スポーツコラムNo.24

裏金問題とアメリカンスポーツ(2007/5/4)


−報道量の多さに驚き−

プロ野球の西武球団がアマチュア選手に裏金を渡していたことを公表した件で、メディアはこぞって大きく取り上げた。野球担当記者にすれば公然の秘密とも言える別段目新しい話題でもないにも関わらず、まるで裏金について知らなかったばかりに大きく報道する姿勢は滑稽にさえ見えた。
プロ野球界にとって裏金問題ではそれほどダメージにならないとでも思ったのだろうか。プロ野球にはTVメディアがほとんど取り上げない薬物問題がある。この薬物問題が裏金問題並みに取り上げられると薬物には厳しい目を持つ日本人に見切りをつけられ、プロ野球は即死する可能性すらある。

薬物というとステロイドなどの筋肉増強剤を思い浮かべると思うが、ステロイドの他にもグリーニー(アンフェタミンの1種で錠剤がグリーンだったためそのように呼ばれる)と呼ばれる覚せい剤と同じ成分を持った興奮剤の蔓延の二重苦となっている。

五輪競技のトップ選手は必ずと言っていいほど風邪薬やプロテインなどのサプリメントなどにも気を配るほど薬物に対しては繊細であるのに対して、プロ野球選手は”一応”リーグで薬物は禁止されているが、使用して陽性反応が出ても出場停止処分もなければ氏名の公表すらない(陽性はなくはなかったが悪質なものはなかったと言い訳しているが)、”なんちゃって薬物検査”となっており、過去には長嶋一茂や愛甲がステロイの使用を自ら告白しているほどで、日本人はアンチ・ドーピングの傾向が強い中で野球界は薬物に寛容な異色の業界である。

グリーニーはロッテが優勝した時に集団で使用していると噂に出たのが始まりで、オリックスや巨人に在籍した野村貴仁(投手)は現役時代に使用し、チームメイト大量に配ったことを明らかにしており、覚醒剤が蔓延していた(している?)ことは確かだと思われる。

−金にうるさいのはプロアマ共通−

裏金問題に話を戻すと、アマチュア関係者170人にも裏金が渡っていたことが後日公表されたが、30年近くで170人ということは1年当たり6人ということで、金に汚いアマチュア関係者ならそれくらいは十分あり得ると思ってしまう筆者は一般的な感覚とはずれてしまっているのだろうか。

アマチュア側は氏名を公表しろと迫ったが、公表できないのを分かっていてのポーズなのは確実だった。高校野球は清廉潔白のイメージを維持しようと高野連は必死だが、プロ・アマ含め野球ほど金にうるさいスポーツ界はない。野球が日本のスポーツの中で1番金になったため当然といえば当然だが、それでもアマチュア側の拝金主義もすさまじいものだ。

野球と関わりのない筆者でさえアマチュア関係者の金にまつわる事例を知っている。裏金とは関係ないが、10年以上前に耳に入った話だが、甲子園に何度も出場している県立高校の監督が保護者に対して息子を試合に出して欲しければ金を積めと金銭の要求をしたが、その保護者は拒否した。

県立高校の教員でさえこのようであるのに私立高校の指導者がどうであるかは推して測るべしだ。

−特待生制度−

私立高校で問題となっているのは特待生問題とそれに密接に関連した野球留学の問題だ。野球留学というのは他県へ進学することを指すが、主に関西の中学硬式野球チームに所属する生徒を巡って地元関西では甲子園への競争倍率が高いため、甲子園へ出場しやすい地方の私立高校と結びつき、野球チーム指導者は能力の高い選手を供給した代価を受け取り、高校側は能力の高い選手を獲得できるため甲子園出場が近くなり、甲子園に出られれば指導者に払った謝礼を十分ペイできる仕組みとなっている。選手の才能を”最大限に”伸ばすことを考えるよりも甲子園のブランドを利用したビジネスありきの仕組みとなっている。

高野連側はその土地に縁もゆかりもない選手が多数を占めていることで地元での盛り上がりに欠け、ひいては高校野球の衰退が加速されることを懸念して野球留学を抑えたい思惑がある。よって特待生制度廃止を推し進めて間接的に野球留学を抑えようとしている。

高野連は高校野球は教育でアマチュアの精神に拘っているようだが、特待生制度や野球留学を抑えたいならNHKの甲子園完全中継を止めればいい話だ。そうすれば露出が大きく減るために私立にとっては旨みが減るので自然と野球留学も減るだろう。しかし、そうなると高野連の利権は大きく減る。
要するに自分達の利権を守りたいが為の特待生制度の取締りをしているということを日本国民は知っておくべきだ。もちろん端を発した裏金問題から目を逸らす目的もあり、本来なら不正に金銭を受け取った指導者を公表させ、処罰するのが最重要事項だと思うのだが(それをすると甲子園ブランドの崩壊に繋がるためにできないのでここからも自分達の利権を守ることを最優先にしていることが読み取れる)。

なぜ高野連がプロとも高体連とも結びつかず独自の組織で居続けるのか。甲子園が巨大な利権を生んでいるかに他ならない(夏の甲子園の時期にインターハイが行われるために高体連には加盟したくない事情がある)。ひょっとすれば国体で高校野球は高体連に加盟していないために公開競技(天皇杯の得点がつかない)として行われていることを知っている国民は少数なのかもしれない。

−野球と他競技を同一視するな−

よく他の競技でも越県留学あるいは特待生制度は存在しているではないかと耳にするが、野球と他競技では全く質が異なる。野球の場合は生徒が甲子園へ出ることを目標とし、甲子園というブランドがマーケットを作り、選手の素質を最大限に伸ばすために越県留学をしているわけではないという点だ。

他の競技では自分の能力を最大限に伸ばすこと、より良い練習環境を求めて他県へ渡る。世界で戦う競技では優秀な指導者の下で競技をするというのは非常に大切で、例えばハンマー投げの室伏広治は愛知県の中学からフィールドで強い千葉県の成田高校へ進学して金メダリストへの基礎を作った。

野球においては世界と戦うという概念がないため、国内の競技のレベル向上が最優先課題ではないため、プロ側は直接選手を育成する必要がなかった。アマ側もプロアマ問題のこじれにより、能力と経験を持った元プロ選手がたとえ自分の子供であっても指導してはいけないという他の競技から見れば競技のレベルアップを放棄しているかのようなルールが存在しており、国内の競技力の向上には関心がないとしか言いようがない(プロの中でもある程度レベル差があった方がレベルが高い選手をスター扱いしやすくなるので好都合)。

−国内?世界?どこを向く?−

裏金問題に関してよくドラフト制度を完全ウェバー制にして、その代わりFA取得期間を短縮すればいいとの話が出てくる。
個人的にはプロ野球には何も改革はできないと確信しているが、普通ならば、プロ野球をどのような方向に持っていくかのビジョンを決めることによって、ドラフト制度をどのようにするかを決めるべきではないのか。

例えば韓国や台湾を巻き込んでアジアでのリーグを作っていくとか、現実性は0と言っていいが、MLBのプレーオフに参加するなど国外に目を向けるのか、これまで通りの国内の12球団の小さなコップの争い(リーグ別ではたったの6分の1を決めるだけ)を延々と続けるのかで新人獲得の方法は変わってくるはずだ。

前者の国外との競争型にするのであれば、ドラフト制度はなくすべきだ。自由に選手を獲得し、自助努力で球団を強くしなければいけない。ドラフトというのは戦力を均衡させるための方式で、競技のレベルアップよりも興行を優先している制度だからだ。

国内のみの戦いに固執し、鎖国するのであれば、完全ウェバーは効果的だ。戦力の均衡がはかられ、リーグ戦で独走するチームは少なくなるだろう。しかし、今の時代に鎖国して繁栄するとは到底考えられない。世界と戦う日本人が好まれている日本とは対照的に鎖国型で成功している唯一の国がアメリカだ。

アメリカンスポーツにはドラフト制度が存在し、プレーオフで勝者を決定する。鎖国政策を取っているために競技のレベルを高めることが第一の目的でなく、とにかくエンターテイメント性を重視し、最後までどこが勝つか分からないようにして最後まで盛り上がることが最も重視される。

ただ最後まで盛り上がることを狙うと最後だけ盛り上がる危険性をはらんでいる。プレーオフはリーグ戦軽視につながり、リーグ戦はチームの勝利よりも個人成績のための存在でしかなりかねない。このプレーオフ制度の悪い面が出ているのが現在のプロ野球で東京ドームの客席は空席が目立ち、プロ野球の生命線である関東地方の視聴率も過去最低を更新している。

万能な方式というのは存在しないと思うが、ドラフト、昇降格のない1部制、降格がないため容易となるよりエンターテイメント(派手さ)重視のプレー、プレーオフ、学校スポーツのアメリカ式は国際競争力という点で欠けやすい。
ドラフトをするということは自分の意志とは無関係に所属チームが決まる。20歳前後の選手はまだまだ選手として伸びる余地が大きくあると思うが、その選手に合ったチームに入れるとは限らない。サッカー選手はチームを選ぶ時にチームのレベルが高いところで練習を通じて自分を高めるのが良いのか、チームのレベルが低くとも試合に出られるクラブを選んで試合を通じて成長しようと考えるのか、指導者が自分に合っているのかなど、自分の能力・適正を考えて選択する。

しかし、ドラフト制度では選手に合わない球団が割り当てられ、多くの才能の浪費が考えられる(サッカーならば自分で選択したことなので自分に合わなければそれは自己責任の一言で片付けられる)。
競技人口、プロリーグのレベル、国内の豊富な人種を考えるとサッカーのブラジル以上に世界で圧倒してもよいはずのバスケのアメリカ代表はドリームチームで一世を風靡して10年経つと世界的な競技レベルが上がって世界一から遠のき、現在では強豪国のひとつという存在でしかない。

野球でも人口900万人弱のドミニカ共和国の方が強いのではと言われるほどだ(アメリカの野球競技人口は2000万人にも上るそうだ)。
サッカーのMLSも他国のリーグとは違い、プレーオフ、ドラフトと国内メジャースポーツのやり方を踏襲しているが、世界一の競技人口を誇り、人種的にもフランス代表のような身体能力に長けた黒人が多く居ても不思議ではないが、W杯で決勝トーナメントに行けるかどうかのレベルで頭打ちの状態となっている(隣国のメキシコの方が身体能力では劣りながらもアメリカの上を行っている)。
個人競技に比べて団体競技で弱さを見せるアメリカの一因に興行を優先しているリーグシステムがありそうだ(アメフトだけは他国で盛んな国はないので安泰かもしれないが)。
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