スポーツコラムNo.15

多くの視聴者をに回すプロ野球(2006/11/13)


−後番組視聴者の恨み−

レギュラーシーズンでは視聴率低迷のため放送時間延長がなくなりつつあるプロ野球だが、今年の日本シリーズは連日4時間前後の試合時間となり、後番組を楽しみにしている視聴者の反感を相変わらず買っている。

ここはF1のサイトなのでF1を例にして説明すると10月22日日曜日は午前1時45分からブラジルGPを生中継する予定で、フジテレビは野球の延長を見越してこのGPで引退するM.シューマッハの特別番組を1時間挟んでもしも野球が延長した場合はこの番組を短縮・休止することで時間を調整することにしていた(ほぼ100%試合時間2時間40分程度で終わることはないと予想されていたのでフジの時間調整番組を挟むことはブラジルGPを生中継する上では必要な措置だった)。

しかし、9回で終わっているにも関わらず試合時間はフジテレビの予想を大きく上回って4時間近くもかかり、80分の番組延長となりブラジルGPもシューマッハ特別番組を潰しても20分遅れの番組スタートとなり、録画で放送された。

地上波で観戦するF1ファンにとっては数少ない生中継の機会が失われ、眠い目をこすって見るGPがさらに遅い時間となってかなりの迷惑を被る結果となった。ライブタイミングを併用してみれば佐藤琢磨の激走も堪能できたGPだっただけにかなりの楽しみが奪われた形となった。

問題なのはプロ野球の試合時間があまりにも長く、終了時間が全く読めないところにある。この10/22の試合のスコアは5-2で両チームの安打数は計15と少なく数字上からも打撃戦ではなかったことがよく分かる。
インプレーの時間はどう考えても長いとは考えられず、1球ごとの投球間隔、攻守交替の切り替えなどプレーとは関係ないところで無駄な時間を多く消費し、他のスポーツファンから見ればダラダラとやっていたということになる。

プロというのはアマチュアが出来ないことをするのがプロの仕事であってアマチュアが出来ることは実践していて当たり前である。しかし、プロ野球では小学生でも当たり前にやっている攻守交替をダッシュで行いスピーディーにすることや、インプレー中であれば何があっても1塁まで全力疾走するといった特別な能力が必要ではない当たり前のことが出来ていない(1塁まで全力疾走したことを褒めることなど普通に考えればおかしい)。そのため高校生までであれば4時間あれば2試合できる時間にも関わらずスピーディーにプレーをするという意識がないためにとんでもなく時間がかかる。

例えばテニスのように試合が白熱してフルセットの接戦だったために試合時間が長くなって放送時間が延長されたというのならまだ後番組の視聴者もまだ理解を示すだろうが、ダラダラと試合をしてシーズン中ずっと迷惑をかけてきていたのだからプロ野球選手の責任は非常に重い。

−F1が避ける−

巨人戦のレギュラーシーズンのゴールデンタイムの視聴率は平均9.6%と10%を割り、ゴールデンタイムで放映する番組としては完全に失格である(各局のゴールデンタイムの平均視聴率は12〜14%)。
さらにスポンサーが気にする視聴者層でもプロ野球はゴールデンタイムに常時放送する資格は全くない。

巨人戦を見ているのはM3と呼ばれる50歳以上の男性だ。多くのCMスポンサーが求めている視聴者は購買意欲が高いとされるF1と呼ばれる20〜34歳女性だ(つまりF1層がよく見ている番組はCM料金が高くなる)。少々世帯視聴率が低くてもF1層が見ていれば番組は安泰ということもある。

このF1層というのはドラマやバラエティ番組を多く視聴し、特にドラマはこのF1層をターゲットにしたものが多い。ドラマはプロ野球中継後の9時以降に放送されることがほとんどで、野球が延長したために録画予約しておいた番組が全部入りきらなかったというのは誰もが経験したことがあるだろう。酷い場合には放送休止や(実際10/26の「だめんず うぉ〜か〜 」は休止となった)番組終了予定時間より後に放送開始ということある。

自分が楽しみにしているものを奪われた時の怒りは想像以上のものがある。そしてそれを恒常的にやってきた野球に対する怒りは想像に難くない。実際に延長が理由で野球が嫌いという女性は相当数に上ると思われる。
F1層が野球を避けているというのはデータとしても表れている。前述の通り野球の視聴率を支えているのはM3層でF1層にいたってはほとんど見ていないのに等しく、ティーン(13〜19歳)も同様で100人に数人見ているかどうかという数値でクラスで会話として成り立たないという記事も出ていたほどだ。

自分の楽しみを奪った元凶をTVが煽っているからといって素直に見ますか?人間そんなに単純にできている人はそんなにはいない。どれだけマスコミが煽ろうとしても(洗脳しようとしても)視聴率が下がっていくのは当然と言える。プロ野球はあまりにも多くの敵を作りすぎたといえる(もちろん後番組視聴者以外にも)。

−崩壊がすぐそこまで迫っている−

来年からセリーグもプレーオフを実施するようだが、レギュラーシーズンの価値はますます下がることとなり、巨人戦の視聴率はたとえ巨人がプレーオフ圏内に入ろうが下落は止まらないだろう。6チーム中の3チームがプレーオフに進出というなんとも生ぬるい制度に加え、広島と横浜はフロントが上位進出を諦めている球団だ(お金をかけて選手を集めることよりもFA宣言をすれば放出し、少しでも赤字にならないようにすることが優先事項となっている)。実質3/4の争いを100数十試合もかけてするのだから緊張感がなくて当たり前で多くの国民が興味を持つとはとても思えない(もしも広島や横浜より下の順位になればよっぽど監督なり選手なり、フロントが大失態を犯したと見ていいだろう)。

最近の傾向としてトーナメント形式の大会や五輪やW杯のような1発勝負のノックアウト形式の試合は数字を取りやすい傾向があるのでプレーオフはそこそこの数字は残すかもしれない。しかし、それでは球団の重要な収入源であるレギュラーシーズンの放映権料が大幅減となり、そして近い将来地上波でのゴールデン生中継がなくなり、TV局がニュースなどであまりプロ野球を扱わなくなると(TV業界で最も先見の明があるフジテレビはプロ野球との距離を取って欧州サッカーなど他のスポーツに力を入れ始めている)広告効果が著しく低下し、球団を持つ意味がなくなるところが出てきて近鉄合併騒動のような球団消滅が出てきたり、プロ野球自体がほとんどの国と同じように1マイナースポーツになることが予想される。

というのも野球というのは監督の指示が全て攻撃を行い、守備側もマニュアル通りに動くことが基本となっており前回のコラムで指摘した観戦者が本能的に欲している観戦者の予想を超えるプレーというのは少ない。サッカーにはゴール集などが販売されており1プレーだけで魅了できるのに対してホームラン集などはほとんど見かけない。つまり野球はルールの理解はもちろんのことプレーの前後関係、チームカラーなどバックグラウンドが分かっていないと楽しみにくい特殊なスポーツなのだ。

レベルが高いとされるMLB(メジャーリーグ)の試合で野球ファンであっても知っている選手がいない試合だと十分楽しめる人間はそうはいないだろう。実際野球ファンでMLBを熱心に見ている人とサッカーファンで欧州サッカーを熱心に見ている人を比べると圧倒的に率でも絶対数でもMLBファンは少ないだろう(日米野球は巨人戦の年平均をさらに下回る視聴率だった)。
やはり想像を超えるプレーが出やすい最もレベルの高いリーグにあまり関心がないということはサッカーなどがプレーそのもので楽しめるのに対して野球は背後関係が分からないと楽しみにくいスポーツだという裏付けにもなる。

となれば野球をやったことのない欧州・アフリカ人などが野球を見ても退屈にしか思わず、普及しないのも道理となる。日本の場合はマスメディアがこれでもかと煽り、毎日中継をする環境があるからこそ複雑なルールを覚え、野球の楽しみ方を刷り込まれてきたので最大のメジャースポーツとしてやってこれた大きな要因だろう。もうひとつ挙げるとすればスターを強引に作ってプレー以外の興味を引かせたこともある(今年で言えばハンカチ?かぶりもの?)。

ということはこれから地上波での中継がなくなり、一般の人の目に触れなくなるようになることでかなりの勢いで衰退していくことが考えられる。将来を担う子供達が野球のルールも知らずに育つと、たまに野球の試合をTVで見たところで何をしているのか分からず、どこが楽しいかも分からないだろう(多くの日本人がアメリカンフットボールのどこが楽しいのか分からないように)。

1歩1歩プロ野球は着実に崩壊の道を歩んでいるのは間違いない。現在のシステムでプロ野球が存続することは日本のスポーツ界にとっては害なので(プロ野球に共栄という概念はない)このまま順調に崩壊の道を歩んでもらうことはプロ野球以外のスポーツファンにはありがたいこととも言える。
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