スポーツコラムNo.44

バンクーバー五輪を前に(1)(2010/1/28)


−多くの日本人の最注目点は浅田が金メダルを取れるかどうか−

4年前のトリノ五輪ではフィギュアスケート女子で荒川静香が金メダルを取ったのみとメダル1個のみだった。
今回のバンクーバー五輪での多くの日本人が注目する点は浅田真央がキム・ヨナを倒して金メダルを取れるかどうかだろう。

女子フィギュアのメダル有力候補は4人。2008年世界王者でショートプログラム、フリープログラム合わせて3度のトリプルアクセルに挑戦する予定の浅田真央と同い年でトリプルフリップ+トリプルトゥループの大きな3回転+3回転が武器の韓国の金ヨナに地元カナダで今年は調子はいまひとつで安定性に欠けているもののジャンプさえ決まってくれば演技構成点が非常に見込まれるジョアニー・ロシェット。そして2007年王者で大技4回転サルコーを諦め、3回転+3回転さえ消極的になり、確実性で勝負をするようになった安藤美姫。

この4人がショート・フリーで1ミス以内の演技に収めれば他の選手はメダルのチャンスはないだろう。
4人全員がミス連発の自爆大会になれば意外な金メダリストとなる可能性も0ではないが、金メダルに関してはこの4人の中から出ることになるだろう。

日本の期待を一番受けるのはやはり浅田真央だろう。ショートプログラムでトリプルアクセルが決まるかどうかがまず第一のポイントとなる。ジャッジの頭には浅田のトリプルアクセルは回転不足になりやすいという情報がインプットされているだけに有無を言わせぬクリーンなジャンプが欲しい(微妙な出来だとダウングレード判定にされる可能性が高い)。

トリプルアクセルとその後跳ぶトリプルフリップが決まってさえいれば浅田にとってショートプログラムはそれで十分だ。例えトップに立てなくともフリーで十分逆転可能な点数は出るはずだ。最悪のシナリオはトリプルアクセルに失敗して転倒し、最終グループに残れないことだ。浅田にとってフリーでは敵にならないヨーロッパ勢のコストナー、コルピなどはショートでは65点近く取ってくる可能性があり、トリプルアクセル不発で60点前後では最終グループに残るのは厳しくなる。

金メダルを大きく左右するものとして外せないのがジャッジだ。特にテクニカルスペシャリストのジャンプの判定をするジャッジの傾向だ。回転不足を厳しく取るのか甘めなのか試合をしてみないと分からないというのはスポーツとしてはどうかと思うが、それが現実だ。

回転不足を厳しく取られると日本勢とアメリカ勢は厳しい。浅田のトリプルアクセルがダウングレードの嵐だと浅田は戦えない。安藤はトリプルルッツ+トリプルループのコンビネーションを入れることが金メダルを取るには必須だが、トリプルループのコンビネーションは浅田がどんなに綺麗に跳んでもダウングレードされ続けているので安藤も最近では2回転の安全策に走るようになった。しかし、トリプルトリプルがなければ棚ぼたにならない限り安藤が金メダルを掴むのは無理だろう。

アメリカ勢も3+3にチャレンジするもダウングレードの多いフラットに両親が日本人の長洲未来もダブルアクセル+トリプルトゥループを持っていて全米選手権では綺麗に着氷したものの不可解なダウングレード判定をされていた。

これまでのジャッジの傾向としてトリプルループのコンビネーションは有無を言わせずダウングレードし、キム・ヨナのトリプルフリップ+トリプルトゥループは回転が足りなくても認定と日本勢には非常に厳しいジャッジの傾向を示していただけにまさにジャッジのさじ加減でメダルが決まる可能性も十分ある。

−ヨーロッパ勢に敵はなし−

1月中旬に行われたヨーロッパ選手権を見た感想はメダル争いに絡んできそうな選手はいないということだ。ヨーロッパで唯一メダルの可能性があるとすればイタリアのカロリーナ・コストナーだ。

個人的にはコストナーの滑りは好きだが、コストナーがミスなくフリーを終えるところを想像できない。ショートをうまく滑って65点前後取れたとしてもフリーで120点取れるとは思えない。フィンランド勢もショートはそこそこの点が出るかもしれないが、フリーは恐れるに足りない。ヨーロッパは他の地域と比較して一段も二段も落ちてしまうというのが正直なところだ。

−日本人が注目する長洲は?−

両親が日本人で日本語も十分話せる長洲未来が全米選手権で2位に入り、五輪代表に決まった。
両親が日本人ということで日本からの注目も浴びることになるだろう。

長洲は昨シーズン成長と怪我もあって不本意なシーズンを送り、今年はコーチと練習場を変えて心機一転巻き返してきた。

全米選手権の演技を見ると優勝したフラットよりも全然出来は良く、正直ジャンプしか長所がないフラットよりも長洲の方がポテンシャルを大きく感じるが、いかんせん実績がない。

長洲がどんなに素晴らしい演技をしてもショートプログラムの演技構成点は25〜27点の間だろう。対して浅田やキムは30〜32点と5点の大差がファイブコンポーネンツでついてしまう。
全米の演技が再現できれば十分メダルが取れるだけの力はあるだが、悲しいかな演技構成点が抑えられることになるだろう。目の前の演技だけで点数が決まらないのがフィギュアスケートの採点に多くの人が疑問を持つことに繋がっている。

−演技を楽しめれば鈴木にもメダルの可能性も−

日本代表3人の中で最もプレッシャーが掛からないのが鈴木明子だろう。グランプリファイナルでは3位表彰台を獲得しており、上位が崩れればメダルを取っても不思議ではない力をつけている。
特に鈴木は観客を引き込む魅力があるだけに観衆を味方につければ180点オーバーでメダルに届く可能性も十分ある。

個人的には順位よりも見ている者を元気にさせる演技を見られるだけで十分だが、多くの日本人は結果の方を重視するだろう。今年の鈴木は安定感があり、メンタル面で一皮むけた感があるので自分の実力を最も発揮できるのは彼女かもしれない。

−安定感抜群のプルシェンコを追う大勢のメダル候補−

トリノ五輪金メダルのエフゲニー・プルシェンコが今シーズンリンクに戻ってきた。そして復帰してからGPシリーズ、ヨーロッパ選手権とショート・フリー共に4回転+3回転をいとも簡単に成功させて圧倒的な技術力を見せ付けて圧勝している。

プルシェンコの4回転+3回転の安定感は他の追随を許さぬもので誰もが金メダル最有力候補に挙げるだろう。

プルシェンコがメダルを取るのはほぼ確実であと2つのメダルを誰が獲得するかとなると予想がつかない。

ざっと名前を挙げるだけで4回転ジャンプを持ち味にしているブライアン・ジュベールに演技構成点ではプルシェンコの上を行き、ヨーロッパ選手権ではフリーで4回転を決めてきたランビエール、アメリカにはライサチェックにアボット、地元カナダにはチャンと日本の高橋、織田を含めて多くのメダル候補がひしめき合っている。

高橋と織田がメダルを獲得するにはまずショートでミスをしないことが肝心だ。二人ともショートでは4回転には挑戦せずトリプル+トリプルを綺麗に跳んで加点勝負でポイントを稼ぐ作戦だ。
4回転に挑戦しないということでショートでトップに立つということはないだろう。しかし、他の4回転ジャンパーが揃ってビシッと決めてくるとはまず考えられない。とにかくショートを完璧に滑ってできれば85点前後、最低でも80点を超える得点をマークして最終グループに残ることが重要だ。

男子はフリーで大きく得点差がつきやすいだけに最終グループに残れば何が起きるか分からない。もちろん高橋、織田とも4回転に挑戦してくると思われるのでそこでダウングレードなくしっかりと着氷してくることがメダルを手繰り寄せることになる。

プルシェンコ以外はどの選手も安定感という意味ではいまひとつ欠ける選手ばかりで順位予想は非常に難しい。五輪のプレッシャーも相まってミスなく滑る選手は少ないだろう。しかし、ノーミスで滑ることができればプルシェンコさえ食えるだけの力を持っている選手が大勢いるだけに金メダルを含めて誰がどの色のメダルを獲得するのかは分からない。それだけに日本勢の複数メダルもあれば大惨敗もありえる開けてみなければ全く分からないのが男子フィギュアだ。
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