スポーツコラムNo.38

2016年五輪採用競技選考について(2009/8/15)


7人制ラグビーゴルフの推薦決定−

8月13日に2016年五輪に新たに採用する競技の絞り込みが行われた。野球、ソフトボール、ゴルフ、7人制ラグビー、空手、スカッシュ、ローラースポーツの7競技の中から2競技に絞り込まれた(選ばれた2競技が10月9日にIOC委員過半数の賛成を得られれば正式に2016年競技として認められる)。

2種目の絞り込み方法は理事会で14票の内8票を獲得した競技が正式決定となり、8票に届かない場合は最低得票の競技を除外して再投票を行うという手順で8票を超える競技が出るまで行われる。
なお投票権を持つ14人の出身地域は欧州6人(ドイツ・イタリア・ノルウェー・ギリシャ・スイス2人)、アジア3人(日本・中国・シンガポール)・アフリカ3人(南アフリカ・ナミビア・モロッコ)アメリカ大陸(メキシコ・プエルトリコ)2人となっている。

投票経過は次の通りとなった。

第1ラウンド
野球 2
ゴルフ 1
空手 3
ローラースポーツ 0
ラグビー 7
ソフトボール 1
スカッシュ 0

第2ラウンド
野球 1
ゴルフ 1
空手 1
ローラースポーツ -
ラグビー 9
ソフトボール 2
スカッシュ -

ラグビーが2回目の投票で8票を超えたためにまずラグビーが推薦決定となった。1回目の投票でラグビーが決定寸前まで行き、2番手に空手がつけて有力視されていたゴルフがたったの1票だったと意外な結果なっている。そして2回目の投票では空手票が逃げて浮動票が多いということが明らかなのも2番目の競技決定に影響してくる。

2競技目決定第1ラウンド
野球 2
ゴルフ 3
空手 5
ローラースポーツ 1
ラグビー -
ソフトボール 2
スカッシュ 1

最下位決定戦
野球 -
ゴルフ -
空手 -
ローラースポーツ 4
ラグビー -
ソフトボール -
スカッシュ 10

2競技目選出1回目の投票でトップだったのは空手で1競技目の時よりも2票上積みした。そしてゴルフが3票を獲得し2番手になりラグビー票が空手と同様に入っている。野球とソフトボールは1競技目選定時から票を伸ばせず支持の広がりがないことを伺わせる。そして1票同士で最下位となったローラースポーツとスカッシュで最下位決定戦を行い、ローラースポーツの敗退が正式に決まる。

第2ラウンド
野球 2
ゴルフ 6
空手 4
ローラースポーツ -
ラグビー -
ソフトボール 2
スカッシュ 0

第2ラウンドになると空手が1票減り、ゴルフが3票を伸ばし逆転する。空手の支持基盤の弱さがここでも見られ、ゴルフは空手と投票先がなくなったローラースポーツから票を奪っている。そして野球とソフトボールは相変わらず票が変わらず特定の人間が投票している。

第3ラウンド
野球 1
ゴルフ 7
空手 4
ローラースポーツ -
ラグビー -
ソフトボール 2
スカッシュ -

第3ラウンドになるとゴルフが野球票を切り崩し1票上積みして決定にリーチをかける。

第4ラウンド
野球 -
ゴルフ 9
空手 3
ローラースポーツ -
ラグビー -
ソフトボール 2
スカッシュ -

第4ラウンドでは投票先がなくなった野球票1票と空手から1票切り崩してゴルフに決定となった。
この投票結果を見ると可能性があったのはラグビー、ゴルフ、空手の3競技だったことが分かり、野球とソフトボールは支持に広がりがなく問題外だった。
ラグビーの支持が厚く、ラグビーが抜けた後の票の取り込みと空手の支持を切り崩してゴルフが最終的に推薦を勝ち取った。
投票経過を見る限り空手はもっと戦略的になれば推薦を取り付けられたのではという感じがする。ラグビーの支持が厚いということを事前に察知できていれば、ラグビー支持委員にラグビーが抜けた後の根回しを十分に行っていればもっと票の上積みが狙えたかもしれない。そして日本がこだわっていた野球とソフトボールを捨てて空手に一本化していれば(日本がどちらに投票していたのかは分からないが)それこそゴルフに票が流れる前に一気に決める可能性があっただけに空手を全面に押し出す作戦を採れなかった作戦負けと見ることも出来る。

−ヨーロッパの陰謀か−

この2016年に採用する推薦競技決定のニュースを一番初めに取り上げたのが民放ではダントツの視聴率を誇る人気番組「報道ステーション」。
その日の解説担当だった一色清は「IOC委員の半数以上はヨーロッパ出身ですから野球への理解が得られませんでしたね。」
と、まるでヨーロッパの陰謀で野球が五輪から消えたかのようなコメントをした。野球の問題点はまず人気がないこと。世界中で一番国内人気の高い日本(アメリカはアメフトがダントツの1番人気)の隣であった北京五輪でさえ入場料は最安値に設定されるほど人気に乏しい(日本の近くでの開催でこのような扱いならばヨーロッパや南米開催になれば会場がどうなるかは目に見えている)。

そして薬物汚染が酷いことも挙がる。アメリカ大リーグは世界アンチドーピング機関(WADA)基準でドーピング検査を行っておらず(血液検査を行わず尿検査のみでこれではヒト成長ホルモンを検出できない)、他の競技では当たり前に出来る選手に対しての抜き打ち検査も出来ない状態となっている。
アメリカだけでなく日本も薬物に対する姿勢は鈍く、グリーニーと呼ばれる覚醒剤等の薬物蔓延に関しても臭いものには蓋をしている状態で大手メディアと結託している状態だ(マスメディアは報道しないことが最大の援護射撃)。

野球が五輪に相応しくない理由を挙げれば枚挙にいとまがないが、野球場の建設コストや五輪後球場が負の遺産になることも野球が五輪から外されるひとつの要因となっている。あとは大リーグのトップ選手が参加しないなど野球が五輪から外れる理由は数多くあるにも関わらずまるで野球が除外されたのはヨーロッパの陰謀というコメントを出すのは的外れにもほどがあり、地上波報道の質の低さを象徴している。

マスメディアの質の低さと言えば、北京五輪で「日本が金メダル→世界中が感動→野球が五輪復帰」という普通に考えれば失笑レベルの展望を語っていたことも思い出される。「郵政民営化をすれば全てが良くなる。郵政民営化に是か非か。」とだけ言って3分の2の議席を獲得した国の話と考えれば納得してしまうのは笑い事では済まされない深刻な状態かもしれない。税金すら使用していない郵政の民営化で全てが良くなることなどあり得ないのは少し考えれば分かる話でそれを強く主張しなかったマスメディアはスポーツ報道に限らず腐っていおり(ひとつフォローを入れるならば郵政民営化反対の票の方が若干多かったが選挙制度の仕組みで自公が3分の2以上を獲得した)、TV離れが起きるのは当然のように見える。

−ソフトボールの落選は可哀相か−

野球の落選は当然としてもソフトボールの落選に同情の声も聞かれる。前述の報道ステーションでもそうで、野球にはWBCがあるからいいが、ソフトボールは可哀相ですねと語っている。ドーピング検査もいい加減で大陸予選もない、トップ選手も不参加&辞退続出のアメリカのための集金大会である似非世界大会のWBCを持ち上げるのも斜陽産業の地上波TVらしいが、ソフトボールが落選したのも当然の帰結としか言いようがない。

北京五輪後のコラムにも書いたが、ソフトボールが積極的に改善しようとしない野球とセットにされることを嫌っても、男子ソフトは女子ソフト以上に普及しておらず、ソフトボールが生き残る道は野球の女版として五輪に相応しい体制を取るよう野球を説得して生き残るしか道がなかった。五輪復帰に消極的な野球とは違うと言い張ったところで既に詰んでいた(IOCは男女とも出来る競技を優先しようとしており、唯一女子がなかったボクシングも2012年から開催される)。

また落選決定後のコメントで金メダルに貢献した上野のコメントとして「ショックを受けている。北京五輪で日本チームの一員として金メダルを獲得したことで、五輪競技への復帰にプラス材料になると信じていた。子供たちの世代に夢をつなぐことができなかったことが、ただ悔しくて残念。」
山崎拓日本ソフトボール協会会長は「北京五輪での日本の金メダル獲得が世界への発展、普及の印象をIOCに与えられたことを信じ、復帰を目指してきたが夢はかなわなかった。道のりは長いが、2020年の復帰を目指し地道な努力が必要だと考えている。」
と発表されているが、これも北京後のコラムに書いたように3大会連続アメリカ・日本・オーストラリアの3ヶ国でメダルを独占している状況では金メダルがアメリカから日本に変わったからといって普及が進んでいるとは誰も見てくれないのは普通の感覚で日本が金メダルを取ればプラスというのはあまりにも楽観的な希望だったとしかいいようがない(それにすがるしかないほど追い詰められていたとも言えるが)。

−政治力以前の問題−

2016年の五輪に立候補している東京。10月2日に開催都市が決まるが、東京招致の顔となる「東京オリンピック、パラリンピック招致大使」の顔ぶれを見ると唖然としてしまう。

五十音順に
有森裕子、クルム伊達公子、野口健、萩本欽一、間寛平、古田敦也、星野仙一、みのもんた、山下泰裕となっている。

これから五輪を開催しようというのに削除された競技の関係者が3人も入っているセンスのなさに呆れて物が言えず(2005年に除外が決まっており一旦外れたものがすぐ復帰するのは非現実的)、IOCに喧嘩を売っているのかとも思ってしまう。これで東京に決まれば奇跡としか言いようがない。

その野球関係者の星野仙一は今回の野球落選に関して暴言も吐いている。「野球の面白さがIOCに理解されず、非常に残念だ。野球が復活の機会を逃す一方で、こう言っては悪いが、(一部の)注目度の低い競技が実施競技に残っている。
このような発言をするような人間が五輪の招致大使をしていることが海外に伝わるとそこでゲームオーバーなのは間違いないだろう。星野はこの種の発言は今回だけでないだけに他の発言も合わせて取り上げられると言い訳は利かない。

日本はスポーツのロビー活動において政治力がないと言われるが、東京五輪の招致委員の顔ぶれや今回の追加競技選定における現状認識の甘さを見るにつけ、政治力以前の問題にしか見えない。
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