りの二人がいかにジャンプをまとめられるかがメダル獲得の鍵となる。
キーポイントは岡部が復調できるかになるだろう。腰痛のためW杯転戦を中止するほど体調はよくなく、五輪代表も危ぶまれたがぎりぎり代表に滑り込むことが出来た。

当初W杯の成績で代表を選出しようとしたものの岡部が離脱したことにより国内での試合まで選考を引き延ばしたのは岡部の力が必要だと現場も感じているからに違いない。
1月の試合のコンディションでは力にはなれないだろう。どれだけ岡部が調子を上げて戦力になれるかが日本がメダルを獲得するためのキーポイントとなる。

今回のジャンプ団体は銀メダルの可能性もあれば惨敗の可能性もある紙一重の試合になるだろう。どの国にもメダルの可能性があるだけにプレッシャーに打ち勝って自分のジャンプが出来るかが勝負の分かれ目となる。大舞台の経験豊富な岡部と葛西がいるのは日本にとってはアドバンテージになるかもしれない。
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