スポーツコラムNo.18

視聴者無視のTV放送(2006/12/18)


−録画放送−

最近のスポーツ中継の強い傾向として生中継で放送するのではなく、録画でゴールデンタイムに放送が挙げられる。
その典型的な例はバレーボールだ。未だに生中継と勘違いしている視聴者も少なからずいるかもしれないが、バレーボールはほとんどの試合で6時に試合開始され、2時間前後で終わっている。
つまりTV放送は1時間から1時間半ほど遅れて放送している(ディレイ放送とも呼ばれている)。これはTV局の都合で6時競技開始となっている。
バレーボールはラリーポイント制になり、ある程度試合時間が読みやすくなったとはいえ、短ければ1時間半弱、長ければ2時間半近くかかる。

TV局にとって困ることは一方的な試合で早く終わってしまうことだ。よって録画放送ならば試合開始までに時間を稼いだり、第2セットと第3セットにある10分間の休憩を長々と放送して時間を調節する(そもそも他国同士の試合ではこのような休憩タイムは存在せず、TV局の要請で日本の試合だけの特別ルールとなっている)。

となると試合開始がかなり遅くなったり、第2セットと第3セットの休憩を放映すると3-0で終わったと分かってしまい、ハラハラドキドキはなくなってしまう。TV局としては生中継に見せかけることによってそのように感じる視聴者を減らそうとしていたり、試合終了前に結果が分かって逃げられることよりも生中継にして時間が余って確実に視聴者に逃げられることの方が損と考えてのディレイ放送なのだろう。

−視聴率優先−

スポーツは生中継が基本だと思うが、TV局は視聴者のリアルタイムで見たい欲求よりも視聴率を優先するため大幅に遅れての録画放送も見られる。
その最たるものがTV朝日のフィギュアスケート中継だ。GPファイナルはロシアのサンクトペテルブルグで行われ、日本との時差は6時間だ。
男子フリー決勝は現地時間午後3時20分で日本時間午後9時20分開始だった。放送が始まったのは21時間以上経過した後の午後7時だ。女子の決勝も20時間以上遅れての録画放送だ。
需要がなくてこっそり深夜で放送するソフトならば20時間遅れの録画放送でも構わないが、フィギュアスケートの人気は高く、生中継を望むファンも多いと思われる。コアなファンもそれなりいるだろうし、そういうファンはお金を払って有料放送でも生で視聴したいと思うだろう。

TV朝日の卑しいところはBS、CSチャンネルを所有しているにも関わらず地上波が終了してからでないと放送せず、日本では有料・無料問わず生中継を見る機会を全く無くしたことだ。NHK杯を中継したNHKは地上波では録画放送だが、NHKBSではきちんと生中継をしていた。

多チャンネルの今の時代にコアなファン向けに生中継を見る機会を最低限作るのは放映権を取ったTV局の義務だと思う。その点F1中継の仕方は時代に即している。
コアなファンは地上波とは違った番組作りで生中継を堪能でき、余計な演出が目立つ地上波を見なくても済むようにきちんと住み分けができている。
TV朝日のフィギュアはBS朝日でもほぼ地上波で流したものを放送し、全く工夫がない。コアなファンになれば地上波のライト層向けの放送に抵抗感を持つのはどの競技でも共通しているように見える(コアファンでなくとも相当数の人間が不快感を感じているとは思うが)。お金を払ってまで見るコア層の人数というのはライト層と比較すれば非常に少なく、フィギュアスケートの場合だと視聴率に与える影響は微々たるものだろう(コンマ数%がいいところで、フィギュアできちんとジャンプの種類と違いを言える日本人は1%もいればいい方だろう)。

目先の視聴率のみを優先させた結果、TV局のイメージを悪くさせることを行っているようにしか見えない。特にTV朝日は独占放映権を獲得した義務を全く果たしていない。TV朝日はAFC(アジアサッカー連盟)主催の独占放映権を獲得しているが、独占放映権を獲得したという責任を全く感じていないように見える。ACL(アジアチャンピオンリーグ)は放置に近く(フジTVの持つUEFACLとは対照的)、U-17とU-20W杯アジア予選も十分に責任を果たしたとは言えない放送だった。

独占放映権を獲得するTV局には独占している義務を感じなければいけないと思う。バレーボールとバスケットボールの世界選手権ではこっそり深夜に決勝のみ中継と日本開催とは思えない扱いだった。競技の面白さを伝えるのではなく、日本のみの情報、日本の選手にだけスポットライトを当てる手法をしている限り他国同士だとハイレベルの決勝といえども大々的に放送する価値がないと判断されるのだろう。

どちらもスカパーが無料放送をして全試合をカバーしたが(ただしバレーボールは日本戦と決勝は録画)、キー局(少なくともTV朝日とTBS)は数字の取れる日本人絡みを押さえられればあとはどうでもいいと考えているのだろう。

視聴率を高めるには番組の内容の充実ももちろんだが、TV局の信頼感というのも重要な要素になると思う。このような放送の仕方をしている限りTV局に信頼感が出るとも思えない(スポーツ中継に限らず報道その他でも誠実な対応を取れるとも思えない)。ここ何十年地上波TVがメディアの王様で競争もなく何にも脅かされる状態ではなかったために目先の視聴率に走り、長期的な戦略に欠けても問題はなかった。日本語という特殊な言語の壁があるが、BBCやCNNのような信頼感は日本の民放各局には全くないと感じているのが普通の感覚だろう(CNNワールドスポーツは様々なスポーツをバランスよく取り上げており、日本の地上波のオフシーズンなのに野球中心とは天と地ほどの差がある)。

現在CS、インターネットなど多様なメディアが浸透している中では、このような視聴者を無視した番組作りをし続けると磐石と思われた地上波無料放送の時代も新聞やラジオのように単なる1メディアになる可能性も十分ある気がする。少なくとも日本人全体で徐々に地上波TVを見る時間は少なくなっていくだろう。
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