スポーツコラムNo.21

NHK役割(2007/1/6)


−公共の電波?−

ライブドアがニッポン放送を通じてフジテレビを支配しようとした時にTV局側が盛んに主張していた言葉が「公共の電波」だったが、実際民放が公共の電波だと考えている人間は少数であろう。新規参入という競争はないものの民放は利益優先なのは間違いなく、視聴率という面では国民を向いているのかもしれないが、直接の取引先である広告代理店やスポンサーの方が大事なのは確かだろう。

営利企業の民放が視聴率の取れるソフトやスポンサー受けのいいソフトを優先的に放送するのは当たり前といえば当たり前である。
しかし、国民から受信料を徴収して名実共に公共放送であるNHKが民放と同じようなスタイルで放送してもらってはNHKの存在意義がなくなる。

実況や放送内容では民放よりも遥かに評価の高いNHKだが、民放よりも限られた予算の使い方、つまり放映権の取り方には大きな疑問が持たれている。

最大の問題はやはりメジャーリーグへの莫大な放映権料の支払いだろう。メジャーリーグの放映権は2004年に広告代理店の最大手の電通が6年契約2億7500万ドル(2004年度平均レート1ドル107円で計算して294億2500万円)で買い取ってNHK、フジテレビ、TBS、スカパーに放映権を売っている。

フジテレビとTBSの中継は微々たるもので、CSのスカパーの放映権料もそれほど高額ではないだろう(MLB中継は主力商品ではない)。どう考えても少なくとも放映権の半分以上はNHKが負担していると見られ、7〜8割を負担していても不思議ではない。もちろん電通も買ってきた値段そのままで売っているはずもなく6年間の放映権は300億円を突破しているのは間違いないだろう。年間に直すと50億円は超えており、NHKの負担額は少なくとも25億、電通の取り分次第では年間50億を超えている可能性すらある。

相撲のような日本の国技を支えるために多少の高めの放映権を支払っているのならいざ知らず(それでも相撲は割りと視聴率はいい)、海外のスポーツに年間何十億もかけて放映権を取る必要性はNHKには全くない。

そもそも年間何十億に値する人気ソフトならば他の民放が血眼になった放映権を取りに来るはずだが、放映権を持っているフジもTBSも積極的に放送しようとする意思はない。それもそのはずでMLBの試合は日本時間の深夜から朝にかけてで朝に放映することはレギュラー番組を考えるとほとんどないため(たまにあるとしても休日のみ)、ほとんどが深夜放送になる。
深夜放送にしても視聴率を望めないのは当たり前なので(それを考えてもMLBの視聴率は悲惨だが)、はじめからあまり放送する気はないため放映権料はかなり抑えているはずだ。

こうしてみると誰も積極的に放映権を取ろうとしていないのにNHKの突出ぶりが目立つ。大きな原因は電通が法外な値段で放映権料をつかまされたことにあるのだろうが、かといってNHKが年に何十億も支払う必要はなかったはずだ。これだけの不必要なお金を支払っているのを見ると民放以上に電通に何かを握られているのではと思ってしまう。

NHKの突出が目立つのは何もメジャーリーグの放映権だけではない。プロ野球の巨人戦に関しても常識外の放映権料を払っていた。そもそもNHKが巨人戦を地上波で放送する理由などないのだが(放映権料が高いことと民放での需要がある)、NHKは2004年まで民放が1試合1億円で放映権を買っていたところを1億6000万円という60%増しで買っていたのだ。現在でも民放が1億をかなり下回っていると見られる中で1億円を超えている可能性が高い。

年間何十億も不必要なお金を払って放映権を買っているとなると受信料不払いの理由にされても文句は言えないだろう。
NHKの放映権の取り方のスタンスとしてはまず、民放と高額な放映権獲得競争はしない。公共の電波ならば放映権料の安いさまざまな競技の日本選手権クラスの大会を放映することをメインとして(それに関してはまずまず手広くカバーしていると思うが)、需要の割に比較的放映権が安い国際大会(あるいは有名リーグ)の放映権を取りに行くスタイルが最も支持されるのではないか。

−NHKの民放化−

NHKで気になるのは営利企業の民放以上と思ってしまうほどあまりにも露骨な自局のコンテンツのみの宣伝だ。それはニュース番組に顕著にあらわれている。まずメジャーリーグ情報は必須(正確にはメジャーリーグの日本人情報のみ)で、相撲があれば相撲も欠かさず取り上げる。

NHKの欧州サッカー無視は相当なもので、真に世界から注目を浴びたヨーロッパチャンピオンズリーグでの中村俊輔の活躍も一切伝えず、イチローがあたかも世界中から注目されてるかのような報道とは対照的だ(映像使用料が高いのならば写真と音声のみでも伝えるべきだと思うが)。ニュース価値の高さよりも自局のコンテンツの宣伝を優先するのは民放となんら変わらない姿に見える(この件に関しては民放よりも酷いと言える)。

NHKは公共放送という観点から企業名をなるべく出さないように神経を使ってきた。Jリーグのナビスコ杯をJリーグ杯と一般人にはほとんど馴染みのない呼称で呼んできたのが象徴的だ(いつからかナビスコ杯と呼ぶようになっていたが)。
しかし、プロ野球の報道となると昔から一貫してヤクルト、ソフトバンク、日本ハム、西武などと企業名を全面的に連呼し(スポーツニュースだけでなく、7時のニュースなどでも途中経過を必ず放送する徹底ようだ)、スワローズ、ホークス、ファイターズ、ライオンズとJリーグ杯と比べると遥かに馴染みのある愛称があるにも関わらず企業名を連呼してきた。

NHKには野球とその他のスポーツとで別々の基準があるかのようだ。いくらNHKが高齢者が好んで見る放送局でプロ野球、MLB、高校野球が比較的高齢者に人気があるとは言っても野球贔屓は目に余るものがある。民放が野球から徐々に手を引いていっているのとは対照的だ。これはNHKの感覚が鈍いのか、放映権料がかさんでも意識的に獲得してNHKは野球の局というイメージを作りたいのだろうか。

NHKはどのようなスポーツでも地上波ではアナウンサーの実況の質で随一のものを誇っているだけに経営側の野球傾倒の方針はなんとも残念で仕方ない。民放が視聴率の面でなかなか取り上げることの出来ないスポーツを広く取り上げることが可能なのがNHKのメリットだけにNHKには多くのスポーツを取り上げて(もちろんBSでも構わない)視聴者にさまざまな選択肢を提供してもらいたい。
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