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記憶の痕跡(1)


その機体は瓦礫の中にうずくまっている。
ギギ、と音を立てて、ゆっくりと、立ち上がろうとする。
その前方に、幻獣が霧散した後に残る血の揺らぎの中に、機体より二周りは巨大な影が姿を現す。
少しずつ薄くなり掻き消える霧。蒸し暑く、不快な霧。

前を見ろと、私は叫んだ。

士魂号は腕を上げた。不自然な姿勢のまま、狙いをつけた銃がガチャリと激鉄をはずす。

引き金は、引かれない。

時間が止まったような、音のないその光景とは別に、頭の上で怒声が響いている。
食い入るように見つめた画面。ノイズ。
機体と指揮車を結ぶ通信機能が故障している。音はない。しかし聞こえた。

「…すみません」

自嘲気味の笑いを含んで、静かな声。頭の奥に、響く声。




■      ■



頭の中で鐘が鳴り響くような、頭痛。
木霊するそれで彼は目を覚ました。
起き上がった姿勢のまま、それが静まるのを待つ。
靄がかかったような意識を奮い起こし、夢の内容を反芻した。
はっとして、振り返る。カレンダーの日付は、まだ、三月だ。
安堵と、同時に訪れる鈍い痛みに息をつく。

…何度目、いや、「何周目」だ?

あまりにも鮮やかな夢に、混乱しているのがわかる。
彼はベッドから足を下ろし、パソコンの電源を入れた。
毎日の覚書をたどり、記憶を整理する。

薄暗い室内にはベッドとパソコンデスクだけがある。
時刻は午後をまわってはいるがまだ昼間と言える時間だ。
しかし、ブラインドが重く閉まっているせいでその空気は淀みを感じさせる。

彼は…いつもの彼を見知っている人間が見たら別人かと思うだろう重い足取りで、バスルームへ向かった。

酷く汗をかいていた。




『この世界がループしているとしたらどうしますか?』

唐突に切り出された言葉に、その穏やかな表情をたたえた少年は、あどけなく笑った。

『君も覚えているんだね』

そういって、ふと目を細めて、胸に手を当てて、微かに俯く。

『…見覚えがあるんだ。聞き覚えも。
 あいまいで、はっきりとしないけれど、
 僕は覚えてる。あの痛み。…あの…言葉。』
 
ぎり、と歯を噛み締めた。

『もう僕は失敗しない』


殆ど水ともいえる温度のシャワーがどんどんと体温を奪っていく。
流れ落ちる水の中に色々なものを溶かして、なくしていくように、そのまま。
壁の冷たいタイルに両手を突いて、彼は呻いた。

『もう失敗しない』

そうだ、失敗した、あれは、失敗だった。

あの瞬間に強烈な既視感が脳裏を襲った。
もう二度と。繰り返したくない。
記憶。夢。あれは、現実だったのだろうか?
繰り返されすぎた現実。


 ”現実が繰り返す筈が無い”



岩田は両手で顔を覆った。




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