スポーツコラムNo.16

スターシステム(2006/11/20)


−手の平返し−

今回はスターシステムに関して触れてみたいと思う。サッカーファンであれば1度は聞いたことのある単語だろう。それほど深くは書かないのでスターシステムをご存知の方はこれ以上読んでも新たな発見はないと思われるのでその辺はご容赦を。

スターシステムという言葉は元日本代表監督のフィリップ・トルシエが繰り返し述べた言葉でマスコミがある特定の選手に対して殊更に必要以上持ち上げて報道することを指している。

現日本代表監督のイビチャ・オシムも日本のマスコミがスターを強引に作ろうとしている手法には辟易としているようでトルシエと同様に選手を持ち上げることに苦言を呈している(”オシムの言葉”の中に「勇人が記者に囲まれているのを見ると、私は頭が痛くなる。若い選手が少しよいプレーをしたらメディアは書き立てる。でも、少し調子が落ちて来たらいっさい書かない。するとその選手は一気に駄目になっていく。彼の人生にはトラウマが残るが、メディアは責任を取らない。」とマスコミの報道姿勢を批判している)。
オシムがマスコミに対して皮肉たっぷりな応答をするのは安易なスターシステムで稼ごうとし、サッカーを真摯に分かろうともしないメディア関係者が多いことを憂えてのことかもしれない。

特にTV局はスポーツ選手を芸能人と同列に扱っているように見える。売れている時はこれでもかというほど持ち上げて、売れなくなればあっさりと捨て、時にはアンチキャンペーンを張ってそれで視聴率を稼ぎ2度美味しい思いをしようとしてきた。

−スターは作るものではなく生まれるもの−

低迷するプロ野球では巨人にスターを。またはスターを作っていかなければいけないとスターを粗製乱造しようとしている。スターというのは他者よりも実力で飛び抜けて秀でているからスターであって狭いプロ野球界に本物のスターが数多くいるものではない。今年で言えば新庄やハンカチ王子とやらが話題になったが、実力で言えば特別他者に対して抜けているわけではなく、プレーではなくパフォーマンス(ハンカチであり、かぶりものであり)を取り上げてマスコミが作り上げた虚構のスターだと言え、その最たるものが監督長嶋だろう(背番号を見せる、見せないのレポートほどどうでもいいものはなかった)。

よく日本サッカーにはスターがいないと言われる。サッカーは世界と繋がっているため、マスコミがスターを作り上げようとしたところで実力が足りないことが誰の目にも明らかになってしまう。
事実現在の日本選手で世界一流の選手もいなければヨーロッパトップクラブでプレーしている選手もいない。どのくらいの実力を持てばスターと言っていいというのは個々の判断の違いがあるだろうが(ペレ、マラドーナクラスでなければスターではないという人もいるだろう)、現在で言えばロナウジーニョやアンリ、ドログバなど欧州トップクラブ(UEFACLでグループリーグを常時突破するようなクラブ)で代えのきかない選手はスターと呼んで差し支えないと個人的には思う。

このように見ていくと日本人でスターだと呼べる選手がいないのは当然で(もちろんおらが町のローカルスターは存在する)、スターというのは他と際立ってこそスターであり、スターというのは無理矢理作るものではない。

−スターシステムに依存する危険−

現在最もスターシステムの旨みを享受しているのが女子ゴルフだ。宮里藍、横峰さくらの二十歳前後の若い選手を集中的に取り上げてスターに祭り上げた。
アマチュア時代から有望選手として取り上げるのはいいが、過剰に取り上げすぎた感は否めない。
選手寿命が他のスポーツに比べてかなり長いゴルフで日本国内で圧倒的な成績を残すわけでもなく、現実国内には2000年から2005年まで6年連続賞金女王に輝いた不動裕里には全くといっていいほどスポットライトを当てず(海外メジャーで成績を残してこなかったのも関係あるだろうが)、宮里、横峰プッシュで異常とまで言える人気を博している。

実力的に現状では不動と宮里は変わりがないのだろう(2005年の段階で僅差)。宮里がスポットを浴びられたのは10代での活躍とキャラクターが立っているという点が大きい。不動にしても10月に30歳になったばかりでまだまだこれからの選手だが、地味なキャラクターがTVに向かなかったのだろう。

宮里は今季アメリカのUSLPGAツアーに参戦したが、1年目ということもあって3位が最高でアメリカツアーでプレーする1選手というのが日本人以外のファンの目だろう。これまでのメジャー大会の成績も11位が最高で主役に躍り出たことはない。現時点では明らかに人気に実績(実力)が追いついてはいない。もちろんスターシステムに乗せようとしたマスコミにほとんどの原因があり、宮里自身は自身の実力を客観視して真摯に実力アップに取り組んでいるように見える(これは卓球の福原愛にも同じことが言える)。

女子ゴルフが人気を博している中で悲惨な状態なのは男子ゴルフだ。女子が賞金総額や試合数が増加していく中で男子はスポンサーが次々と撤退して試合数が減っている状態だ。
バブル期の尾崎将司全盛時代はアメリカツアーの賞金王よりも獲得賞金が多いことがあるなど隆盛を誇ったが、今では見るも無残な状態となっている。

要するに人々はゴルフを見たかったわけではなく、キャラクターの立った強いジャンボ尾崎をを見たかったわけである。そのスポーツの面白さの本質を伝えようとせず、キャラクターにスポットを当てて人気を博す手法はそのプレーヤーが衰えてしまえば目も当てられない状態となる。

宮里がアメリカに去り、横峰などの人気プレーヤーもアメリカに進出すれば今の男子ツアーのようになるのは容易に想像できる。ゴルフ関係者はどのようにすれば人気が保てるかを人気とお金のある今のうちに考えておかないと人気がなくなってからでは遅すぎる(ゴルフ自体の魅力を伝える工夫と世界でコンスタントに戦える選手を輩出するための組織的な育成など)。

−スターシステムに依存しない−

その点JリーグはJリーグブームの反省を生かしてTVとは一定の距離を取った経営を行っている(TVが積極的に扱ってくれないというのもあるが)。Jリーグが発足して一大ブームが起きたが、選手の実力が伴っておらず急速に人気が衰えたが、足元を見た経営で一般に知られるような有名選手が少ない中でも次々とJリーグを目指すクラブが出てくるなど一歩一歩リーグとして発展している。

TVによる少数クラブでの全国的な人気よりも地道に全国各地にクラブを作り、地域密着をし地元で人気を得、サッカーの素晴らしさ、スポーツの素晴らしさ(楽しさ)を感じてもらうためにTV雑誌を使って移り気で飽きやすいニワカファンを増やすよりも、しっかりとサポートしてくれるファンをスタジアムに呼び込む戦略が功を奏し、観客動員は世界有数なまでになってきている(クラブ収入は入場料収入が基本という考え方で対極なのは放映権料に頼るプロ野球でその体質が観客の丼勘定、大幅な観客数の水増しに繋がっている)。

もちろん放映権料があるに越したことはないが、Jリーグが来年から地上波・BS中心からスカパー(CS)をメインにしながらも放映権料の減額を免れた。地上波放送というのは大衆を相手にするもので対象があまりにも広い。スカパーは有料放送ということでコアなファンしか加入しないが、幸いJリーグはコアなファン層が多く、スカパーで放送する価値があるコンテンツとなっている。
もちろん新規ファンの獲得も必要だが、今まではBSや地上波が邪魔をして放送できなかったローカル局に放映権を売ることによってクラブの地元をターゲットした新たなファンを獲得する戦略で現在のJリーグのファン規模から言えば妥当な戦略とも言える。



各スポーツ関係者が肝に銘じておかなければいけないのは、TVやスポーツ紙などの総合メディアの多くはその瞬間に視聴率が1%でも高く、新聞が1部でも多く売れればその後そのスポーツが荒廃しようがどうなろうか関係なく甘い汁が吸える時に吸い尽くそうとし、旨みがなくなれば別のスポーツを煽って儲ければいいとしか考えていないということだ。そして最も手っ取り早い方法が実力以上にある選手を重点的に取り上げて(特にプレー以外で)関心を引こうとするスターシステムだ。

個々人がマスコミの考えを見抜ければ問題ないが、踊らされてしまう人が多いのが現状だ。そうでなければ亀田問題も発生しなかっただろう。常に噛ませ犬の外国人としか試合をしていないにも関わらずTVはそのことを放送せず、圧倒的に強いと信じ込ませてタイトル戦もミニマム級(ボクシングの最軽量級)だった選手を相手として勝つ予定だったが、あまりにも亀田が弱過ぎたために予定が狂い、ジャッジの問題が噴出して多くの視聴者が亀田に対して疑問を遅まきながら持った(相手が弱いので再戦は勝つ可能性が高いだろうが、減量が厳しく本当なら本来の階級に戻したいがそこには実力者が揃っており、亀田の入る余地はないので階級をどうするのかが今後の見物か)。
マスコミは安易にスターを作ろうとするということを知っておくだけでもマスコミに踊らされる人が少なくなるだろう(受け手のレベルが上がれば送信側のレベルも上がらざるを得なくなる)。
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