スポーツコラムNo.12

2006年W杯ドイツ大会を終えて(1)(2006/7/12)


−堅い守備が第一−

W杯決勝まで残ってきたイタリアとフランスはともに堅い守備が持ち味の2チームだった。ポルトガルも準決勝まで1失点と堅守を誇り、ドイツも開幕戦こそ2失点したものの試合を重ねるごとに守備陣の安定感が増していた。

攻撃的サッカーで魅せて勝つことを目標としたブラジルやオフェンスで高い評価を得ていたアルゼンチンがベスト8止まりだったことを見ると(アルゼンチンはまだ上に来る可能性はあったが)、個々の個人技に頼る傾向が強く、2人目3人目の連動性に乏しい代表チームではまずは守備組織を整備して失点しないチームがトーナメントを勝ち上がっていく可能性が高いことを改めて確認させた。

−ジダンと心中−

W杯前はアンリを中心にしたチーム作りをすべきと書いたが、ドメネクはジダンを中心に据え、ジダンの調子次第で浮きも沈みもするチーム作りを行い、外から見ると賭けに出ていたように見えた(フランス国民はジダンを溺愛し、失敗しても自分の責任はあまり問われないこともあったか)。

W杯前にアンリを中心にすべきと書いたのは、親善試合ではジダンの調子が悪く、運動量に乏しく、アンリのスペースを消し、フランスの攻撃が滞っていたからだ。
グループリーグの2試合も親善試合からの流れは変わらず、必ずジダンを経由するため遅攻となり、アンリの持ち味を出せず、かといってジダンがアンリを追い越す動きなく得点力不足に陥っていた。
ジダンを欠いたGL3戦目のトーゴ戦はアンリ・トレゼゲの2トップにしてトップ下を置かない布陣にしたため、2トップの後ろに大きなスペースが生まれたことにより、ビエラがオーバーラップをしたりとポジションの流動性が出て、多くのチャンスを生み出してGL突破を決めた。

決勝トーナメント1回戦のスペイン戦ではジダンが復帰して元のアンリ1トップでトップ下ジダンのフォーメーションに戻し、苦戦を強いられるかと思われた。

しかし、トーゴ戦をベンチから見て自分に何が必要かを気付いたのか、ジダンはGLと比べてよく動き、2列目から走り込んでのシュートを放ったりとGLとは見違える動きを見せた。
コンディションが上がったジダンを擁すればフランスは強い。

元々の堅守に加え、前線に若いリベリを置くことで非常にバランスが取れた布陣となった。リベリはドリブルなどのテクニックなども素晴らしいが、ジダンが守備まで手が回らない分を補うだけの圧倒的な運動量と、ドリブルとパスを状況に応じて使い分ける状況判断がフランスを支えた。
アンリの得点力を犠牲にしてもジダン中心で行く限りはアンリ1トップ真ん中にジダン、左にマルダ、右リベリは勝利を掴むためには適切な配置だったと思う。

スペイン相手に得点も内容も完勝した後に待ち構えていたのは王者ブラジル。決勝トーナメント1回戦までで10得点と結果は出ていたものの、ロナウドが動かないためにロナウジーニョの良さが出ず、内容は今ひとつだった。
機能しないブラジルの攻撃を止めることなどフランスにとって難しいことではなかった。アンリのゴールをきっちりと守り切り、ブラジルにも完勝した。

ポルトガルを決勝を見据えてか低調なパフォーマンスながらも下して決勝へ駒を進めた。

決勝では前評判ではイタリアが優位と伝えられたが、内容面ではフランスがイタリアを押していた。セットプレーで失点したものの、流れの中ではシュートすら打たせず、セットプレー以外からはイタリアの得点の匂いは全くしなかった。

イタイリアの守備はカテナチオと評されるが、それでもGKと1対1の場面が出たり、ペナルティーエリア内からフリーでシュートを打たれる場面がかなり見られる。GKのブッフォンの能力が非常に高いことは認めるが、GKにはノーチャンスのシュートというものがあるだけに守備はGKと1対1にさせなかったり、PA内でフリーでシュートさせないことがより確実に点を取られないことにつながる。

今回のフランスはスペイン、ブラジル、イタリア相手でも流れの中でシュートチャンスを作らせず、流れの中においてはナンバー1の守備力を誇り、それは美しささえ感じるものだった(セットプレーはスイス戦から不安定性さを感じさせていたが・・)。

結局決勝はジダンが退場し、PK決着でイタリアに軍配が上がった。ジダンが退場した時点でフランスに勝ち目はなく、PK戦になった時点でフランスが勝てる気配はなかった。よくも悪くもジダンと心中する布陣だったのでジダンが消えた時点で勝負ありだった。

−バランスが重要−

各国代表監督の仕事は、名前にこだわらずにバランスの取れたチームを作れるかにあるだろう。
特に強豪国では名前の売れたタレント複数擁し、世論もネームバリューのある選手を使えとプレッシャーを掛ける。
今回ネームバリューのある選手を使ったせいで早期敗退を喫してしまったのがブラジルとイングランドだ。

ブラジルは国民が攻撃的に美しく勝てとある意味不可能な要求を突きつける。パレイラは実績のあるロナウドに固執し、ベスト8でフランスに成す術なく敗れた。
GLのロナウド・アドリアーノの2トップは2人とも運動量に乏しく、本来ブラジルが持っているはずの流れるような攻撃はなかった。それでも並外れた決定力で勝ち進んだが、さすがにロナウド・アドリアーノの2トップではフランスの守備陣を崩せないとみたパレイラはロナウジーニョをトップに上げてロナウド・ロナウジーニョの2トップにカカを絡ませる攻撃陣で戦った。そうすると中盤でいいようにやられ、ロナウジーニョもロナウドが動かないせいで非常にやりづらそうだった。

ブラジルの敗因はバルセロナのようにロナウジーニョを中心としたチーム作りをせず、動かないロナウドにこだわったことでバランスを崩し、個の力を生かせなかった。コンフェデレーションカップのアドリアーノ・ロビーニョにロナウジーニョ・カカの布陣がボールも選手もよく動くバランスの最も取れたチョイスだったと思う。

イングランドはオーウェンの途中離脱、ポルトガル戦のルーニーの途中退場が誤算だったが、原因はそれだけではないと思う。
使えるかどうか分からないウォルコットを選出したために(実際はまだ使えるレベルには達していなかったと思われる)、FWの層が薄かったイングランド。
決勝トーナメントからは切り札を残しておきたかったのかクラウチをベンチスタートさせて、ルーニーの1トップでゲームをスタートさせた。しかし、フィジカルコンタクトに強いルーニーとはいえ、身長が1トップを張るにはいささか足りず、なかなか思うようにボールは収まらず、攻撃の形を作ることができなかった。

ポルトガル戦ではルーニーが退場した後、クラウチは1人少ないながらも1トップが機能してかなりボールが収まっていた。
イングランドとしてはクラウチとルーニーの2トップでクラウチの周りをルーニーが動く形が一番機能しそうに思えた。

しかし、前述したようにFWの層の問題もあったが、ジェラード・ランパードの2人を使いたいが、それでは守備に一抹の不安があるために守備的MFを置きたいというある意味欲張りな欲求があったためにルーニー1トップという布陣になった。

トーナメントを勝ち抜くためには失点をしないということが最重要なのでその布陣も理解でき、選手の体調が良ければそれでOKだっただろう。しかし、ランパードの調子がGLから最悪で上がる気配さえ見えなかった。守備は堅く、決勝トーナメントを無失点に抑えていたが、なかなか機能しないルーニー1トップに攻撃力を期待されたランパードが不調では得点を取れる気配がせず、PK戦の運に頼るしかなくなってしまった。

エリクソンはレノンを切り札と考えて、19歳のレノンに無用なプレッシャーを与えたくないためにさらに若いウォルコットを選出したとの話もある。もしそれが本当ならば素直に2トップでスタートして、攻撃的に行く場合はベッカムを下げてレノンを入れるオプションで良かったと思う。
そうすれば2トップの下に主に攻撃を担当するジェラードと守備を受け持つハーグリーブスとバランスが取れ(フランスで言う攻撃のビエラと守備のマケレレのように)、やり慣れた4-4-2で選手の力も最大限に引き出されたと思う(決勝トーナメントまで勝ち進んだものの、スウェーデン戦の前半以外はあまりにも内容が悪かった)。イングランド史上最強のチームのポテンシャルは確実にあり、優勝を狙える戦力だったと思うが、バランスを欠いたチームでは上まで辿り着く事ができなかった。
ファジーノ岡山と日本スポーツ ホーム スポーツコラム目次