スポーツコラムNo.30

北京五輪を見て(2)(2008/09/02)


−陸上短距離で歴史的なメダル獲得−

以前からのこのスポーツコラムの読者ならば筆者がしつこく4×100mリレー(4継)を強化するべきでメダルの可能性もあると言ってきた。
一般的な日本人ならば日本人は短距離で遅くマラソンが得意な長距離に比較的向いている民族と思っているだろう。
しかし、筆者の考えは一貫して違った。マラソンはマイナー競技なだけで10000mのランナーがマラソンに流入するとすぐ10000mのような状態になる。対して短距離は競争が激しくどの国も力を入れているのでいきなり急激にレベルアップすることはない。その中で決勝進出の常連の日本がメダルを獲得することも4継の競技性のバトンパスの失敗を考えると十分考えられたからだ。

そして北京五輪で見事な銅メダルを獲得した。TVでは走力不足を補うバトンパスの上手さがメダル獲得の決定的な要因のように報道されているが、それに対してはいささか疑問を感じる。日本が採用するアンダーパスは0.01秒の極限のタイム短縮を狙うというよりもミスを起こしにくく安定して速いタイム出すことを狙ったものだ。オーバーパスは出来不出来の差が非常に大きく3人ともきっちりバトンがうまく渡ればアンダーパスよりも速い。しかし、3人とも上手く渡る確率は非常に低く、加速の速い男子トップ選手ならばさらに難しくなる。
バトンパスが最もうまいのはタイだ。アジア大会では走力では日本よりもかなり劣っていながらバトンパスを成功させて2連覇を果たしている。
そのバトンパス最強国のタイをもってしてもベスト16止まりで決勝へは進めない。
つまり走力が決定的に足りないからだ。バトンパスだけではメダルは難しい。最低限の走力という土台があるからこそスムーズなバトンパスが生きてくる。
世界陸上後のコラムで高平の走力向上を課題としたが今年の高平のスピードは昨年以上で外国勢に負けないスピードを披露した。末続の調子がいまひとつだったことで日本記録(世界歴代11位タイム)までは届かなかったが、メダルを狙える走力があったからこそバトンパスが生きた。

アンカーの朝原が引退することにより長年不動だったアンカーが交代することになる。朝原の後半の伸びがアンカー勝負でも引けを取らなかった要因なのでこれからの日本の不安要素になることは間違いないが、これからもさらにリレーを強くするためにも個人個人の強化(100・200mで準決勝進出)を図って常時リレーでメダルを争える国になってもらいたい。

−予想よりも早く来た高速化−

ロンドン五輪ではフラットなコース+涼しい天気で高速化というのはマラソン関係者以外でも容易に想像がついていたが、猛暑が予想されていた北京では前年の大阪世界陸上と同様にスローペースになるのではと言われていた。
しかし、23〜24℃の涼しい天気になったことで男子マラソンは真冬のマラソンのような高速レースとなった。

日本人が最も欠けているのはスピード。このことは以前にも書いているように高速化すれば日本人が惨敗するのは目に見えていた。そして予想よりも1大会早くその時が訪れてしまった。
男子は女子に比べて選手層が格段に厚く余計な牽制がなく、高速レースが今後の五輪の標準的スタイルになっていくだろう。
つまり日本人男子はどんなに頑張っても入賞が精一杯でメダルなど遠い夢というのが現実だ。今回大気汚染を懸念してマラソンを回避した世界記録保持者のゲブレ・シラシエが10000mに出場したが、今季のベストタイムは26分50秒とマラソンを本業にしながらも26分台のスピードを維持されては日本人にはどうしようもない。
日本人は10000mに本気で取り組んでも27分50秒を切るのが精一杯でマラソンに取り組んでいる中で10000mを走ったとしても27分台はなかなか出ないだろう。10000mで1分以上も離されては例え42.195kmあったとしてもどうしようもない。
今回の男子マラソンは日本男子の限界を見せ付けられた五輪となった。

−男子の姿は女子の未来形−

男子の惨敗は女子にとっても他人事ではない。2大会連続の金メダルを狙った野口はスタートラインにさえ立てず、安定した成績が魅力だった土佐も故障でフィニッシュラインに辿り着けず男子と同様に大惨敗となった。

女子もロンドン五輪では高速レースになると思われる。唯一スピードレースに耐えられる存在だった野口がロンドンでも競争力が高いかどうかは大いに未知数でスピードを持った若手の台頭もないのが現状だ。

10000mでは福士が日本人としては健闘したものの金メダルのティルネッシュ・ディババからは1分以上遅れて男子と同様にスピード差は歴然だ。29分台のディババがマラソンに転向しなくても30分台前半を持つランナーがマラソンに来れば第2第3のラドクリフのような圧倒的なスピードを持つ選手が生まれても不思議ではない(ラドクリフの10000mのベストは30'01''09)。

日本人もマラソンで通用するためには10000m30分30秒を切るくらいの自己ベストがなければ高速マラソンに対応できないだろう。それほど遠くない時期に特定の選手でなくとも2時間20分を切るのが当たり前の時代が来る。記録を狙う冬場のマラソンと夏の五輪マラソンは別という考え方を捨て去らない限り女子も男子同様に衰退の道を歩むことになるだろう。
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