スポーツコラムNo.33

やっぱりおかしいフィギュアスケート採点方法(2008/12/29)


ココおかしいと思いませんかNo.46でも関連コラム「やっぱりおかしいフィギュアスケート採点」(バンクーバー五輪女子SP後に執筆)を掲載
−見た目との大きなギャップ−

先日行われた全日本フィギュア女子でトリプルアクセル(3A)を2度決め、近年不安定な3回転-3回転のコンビネーションジャンプもスムーズにランディングし、トリプルサルコーが1回転になったのを除けば非常に出来の良い演技をしたかのように見えた浅田真央。
かなりの高得点が期待されたが、出てきた得点はトリプルアクセルもなければ3回転-3回転のコンビネーションジャンプも1つもない保守的なプログラムで観客の声援も今ひとつだった村主章枝に4.12点も負けるという一般視聴者は完全に置いてけぼりの結果が発表された。

村主の得点がやや出過ぎているという問題もあるが、浅田の得点が大きく伸び悩んで村主にさえ大きく離されたのは回転不足のジャンプに対する得点計算の仕方によるところが大きい。
ジャンプの回転は1/4までの回転不足は認定されて、それ以上回転が不足すると回転不足(ダウングレード)に認定される。つまり3回転ジャンプを行ったとして2回転と3/4以上回っていれば3回転に認定され2回転と3/4未満ならば回転不足とされて2回転ジャンプの基礎点しかもらえない。
全日本での浅田は2回の3Aと3F+3Loの3Loの3つのジャンプで回転不足と判定された。
ジャンプの採点は跳んだジャンプの基礎点からGOEと呼ばれる技の出来不出来で加点減点されて得点が決まる。今回の浅田の3Aは回転不足と判定されて2Aの基礎点となり、そこから回転不足のジャンプは強制的にGOEでマイナスがつくので今回でいえば基礎点3.5点からGOEで-0.8点となり得られた得点は僅か2.7点だった。
3Aの基礎点は8.2点なのでほんの少し回転が足りなかっただけで5点以上失っている。
回転不足の場合は1回転下の基礎点になってそこからGOEで減点もされるという2重の減点となっていて難しい技にチャレンジする方が馬鹿を見る採点方法となっている。

浅田の場合は3Aも回転不足を取られやすいが、3F+3Loのコンビネーションジャンプが成功するのは絶望的と言わざるを得ない。浅田の質が悪いというわけではなく、同じくセカンドジャンプにループを持ってくる安藤もかなり綺麗に決まったように見えても必ずといっていいほど回転不足を取られてしまい点を失っている。
浅田のライバルのキム・ヨナはセカンドジャンプにトゥループ(T)を持ってくる。3F+3Loの基礎点は10.5点、3F+3Tの基礎点は9.5点と差は1点しかない。しかしキムの場合はGOEの加点が2点近くつくので11点以上稼げる。よって3Loをするよりも3Tをする方がリスクが低くてハイリターンになるので例え3Loが出来たとしても3Tの方が断然美味しい。セカンドに3Loでは幅が出ないのでGOE加点はあまり期待できない。上手く行っても11点も貰えないのに回転不足を取られれば基礎点7点からの減点になってしまい、ハイリスク・ローリターンで非常に難しい難易度の高いジャンプなのにうまみは全くない(3Aもリスクの割にはリターンは小さい)。
浅田が浅海選手権や五輪を確実に勝ちに行きたいのならばセカンドジャンプでの3Loは止めて3Tに変更すべきだ。しかし、浅田にとっては勝負にこだわることが最も重要なことではないように見える。自分の出来る最も難しいプログラムをノーミスで完璧にやり遂げることが浅田の究極の目標のように見える。妥協して安易な得点稼ぎに走るよりもアスリートとして極限のパフォーマンスを窮めようとしている姿勢は今の採点システムにはなじまないかもしれないが、見ている観客に訴えてくるものは半端ないものがある。実際浅田のパフォーマンスと才能はジャンプのみならずズバ抜けているように見える。そのあり余る力量を押さえつけて接戦を演出しようとしているのが現在の採点システムだろう。

浅田の独走を防ぐには回転不足を厳しく取ればいい。そのような思惑がスケート連盟にあるような気がする。3Aが2Aの基礎点になりそこからGOEでマイナスとなれば3Aを跳べない選手でも2Aで加点を貰うことは容易いので浅田が3Aをほぼクリーンに着氷してもライバル選手の何の変哲もない2Aの方が圧倒的に得点が上という状況が簡単に出来てしまう。ダウングレードとGOEの2重減点をしている限り難しい技に挑戦する方が馬鹿を見る状況が続く。男子でも2008年の世界王者は1度も4回転に挑戦することなくタイトルを獲得し、シュートプログラムで4回転を入れてくることは非常にリスクが高く、多くの選手が敬遠している状態となっている。
スポーツの醍醐味のひとつである「限界への挑戦」がしにくい現在の採点方法ではフィギュアスケートがつまらなくなり衰退していくだろう。2重減点は廃止して3Aで回転不足となっても3Aの基礎点からGOEで強制的にマイナスという措置にすべきだ。跳べもしないのに挑戦して得点を取ろうとする者が出るというのであれば、転倒の減点(ディダクション)を現行の-1から-2にすればいい。転倒は観客目線からでも失敗というのが明らかに分かるのでこの方が見た印象と出てくる得点のギャップが小さくなるはずだ。

−公平にされていない採点−

日本人はフィギャスケートに限らずどのスポーツでも政治力が弱いと言われる。まさに現在の女子フィギュアを見ているとその通りだと痛感させられる。
浅田は昨季ルッツ(Lz)ジャンプをする時にアウトエッジで跳ばないといけないのをインエッジで踏み切ってしまい、間違ったエッジ(ロングエッジ)判定の「e」マークをつけられてGOEで毎回減点されていた。

今年の浅田は矯正に成功し、弱点を解消した(エッジをフラットにして踏み切っているのでまた取られる心配も残るが)のに対してライバルのキム・ヨナは以前からリップと呼ばれる浅田とは逆のフリップ(F)ジャンプの時にインエッジで踏み切らなければいけないのをアウトで踏み切ってしまうロングエッジでのジャンプをしていたが、昨年は全く取られず莫大な加点を受けていた。今年はリップが酷くなり誰の目にもアウト側で踏み切っているのが一目瞭然にも関わらずe判定がつかず相変わらず3F+3Tのコンビネーションジャンプで大量加点をもらっている。2008年グランプリファイナル(GPF)では基礎点9.5点+加点2.0点の計11.5点貰っている。e判定を受ければ強制的にGOEでマイナスになるのでどんなに良くても8点台しか出ない。キムはショートもフリーも3Fを入れているので正確に採点されれば合計5点以上は下げられる。

キムの場合は明らかにジャッジに贔屓されている。リップの件もそうだが、回転不足のジャンプでも今のところ取られていない。ジャンプだけでなく、シットスピンも非常に腰高で誰が見ても今ひとつの出来にも関わらずGPFではショート・フリー両方ともレベル4で加点も誰よりも多く貰っているという不可解さだった。

回転不足の認定の甘さはキムだけではない。浅田や安藤のセカンドループには非常に厳しく、どんなことがあってもダウングレードとは対照的にキムやロシェットといった浅田を追いかける選手に対する回転不足の判定は非常に甘いように見える。ロシェットに関してはバンクーバー五輪の地元期待選手ということもあって今シーズンから「上げ」が目立って来た。
しかし政治力といえばアメリカを忘れてはいけない。今シーズンの世界選手権(ワールド)はアメリカで開かれるのでどのような判定が下されるのか注目したい。というのもアメリカ選手はジャンプの質が悪く回転不足を取られやすい選手ばかりだからだ。アメリカ選手だけ見逃すというのはあまりにも無理があるほど質が悪いのでアメリカ選手を取らない代わりに他の選手も取らないということになるのか注目したい。浅田や安藤にとってはその方が思い切って難しい技に挑戦できるので有難いが、どのような判定が下されるだろうか。
ワールドでは日本勢は回転不足のオンパレードで五輪3枠逃し、本来減点されるべき選手が見逃されて優勝という最悪の試合は見たくない。
ファジーノ岡山と日本スポーツ ホーム スポーツコラム目次