スポーツコラムNo.35

メディアリテラシー(2009/4/13)


記者クラブ

スポーツに限らず、相当数の日本人はTVや新聞の情報を鵜呑みにしてしまう傾向が非常に強いと思う。
あるある大辞典の捏造事件が大々的に取り上げられて、視聴者の憤りが報道されていたりもしていたが、筆者から言わせればTVの情報を妄信するほうにも問題があり(そもそもダイエットの基本は運動と食事にある)、情報を理解し、消化してその情報が信頼に値するかどうかを自分自身の責任で判断するべきだ。

日本人がメディアの情報に弱いと痛感させられたのが民主党の小沢代表秘書が逮捕された事件でもそうだ。

今回の小沢代表の事件で問題なのは検察側が記者クラブに情報を小出しにリークして世論を「小沢は悪い人間だ」という風に刷り込ませることに記者クラブが加担していることにある。検察は国家公務員の守秘義務で情報を漏らすということは違法行為に当たるが、リークは半ば常識となっている。記者クラブの記者はリークされた情報を伝えないと次からは情報がもらえないので記事にせざるを得ない。ジャーナリズムは反権力を標榜しなければいけないのが権力に従順にならざるを得ないのが大手マスメディアで構成される記者クラブ制度だ。
この記者クラブによる無批判な垂れ流しを日本人の多くは自分が強く興味を持っている以外の事に対しては無批判に受け入れて真実だと思って信じ込む傾向が強く、権力側に思うがままに操作されてしまうことがある。

プロ野球にもこの記者クラブ制度があるようだ。だからどのマスコミもプロ野球の扱いが大きいひとつの理由であることが分かる。そしてプロ野球の報道に中身がないのもこの情報を独占的に得られる記者クラブの弊害だとも言える。
野球が日本スポーツ界のスタンダードになっていることはスポーツに関わる記者のレベルを下げてしまう。
オシム前日本代表監督が、記者相手に意地悪とも取れる受け答えをしていたが、これも日本の記者のレベルが低いことを嘆いてあのような応対をしていたのだろう(元々の性格が皮肉屋というのもあるのだろうが)。

記者クラブ制度がないはずのF1の取材陣にも記者クラブのような状況が起こっているようだ。何年か前に筆者がスカパーのF1解説者を務めているジャーナリストに直接会って話を聞いたところ、日本人の取材陣はひとつに固まって仕事をしており、特定のジャーナリストが得てきた情報を皆で共有しているそうで、それぞれが自分の足と頭を使って情報を掴もうとする姿勢はないという趣旨の話を聞いた。
そして話を聞いたジャーナリストは独自に動いていて「あんな人間が作る雑誌なんて読む価値がない」という趣旨の話をしていて日本のF1雑誌についてバッサリと斬っていたのが印象的だった(普段は温厚なキャラクターで有名なのだが)。
確かに雑誌がきちんとレースを分析した記事を書いていればこのサイトの必要性もそれほどないと思われる。

メディアリテラシーを養う−

スポーツに関してメディアリテラシーの重要性を感じたのはWBCに関する報道だ。CMか何かでサッカーW杯、五輪に続く三大スポーツのひとつという報じ方は呆れて物が言えなかった。
サッカーW杯や五輪とWBCを同列に扱うことなど世界のスポーツを少しでも興味がある方ならば断じて出来ないことはすぐ分かる。

WBCはアメリカ大リーグが主催する国別対抗オープン戦という位置付けがもっともしっくりくる。
出場国もたったの16ヶ国で大陸予選もない上、参加国はアメリカのリーグ主催の招待状を受けて参加するという他の競技のようなその競技を統括する国際機関が主催するわけではない(野球にも国際野球連盟主催のW杯はあるが、日本は一流選手を派遣する気は全くない)。

投球制限があるということも、その競技での世界最高峰の戦いとは口が裂けても言えないひとつの大きな理由になる。バスケの試合で出場時間に制限がある大会が誰もが認める世界一を決める大会になるとはとても思えない。

そしてWBCが世界三大スポーツとは絶対言えない理由として最高峰の選手のモチベーションの低さだ。メジャーリーガーは怪我した場合の保障がないなどの理由でWBCに参加することに消極的で非常に多くの辞退者を生んでいて、辞退者でメンバーを組んだほうがいいチームができるほどだった。
サッカーW杯でメンバーに選ばれて次々と辞退者が出るだろうか。メッシやクリスティアーノ・ロナウド、カカ、ルーニーといった実力者が揃って国内リーグの方が大切だからW杯は出ないと言うだろうか。それほどメジャーリーガーにとってはWBCは特別力を入れるような大会だとは認識されていない。

そんな欠陥だらけの世界的にはほとんど注目されず、開催されるアメリカ本国でさえ興味を持たれていない大会をさもワールドカップと同等な大会かのような報道をする日本のマスコミ。それを素直に信じて視聴率が40%に届かんとするほど夢中になった日本人のメディアリテラシーの乏しさに落胆の気持ちさえ覚える。

教育というのは国を繁栄させる上で非常に重要な要素だと思うが、新聞やTVなどのメディアが必ずしも正しいことを伝えるものではないということを小学校の段階から教えるべきだと思う。
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