スポーツコラムNo.17

世界と戦うには(2006/11/27)


−世界戦−

現在スポーツにおいて日本人が興味を持つ共通のキーワードは「世界と戦う」だ。元来日本人は世界でも有数の五輪大好き民族で世界を相手に戦う日本人に非常に興味を持つ。

最近は様々な競技の世界選手権がTVで放送されている(91年の世界陸上に始まり、最近では世界卓球や世界水泳など)。レスリングなどの一部を除けば日本人が活躍すればどの競技でも一定以上の視聴率を獲得しており、世界と戦う日本人に対しての需要は非常に高い。

この世界を感じられるイベントが4年に一度のたった2週間だけ五輪だけではなくなり(冬季を合わせれば2年に1回だが)、様々な種目の世界大会を見る機会が増えることによって世界に挑む日本人の姿が日常となったことで世界という概念がなく、国内完結で終わっていたプロ野球の人気が低下した大きな一因になったことは間違いないだろう。

−中身の分からない国民−

ブラジルでのサッカーのように国民全てが総評論家というのは極端な例かもしれないが、そのくらい国民がスポーツに対して情熱的で内容を分析できる目を持つくらいでないと球技大国・スポーツ大国にはなれない気がする。ボクシングで言えば本物の実力を備えた長谷川穂積は全く人気がなく、TV向けのキャラクターとマスコミの煽りなどで亀田兄弟が実力以上に良くも悪くも絶大な注目を集めるようでは外国人から見ればスポーツを見る目のない国民だと思われても仕方ないだろう。

マスコミがその場の視聴率、部数にしか興味がないのと同じで、多くの日本人も中長期的視野でスポーツを見ようとしない。そのことはリーグ戦が盛り上がらず、トーナメント形式の重要な試合のみが盛り上がっているのを見ても分かるだろう。

サッカー日本代表は現在オシム監督の下で更地から再生を図っている。現在の段階は実績がある海外組よりもまず国内のJリーガーで代表を編成し、自身の戦術を浸透させ、かつ若手に経験を積ませて一歩、一歩着実に強くしていく段階だと思う(本当ならば意味の薄い親善試合はなくしてその分だけチーム練習を徹底して行いたいところだろう)。
代表の中には華々しい経歴を持つものはおらず、マスコミのスターシステムから外れた人間で編成されているとも言える。その影響か、代表の視聴率は10%を僅かに上回るところまで落ち、国民の関心は薄い(もちろんドイツでの惨敗で世界との距離を感じたこともあるだろう)。しかし、11/15に行われたアジア杯予選のサウジアラビア戦での内容は、課題はまだまだあるものの着実に成果を見せ始め見ていて今後を楽しみにさせるものだった。

全てのスポーツを中長期的視野で見ろというのは無理なことだと思うが、何を目的としていて、そのために現在はどういう段階を踏んでいるのかということを理解しておくと観戦の楽しみがひとつ増えるのではないか(その点バレーボールは大会の意義が見えにくく、人気があって常にTV放映されている全日本女子チームもその場その場をしのぐことしか考えていないように見えて本来目標とするべき五輪で失敗しそうな雰囲気が充満している)。

中長期の視点を持つことができれば自然と応援するチーム以外の情報も欲するようになり、よりスポーツ観戦がより楽しくなるだろう(ライバルに勝つにはどのような強化が必要かなどを考えるため他チームの情報が必須となる)。

−世界で戦う基盤は国内−

しかし、多くの日本人は世界で戦う一瞬に興味があっても同じ選手が国内で活動している時には全くと言っていいほど興味を持たない。
その典型的な例がバレーボールだ。バレーはほとんどの国際大会が日本で行われているため世界戦を目にする機会が多い。これはTVの視聴率が良く、TV放映権収入を考えると日本で行うのがベストだからだが(他国ではバレーボールの人気はそれほど高くなく、ビーチバレーの方が高いくらいだ)、Vリーグ(2007年からはプレミアリーグ)にまで興味を持っているのはごく少数だろう。

バレーボールというのは東洋の魔女の栄光もあり、年配層に受けがいいのも視聴率が高くなる要因だが、(世界の実力分布を知らない一般視聴者は気付かない抽選の偏りもあって)メダルに希望が持てる位置で試合をできているというのは大きい(男子は女子と比べて世界のトップクラスとの実力差はそれほど変わらなくとも層が段違いに厚いためにどのようにしてもメダルは遠くなる)。

世界で戦う日本人という一種のスターシステムのせいで世界戦は多くの人間が興味を持つが、世界と戦うベースとなる国内リーグ等に興味を示す人間はごくごく一部となっている。これは競技そのものの興味ではなく、世界を相手に戦うものであればなんでもいいということで、マスコミが競技そのものを追究する報道姿勢よりも世界と戦う日本人という人物(キャラクター)に焦点を当てる手法を取っていることが大いに関係していると思う(そのため他国の実力すらほとんど分からないで見ているため、スポーツを本当に好きな国民は少なく、芸能感覚で見る国民が多数でスポーツ文化自体が育ちにくい土壌となっている)。

世界バレーでは日本戦以外の試合は普通の小学校・中学校の体育館で試合をした方がいいのではないかと思われるほど観客は少数で(目測で数百人いればいい方か)、バレーボールという競技が人気ではなく(その点では外国人も大勢いたとはいえそれなりに観客が入っていた世界バスケの方がマシ)、世界と戦うバレーボール日本代表が人気なのだ(アジア大会を中継したところで多くの視聴者は興味を示さないだろう)。観客数では勝っていた世界バスケが大多数の国民から相手にされなかったのもマスコミの煽りがなかったとはいえ、実力がないことが大きい(これはラグビーにも言える)

世界と戦って強ければ人気が出るのはどこの国でも当然だろう。しかし、国内リーグの人気が0に限りなく近く、代表戦人気だけ100ではその競技に未来はない。国内の人気がある程度あって継続的に強化できる環境が必要だ。
そのためにもJリーグが頑張らなければいけない。まだJリーグはサッカーのことだけで手一杯という感じだが、サッカーを核とした総合スポーツクラブを標榜している。

これはドイツをお手本としたものだが、ドイツに限らず数多くのスポーツクラブがあることによって欧州のスポーツは非常にレベルが高い(特にイタリアはバレーボールを始めとして数多くのプロリーグがあり、球技のレベルが非常に高い)。
サッカーW杯では欧州開催ということもあってイタリアVSフランスの欧州同士の決勝戦となり(ベスト4も全て欧州勢)、世界バスケでも日本開催で発祥の地アメリカを実力で下し、スペインVSギリシャの欧州勢同士の決勝だった。バレーボールでも女子はベスト4のうち3チームが欧州で球技で欧州以外で健闘しているのはブラジルぐらいだ。

サッカーを核としてさまざまなスポーツが共存共栄している欧州が強いのは当たり前とも言える(もちろん身体能力も十分高いが身体能力だけでいえばアフリカ人がナンバー1でその恩恵を陸上競技などで受けているのがアメリカ)。日本の多くのスポーツは企業に頼り切っているものが多く、景気のいい時はいいが、景気が悪くなれば躊躇なく切るといった不安定さや、プロに徹していないこともあり世界で戦う環境は整っているとはいえない。

Jリーグがしっかりと軌道に乗り、サッカーを核とした総合スポーツクラブが全国各地に普及し、スポーツ好きの国民が増えていかなければなかなか様々な種目で世界レベルに到達するのは難しいだろう。身体能力で決して優位ではない日本人が競技をする環境面でも劣っているにも関わらず世界と互角に戦えというのが無理な話なのだから。
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