−プロ集団への変化− ファジアーノ岡山は2006年7月を境に変化している。Jリーグ準加盟(Jリーグに参入できる権利を持ったクラブ)に向けて運営会社を設立し、代表に木村正明を迎える。 東大卒の外資系証券の執行役員という肩書きが一人歩きしてしまいがちだが、サポーターも木村社長の取り組みには賞賛を惜しまない。 まず木村社長就任前のファジアーノ岡山はアマチュアといったらそれまでで、人手不足等もあり、スポンサーの開拓などプロ組織として必須の営業収入はスズメの涙ほどしかなかったものを、木村社長を始めとするフロント陣の努力によって2年間で数十倍にまで増加させることに成功した。 パート1で紹介したように岡山はプロスポーツ空白地帯で野球がメジャースポーツの土地柄だ。その中で親会社丸抱えの野球基準に染まった経営者達のスポーツ観を地道に説得してスポンサーになってもらうのは非常に困難を伴ったのは想像に難くない。この2006年7月の木村社長就任というのがファジアーノ岡山の大きな転機になったのは間違いない。 −思いがけずJFLを1年で通過− JFLは地域リーグ決勝大会に比べれば楽に通過できる。そのようにパート1で述べたが、それはお金をしっかりかけて準備万端で戦えばの話である。 ファジアーノ岡山は当初2008年にJFL4位以内に入ってJ2昇格を目標とはしていなかった。ファジアーノ岡山の予算は2億2000万円でうち選手人件費は6000万円。J2昇格へ万全の体制を敷いた栃木の総支出4億3000万円(選手・スタッフ人件費1億6000万円)や2007年にJ2昇格を果たした熊本の3億円には遠く及ばない予算で、J2入りを狙っていた鳥取の選手人件費1億3300万円に対しても半分しか選手に充てる資金はない状態でとてもJ2を狙える戦力は整っていないように見え、2008年は基盤を整えJFLで真ん中よりも上で終えることが出来ればOKのような考えが多数を占めていたように思う。 しかし、リーグが開幕すると開幕6連勝を含む10戦負けなしの快進撃でスタートダッシュを決めてJ2昇格を意識せざるを得ない開幕前には予想もしなかった展開となる。 最大の要因は地域リーグからメンバーをほとんどいじらなかったことによるチームの熟成度と他チームから研究される前だったということが大きかった。 ファジアーノ岡山のフォーメーションは典型的な4-4-2でボールを奪うととにかくFWにめがけて蹴るか、両サイドのスペースへ蹴るかどちらかがほとんどで中盤でパスを繋いでポゼッションを高めるような強者の戦い方ではない(DF、MFの足下の技術は高くないのでボールを繋ぐ戦術はリスクが高い)。 FWの喜山と小林(康)の決定力がJFLでは群を抜いていたためにとにかく2人にボールを集めて速い攻撃でゴールを奪うというのがファジアーノスタイルだった。ボールを奪ったら手数をかけずに攻撃するために両FWのおかげで得点力もあったが、守備の時間が相対的に長く疲労もするため失点も多く、点の取り合いを覚悟の上での戦い方が序盤戦は功を奏した。 JFLのクラブも初めはノーマークだったファジアーノ岡山を研究し、岡山の得点源である両FWのマークがきつくなると10戦負けなしの勢いがパタリと消えてしまう。 11節から後期1節の8試合で2勝5敗1分と失速したわけだが、その間に相手に研究された戦い方を変えようとした。 15節から抜群の得点力を誇り、技術のあるFW喜山をボランチの位置に下げてしっかりとボールを落ち着かせてポゼッション(支配率)を高める戦い方を模索した。内容は上向いたもののいつまでも喜山にボランチをさせるわけにも行かず、ボールを落ち着かせることの出来る元Jリーガーの関を補強する。 関は後期2節から出場し、小野とボランチを組んでゲームを組み立てた。関は非常に守備が強く、運動量豊富でキープ力も高くチームの救世主になるかに思えた。関加入後2連勝し、4試合で3勝1分と調子に乗るかに思えたが、関は守備やキープに関してはさすがJリーグ経験者というものを見せたが、攻撃に関してはチームと関のスタイルがあまりフィットしなかったためホームで勝てず、戦術を開幕序盤戦のような前線への放り込みに戻す。チームで唯一個人でドリブル突破できる妹尾をスーパーサブ(控え)切り札として取っておくために、関を左サイドハーフに置いて前線での運動量を増やした(それまでは妹尾と川原の両サイドでどちらも運動量が豊富というタイプではない)。 結果として終盤7試合を3勝2敗2分で乗り切り、勝ち星は全てアウェイ(ホームは1分1敗)ということになり、この戦術が正しかったかどうかは判断が分かれるところだが、ギリギリ他力ながら4位を確保したことにより、開幕前は想像しなかったJ2昇格を決めた。
−J2での課題− ファジアーノ岡山は2009/1/2現在で補強の真っ只中とはいえ、DFのレギュラー格だった伊藤、重光を放出し、当たりの強さと足下の技術では別格のものを見せていた関も放出している。 現在のところDFとボランチの補強は進んでいるように見えるが(新加入の選手がどの程度使えるのか未知数ではあるが)、攻撃面での補強は全くの手付かずの状態で、チーム残留が有力視されていた鴨川もチームを離れることになり、JFLで失点の多かった守備面だけではなく、攻撃面でもJ2を戦っていけるのかという不安を持つサポーターも多いだろう。 ファジアーノ岡山の2008年までのスタイルはとにかく前にボールを運ぶ速攻だった。JFL後期でさえ両FWを抑えられると得点力がガクッと落ちていて、JFLでも真ん中程度の力しかなかったように見えただけに相手選手のレベルが大きく上がるJ2の舞台で今までの戦術が通用するとはとても思えない。 それだけに監督がどのような方針でチームを作っていくのか見物だ。2008年のチームは2007年からチームを作って既に熟成されていて相手としても対応がしやすいと言わざるを得ない。 特にファジアーノ岡山の選手達は特にMF以下個人技術に優れているというわけではないので、ガンバ大阪やサンフレッチェ広島、海外では昨シーズンまでのアーセナルのようなとことん繋いで崩し切る高い技術と戦術眼が必要な美しく見ているものを楽しませるサッカーは無理なので(喜山はそういうやってて楽しいサッカーを本当はしたいようだが)、どういった戦術を用いるのか興味深い。 |
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