−限界を感じさせた女子− 開幕前はこれまでで一番強く、メダルを取れると意気込んでいた柳本監督。竹下・高橋に柳本監督を加えた三位一体の結果は6勝5敗の7位と3位までに与えられる北京五輪出場権には遠く及ばなかった。 昨年の世界選手権後のコラムに竹下・高橋を同時起用するちびっ子バレーではブロックに大きな穴ができ、ワールドカップ以降ジリ貧になるのではないか書いたが、ワールドカップの結果はまさにその通りとなった。 世界の女子はブラジルを除くと一昔の男子のバレーのような速さはそれほどないもののパワーと高さで押し切るバレーが主流となっている。 日本は竹下(159cm)、高橋(170cm)の世界標準から20cm前後も劣る選手(指向では30cm)を重用している。今大会も竹下や高橋の上からバンバンスパイクを決められ、いくらディグ(スパイクレシーブ)のいいリベロの佐野であっても的が絞れなければ限界がある。 世界選手権後のコラムでは高橋のサーブとスパイクの巧みさは使い道があると書いたが、世界各国は高橋対策を進めて高橋にとってはかなり辛い大会となった。高橋自身のパフォーマンスも落ちていると感じ、大きな武器であったジャンプサーブは全力で打てず、巧みなブロックアウトもライバルが高橋のスパイク体勢が乱れていると判断するとブロックの手を引っ込めてノーブロック状態にしてブロックアウトさせないようにした。高橋の打点は低いために体勢が乱れると天井に打ち上げるかのようなスパイクを打ってブロックアウトを狙うことが多く、もしも普通にスパイクを打たれても体勢が乱れた状態ならば打点の低い高橋のスパイクならばノーブロックでも十分拾えると判断しての作戦だった。 日本の生命線である高橋を攻略されると日本は攻め手がなく、上位国には全く通用せず、相変わらず勝てる気配がない。 竹下に関してはやはり159cmのデメリットを補えるだけのメリットがあるとはとても思えない。ブロックの大きな穴であることは相変わらずで、トス回しでそれを打ち消すだけの貢献しているかといえばNoであろう。 男子も女子もブロックがかなり重要であるのは間違いなく、ブロックに大きな問題を抱える全日本女子が五輪でイタリア、開催国中国、ブラジル、ロシアに勝てる可能性はないと言っていいだろう。組み合わせに恵まれればベスト8までは可能だろうが、セルビアなどの強豪国と同居すれば予選リーグ敗退も可能性十分だ。 −監督も底が見える− ちびっ子バレーにこだわり続ける柳本監督にも限界を感じた。選手選びにも疑問が残り、1セットすらフルに出場できるコンディションではなかった大山を選出し(視聴率を考えたフジTVの要請か?)、他にもセンターばかりを12名に残して高橋の控えを置かず、結局は先発の6名+リベロの7人でほとんどの試合を戦うという選手層の薄さだった。 タイムアウト時の柳本監督を見るとこの人は本当に監督なのだろうかと思う。タイムアウト時は「切り替えて、切り替えて。OK、OK。」など戦術的な指示はほとんどせず、監督の役割を果たしていない。通常であればアナリストから上がってきたデータを基に選手に的確な指示やアドバイスを送るのだが、全日本女子にはそのような当たり前の光景がほとんど見られなかった。ほとんどと表現したのには理由があり、格下に圧勝している時だけ的確な指示を与えていたのは監督としての器を物語っているのではないか。 柳本監督体制を続ける限り、竹下・高橋がセットでついてくる上、監督自身の能力もないとなると去年感じたように女子バレーは世界との距離が離れる一方だろう。 −女子が目指すべき方向性− 柳本体制が続く限り、ちびっ子コンビバレーの継続が予想されるが、北京五輪以降全日本女子が取るべき方向性を考えてみたい(五輪最終予選で韓国やカザフスタンに負ける可能性も少なからずあるが)。 日本人にヨーロッパのような190cmを超える選手を揃えることは不可能だ。しかも日本人は特に大きくなるほど動きが鈍くなる傾向が大きく、外国勢と同程度の身長のウドの大木をコートに入れても機能するとは思えない。 世界の女子バレーが一昔の男子バレーを追いかけているのであれば、現在の男子バレーの形をものできるようにするべきだろう。女子ではブラジルが身長はそれほどでもないが、立体的な高速コンビバレーで世界トップレベルの位置を維持している。 180cm台の選手を鍛え上げて高さはそれなりあり、かつ速い攻撃を繰り出せるチームを目指したい。セッターは175cm以上欲しいが、最低でも170cmはないと駄目だろう。ブロックは高さを揃えることが肝心で現在のように180cm台中盤から後半を多く入れても159cmと170cmで全てをぶち壊してしまうようでは駄目だ。185cm平均で高さを揃えることができればキルブロックも増えるだろうし、ワンタッチで繋げる場面もかなり多くなるだろう。 動けてパワーもそこそこある180cm台を揃える。全日本女子が世界で生き残っていくためにはこの方策が最善だと思う。 −切磋琢磨がレベルを上げるヨーロッパ− 今回優勝したのはケニアから帰化したアゲロを擁して決定力だけでなく、つなぎも向上し、全く隙のなかったイタリアだった。 ヨーロッパには今回FIVBと主催のフジTVの都合で出場ならなかった前年世界選手権優勝のロシアや今年のワールドグランプリを制したオランダなど今回ワールドカップに出場できなかった国々も含めて強豪国がひしめき合っている。 五輪を展望するとロシア・セルビアの出場はほぼ決定的で、ロシアかセルビアが欧州予選で出場権を取れればランキング上位のポーランドが出場権を得ることになるだろう。オランダやドイツなどの国は欧州予選で出場権を取るしか北京への道はなく、北京五輪欧州予選は激戦になることは間違いないだろう。 ワールドカップを見ると優勝したイタリアはもちろんのことセルビアにも非常に可能性を感じさせた。昨年の世界選手権銅メダルの原動力となったジェリシロを怪我で欠きながらも優勝したイタリアを唯一フルセットまで追い詰め(イタリアからセットを取ったのはセルビアのみ)、五輪出場権を獲得したアメリカからは勝利を奪った。ブラジルのような速いバレーに対応できる力を備えれば北京五輪でもメダルの有力候補となってくるだろう。 ジェリシロが出場できなかったことによって19歳のブラコツェビッチが代役を務めたが、不安定さは感じさせるものの大器の予感を十分に感じさせるだけのパフォーマンスを見せた。セルビアはバレー人気が高く、人材も豊富で中長期的に見れば必ず世界トップレベルに君臨する国になるだろう。 −一皮向けるかが今後の課題− 男子は女子と比べて世界各国の力が接近しており、何か少しでも欠けると勝てないシビアな戦いとなる。 全本男子は女子とは違い、身長の面で大きな見劣りは感じさせない。パワーの面で若干見劣りするのは仕方ないとも言えるが、決定的に劣っているとは思わない。 男子は自分達がサーブの場合はサーブで崩して、ブロックで仕留めるのが基本で、サーブを受けるときはしっかりとレシーブして速い攻撃でブロックを2枚以下にして確実にスパイクを決めることで勝利が近くなる。 日本の場合、サーブは石島、越川、宇佐美、山本とサーブポイントを狙えるジャンプサーバーが揃っており、世界に対抗できるだけの戦力はある。問題はレシーブとブロックで今大会は石島がサーブで狙われた。石島の出来が全日本男子浮上の大きな鍵を握っているのは間違いなく、今大会のような不安定な出来ならば五輪出場権は手に出来ない。ただ、これをいい経験として活かすことができたならば全日本男子はもうひとつ上のステージに上がる可能性も感じさせた。 ブロックに関しては205cmの山村がもう少しブロックポイントを上げなければ厳しい。ブロックでシャットアウトできればチームも楽になり勢いに乗る。 今大会勝ちきれなかった大きな要因のひとつに山本が回復途上ということもあるだろう。本来の山本のパフォーマンスではなかったことでここ一番で決めたいときに山本にしろ清水にしろ決め切れなかったことでセットを失ってしまった。 元々男子はワールドカップで五輪切符を取るという目標ではなかったので、ここで見えた課題を克服して来年の五輪予選を突破してもらいたい。 男子は些細なことで勝敗が逆になるシビアな戦いが待っているだけに、1992年以来の五輪出場なるかどうかはまだ分からないというのが現状だが、可能性を持ったチームだということは確かだ。 |
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