スポーツコラムNo.32

北京五輪を見て(4)(2008/09/04)


−予想通りのバレーボール−

予選ではあれだけ民放が盛り上げたのに五輪の本大会はほとんど存在感がなかったバレーボール。
男子は5戦全敗、女子は2勝3敗で辛うじて準々決勝に進出するもそこでブラジルに大虐殺を食らって形だけの5位入賞を果たした。

男子に関しては予選までの良い流れが完全に止まってしまっていた。五輪前のワールドリーグ決勝リーグで予定外の主催者推薦で地球の裏側のブラジルまで行かなければいけない事態になったことや、五輪最終予選では日本の大きな武器となっていたジャンプサーブが新しいボールになったこせいか全く決まらなくなったことも成績が奮わなかった大きな要因だろう(新しいボールが到着してもワールドリーグ優先で使用しなかったのはミス)。
五輪最中に若手への切り替えをしたことにより内紛が発生し、エースの山本が日本代表を退く意向を示している。本番の大会で若手の経験を積ませるというのはエースにとっては受け入れ難いものというのは理解できる。

ただ今回の男子代表は1992年以来4大会ぶりに五輪に出場できたことでひとつの大きな成功を収めたとも言える。このゴタゴタによってまた暗黒時代が来ないように協会や監督はうまくマネージメントする必要がある。
日本の男子バレーはサーブがよく、ブロックを強化できればさらに世界と戦える可能性を持っているだけにこの五輪をさらなるステップアップの教訓としてもらいたい。

男子が引き続き強化の方向性がぶれなくて良いのに対して女子はひとつの時代が終焉した。

柳本・竹下・高橋のいわゆる三位一体ちびっ子バレーはこのコラムで散々指摘してきたように無残なまでのブロックの低い竹下・高橋の上を狙い打たれて為す術もなく敗れた。
中立地でポーランドにフルセットで勝った事は評価できるだろう。しかし、それ以後の中国・ブラジルとの戦いは準々決勝に進出する国同士の戦いにはとても見えなかった。
女子バレーが進むべき方向性は簡単だ。竹下・高橋のような極端に低い身長の選手を排除し、ブロックの穴をなくすことが第一歩となる。
そして180cm台の動ける選手を養成することが長期的に日本女子が復活するためには不可欠だ。欧米のような190cm台のセンターとレフトスパイカーを擁することなどは人材の面で無理だ。180cm台の選手が機敏に動いてブラジルのような速いバレーをすることによってようやく世界に対抗できる。
しかし、アテネから4年で失った時間はあまりにも大きい。一朝一夕に180cm台の動ける選手を育てることは簡単ではない。まず高校バレーのあり方を変えねば難しいだろう。目先の勝利にこだわる余り180cmを超える選手はレシーブ免除のアタッカーになってしまいつなぎの部分の基礎が出来ない。女子バレー界はロンドンを捨てるぐらいの長期的な目を持って強化しないと女子バレーの長期低落傾向は避けられないだろう(毎年日本である主要大会も長期的強化の妨げになっている)。

−五輪を舐めきっていた野球−

五輪の事前報道では圧倒的ナンバー1だったのが野球。削除されるほど世界で不人気な競技をここまで猛烈にプッシュする日本のメディアのおかしさを少なからずの国民が感じ取ったことだろう(野球を報道する分を他の競技に割り振ればどれだけのマイナースポーツが活性化するかと思ったことだろう)。

WBCで優勝したことによって自分達は力があると勘違いした星野JAPANは「金しかいらない」と公言して北京へ向かったが、結果はメダルも取れない4位と大惨敗を喫した。野球をまともに行っているキューバ・韓国・アメリカには5戦全敗と明らかに調子云々ではない力の差があった。

五輪直後の団長の総括にもあったが、五輪直前にチョチョッと集まって勝てるほど五輪は甘くない。

まず監督からして勝てる人間ではなかった。星野監督は日本シリーズを1度も制したことのない短期決戦に非常に弱い監督である。そのような勝負弱い監督を監督に据えざるを得ない野球の組織に根本の問題がある。野球というのはサッカーのようにJFA(日本サッカー協会)のようなその競技を束ねる組織がない。そのために監督のネームバリューで資金集めをしなければならず、勝負強いかどうかは二の次になってしまった。そしてWBCで優勝したことにより日本人選手はレベルが高いという間違った認識も能力の低い監督でも勝てると踏む要因となった。
WBCの優勝は韓国に2連敗して2次リーグ敗退が濃厚のところをオープン戦気分のアメリカがメキシコに負けたことによってラッキーで得たものという分析が出来ていなかったのだろう。

日本野球は五輪に対する姿勢でも舐め切っていた。星野監督はストライクゾーンを言い訳にしていたが、国際試合のストライクゾーンがプロ野球とは違うことなど大昔から言われていることで言い訳にならない。プロ野球が国際試合のストライクゾーンに合わせればいいだけの話だ。
そして飛ぶボールを使っている弊害も顕著に表れた。日本人選手の非力さは上位4カ国の中では飛び抜けていた。MLBに行っても打者が成功しにくいのはこのような環境でやっていることにも大きな原因だろう。

今回の野球の結果は年俸がパフォーマンスに直結しない(韓国にはイ・スンヨプ以外1億円プレーヤーはおらず年俸数百万の選手もいた)という典型的な例となった(ビジネスとして成立しているかどうかと親会社が収支を無視してサラリーを払えるかどうかで年俸が決まる)。

日本野球は弱いことが白日の下にさらされた北京五輪。日本人はアメリカの次に強いと思っている日本人が圧倒的多数だろうが、韓国やキューバに限らずMLBメンバーを集めればドミニカやプエルトリコ、ベネズエラにも負けているということが分かるのはもう少し先になるかもしれない。即ち日本人には野球が向いているというのは幻想ということだ。野球がトップリーグのメジャーリーグに選手を多数送れるのもひとえに五輪削除の大きな要因のひとつとなった普及の低さゆえである。
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