スポーツコラムNo.28

代表依存からいかに脱却するか(2008/06/01)


−長期的には確実に下落する代表人気−

Jリーグ開幕、ドーハの悲劇で一気に火が付いたサッカー日本代表の国民的な関心。1998年にワールドカップ(W杯)初出場を果たし、2002年には自国開催でのW杯でベスト16に入り、その人気は頂点に達した。2006年はグループリーグ敗退を喫し、プロ化以来後退を知らなかった日本代表の成長は止まった。他国開催のW杯でグループリーグを突破することは容易なことではなく、W杯出場が精一杯という状況さえ考えられる。少なくともグループリーグ突破は当たり前という戦力を毎回有するというのは非常に厳しく、W杯出場は当たり前という意識になってしまった国民を常に満足させるのはなかなか難しいだろう。

日本代表の今後を先取りしているとも言える五輪代表の関心は大きく低下している。五輪は1996年のアトランタ五輪で32年ぶりの出場を果たし、2000年のシドニー五輪でベスト8に入るとその後の2大会はグループリーグ敗退を喫している。
国民の多くは五輪に出るのは当たり前となっており、強さを感じられない五輪代表に対しては五輪予選の段階から観客席は閑古鳥が鳴き、TVの視聴率も低く、国民の関心は急速に低下している。
そもそもサッカーの世界で23歳以下の代表を重視している国は少なく、特にヨーロッパではU21の大会で五輪代表を決めている。23歳にもなればわざわざフル代表の下にカテゴリーを作って強化するのではなく、各クラブチームで主力として活躍してフル代表に呼ばれるべき年代と考えているのだろう。
欧州の場合はクラブのレベルが高く、EU内の移籍が自由ということもあってとりわけU23の代表を作って強化する必要性がない。ただ日本の場合はレベルの高い試合を経験する場が少なく、五輪の経験が重宝されるのは当たり前かもしれないが、本来は二十代前半の選手がもっとフル代表に呼ばれる状況にならないといけないと思うのでU23が存在することによってフル代表への壁になっている面もあり、日本のU23は功罪半ばといった感じだ。

−Jリーグの魅力をいかにアピールするか−

ブラジルのような選手を大量輸出している国はクラブよりも代表の方が人気が上という国もあるが(それでも国内クラブ人気も相当なものだが)、スペインのように地域間対立が激しく、代表よりもクラブの方が人気という国もある。共通していえることはどちらもクラブも代表もそれなりの人気を持っているということだ。日本の場合は日本代表は見るがJリーグには関心ないという国民が大多数で、Jリーグに足を運ぶ熱心なサポーターは地道に増えてはいるが、裾野の広がりがなく、コアな関心層と無関心層の2極化が進んでおり(いわゆるにわか層というのが非常に少ない)、無関心層に少しでも関心を持ってもらわないとJリーグのこれ以上の発展はなかなか望めない。

日本国民は一回ブームが去ったものに対して非常に冷たい性質を持っている(流行ばかりを追いかけて文化として定着することが非常に少ない)。そのことがコアな関心層と無関心層に2極化した大きな理由だろう。
現在のJリーグは世界でも稀にみるほど激戦で予想がつかない面白いリーグだ。世界一のリーグであるイングランド・プレミアリーグは欧州チャンピオンズリーグ出場圏内の4位以内はマンチェスターユナイテッド、チェルシー、アーセナル、リバプールの4チームにリーグ開幕前からほとんど決定しており、Jリーグと比較すれば非常に読みやすいリーグである。もちろん試合のレベルという面では世界中から優秀な選手を集めているプレミアリーグの方が遥かに高い。そういう面ではプレーを楽しむことが最大の楽しみの他国のサッカーファンにとっては非常に魅力的なリーグだろう。ただ、イングランド国内の4強以外のファンにとっては優勝はおろかどうあがいてもチャンピオンズリーグの出場権さえ手に出来ない勢力図はあまり面白くないだろう。
どのクラブにもチャンスのあるJリーグは国内のファンを獲得するには好ましい勢力図となっており、やり方次第では各クラブの人気が急上昇する素地はある。

−アジアチャンピオンズリーグを起爆剤に−

昨年浦和が優勝してにわかに注目を集め始めているアジアチャンピオンズリーグ(ACL)。ACLに優勝するとクラブワールドカップに出場となり、形式上アジアのクラブにも世界一が目指せるようになった(実質はヨーロッパチャンピオンズリーグ決勝が世界一決定戦だが)。世界の超一流クラブと親善試合ではなく、真剣勝負ができる場が出来たのはJリーグにも好影響を与える可能性がある。

ACLは2009年にレギュレーションが変わり、よりヨーロッパチャンピオンズリーグに近いフォーマットになる(以前までのグループリーグ1位のみ通過から2位通過に変更など)。日本の枠は現在の2から4に増枠され、リーグ戦3位までと天皇杯優勝クラブが翌年のACLの出場権を得ることとなる。個人的にはリーグ戦4位までをACL出場権にしてよりリーグの価値を高める方向にして欲しいが、それはこれからの課題だろう。

Jリーグにとってクラブワールドカップが創設されるまでのACLは単なる罰ゲームでしかなかったが、今では取りに行きたいタイトルに変わってきている。2009年のACL大改革によってACLの試合レベル自体も高くなり(日中韓のクラブが多すぎる面もあるが)、タイトルの価値も高くなる。
ワールドカップよりもレベルが高く、人気もW杯に劣らないヨーロッパチャンピオンズリーグのアジア版のアジアチャンピオンズリーグが持つポテンシャルはアジアが抱える人口を加味すると非常に大きなものがある。
ACLは代表一極集中から各クラブの関心アップのための起爆剤になりえるはずだ。

−ACL普及の邪魔になっているマスコミ−

大きな可能性を持っているACLの放映権を有しているのがテレビ朝日だ。テレビ朝日はAFC(アジアサッカー協会)からW杯最終予選や五輪最終予選などの代表戦を放映したいがためにAFC主催試合の放映権を一括購入している。そのため視聴率が見込めるW杯最終予選などは積極的に番組宣伝したり局内での扱いもいいが、ACLに対しては冷たく、おまけでついてきたものという認識なのかもしれず(そもそもテレビ朝日は局の看板番組である報道ステーションでのサッカーの扱いからしてサッカーをバックアップする気はさらさらないのかもしれないが)、ACLを育てようという意識は感じられない。
クラブワールドカップを放映する日本テレビはACLはあくまでクラブワールドカップ(CWC)の予選と位置付けており、ACLの露出はそれなりにあるが、ACLの権威付けにはマイナスに働いている。

テレビ局の問題もそうだが、最大の問題は日本最大の広告代理店の電通の存在だろう。電通は業界内で圧倒的シェアを誇り、テレビ局への影響力は計り知れない。電通は代表戦を受け持っており、Jリーグは業界第2位の博報堂が担当している。つまり電通とすれば代表人気が低下してJリーグ人気が高まってもらっては困るわけで、いかなる策を用いても代表に目を向けさせるように工作してくるだろう。しかし、どう考えても代表一極集中の時代は終わりを迎えつつあり、いかにクラブを大きく育てて代表とクラブの2頭体制を確立させることがひいては代表のレベルアップにも繋がる。



−余談:日本サッカーのリーグ構成とその面白さ−

日本のプロリーグの中でサッカーの一番大きな特色は昇降格のあるリーグ形態にある。日本人に一番なじみのあるプロ野球は2リーグ12球団で争われ、たとえリーグ最下位になったとしても翌年何のペナルティーもないはっきり言えばぬるま湯リーグとなっている。サッカーの場合は下位に終わると降格という罰が待っており、下位リーグでは上位に入ると昇格というご褒美が待っている。昇降格争いというのはレベルに関わらず人の心を掴むもので昇降格がクラブが大きくなるきっかけになることも多い。

サッカーはJ1を頂点にJ2、JFL、地域リーグ、各都道府県リーグとピラミッドの構造となっている。現在はプロリーグのJ2からプロアマ混在のJFLへの降格はないが、いずれJ1からJ3の3部体制が確立するものと思われる。J1で上位に入ればACLの出場権が得られ、ACLを勝ち抜けば名目上世界一決定戦のクラブワールドカップで世界一に挑戦できる。
昨年CWCで3位となった浦和は2000年には2部リーグであるJ2に籍を置いていたのが僅か7年で(あくまで名目上ではあるが)世界3位を獲得するまでになった。つまりどのクラブにもチャンスは開かれていて今は地域リーグでくすぶっているクラブでさえ10年後には浦和のような成績を収めたとしてもなんら不思議ではないのが日本サッカーの魅力の1つだ。
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