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火曜午後二時/ハンガー二階


其の日は快晴。
そして戦況は、あいかわらず幻獣優勢ではあるものの、
ついこの間まで絶望的だった状況からはかなり上向いている。
しかも先ほど、本州からの支援の連絡があったばかりだ。

司令としてこれほど沸き立つ午後があろうか、とばかりに。

速水厚志は、午後の授業を放り出してまで就いていた資料整理を、これまた放り出して、散歩中であった。

とはいえ、さすがに授業中であるプレハブの周りを
うろうろするのはまずい。
この間もあまりの天気のよさにふらふらと屋上にあがろうとして、
教室の中から襟首を引っつかまれたばかりだ。

「散歩ついでに、各部署の状況でも点検しようかなぁ」

享楽的に、建設的な事を言うのはいつものことだった。



ハンガーの中を覗き込んだ瞬間。
ガラガラガシャーン!というけたたましい音。
そして、ガン、と鈍い音が、それに続く。
音は上から、聞こえたようだ。
見上げた二階から、スパナが転がって、目の前に落下する。

それを拾って、おそるおそる階段を上る。

「…………………」


遠坂が、床に突っ伏していた。


膝を突き、顔はうなだれ、
ようやく腕で体を支えているといった具合で、
はぁぁぁぁぁぁ、とえらく重苦しいため息が吐かれる。

「…遠坂、君?」

つぶやくように半疑問系で呼ぶと、はっ、と顔を上げる。
たちまち、その端正な顔は紅潮した。

「ぁ、あっ、こ、これは…速水、司令。」

あわあわと立ち上がる。

「ええと…」

速水は呼んだものの、何を疑問にすればいいかわからず、二の句が続かない。遠坂もよほど動転しているのか、困った顔で速水を見つめるばかりだ。
しばらく静寂があたりを包んだ後、速水は呼んだ手前、提案することにした。

「何してるの?」

「…仕事、です。」
目を逸らしたり戻したりしながら遠坂が言う。

仕事、していたのかもしれないが、多分それは答えるべきところが違う気がする…と、速水は顔に書いた。

「…いや…その、ちょっと、人生について…考えてました。」

多分また、仕事している最中に自分の考えにはいりこみすぎて、
いきなり落ち込んだんだろうな、と速水は思った。

「なんでこんなことになったのだろう…と。」

遠坂は、言いながら顔を上げ、遠い目で士魂号を見上げる。
どこからか吹き込んだ風が彼の前髪をさらりと撫でた。爽やかだ。
「なんで、って?」
速水もつられて、遠坂と…岩田の駆る、その三番機を見上げる。
「君たち二人の働きはすごくいいと、思うけど…」

実際、彼ら二人が三番機に乗るという話になったとき、殆どの人間がいい顔をしなかった。
即ち、それって笑えないギャグだね、とか、人間関係に悩んだ時はまず俺に相談しろよ、とか、まったく予備機陳情するのも大変なんよ!とか、………はっ…とか、まぁ、そんな感じだった。

しかし大概の予想に反して、彼らの三番機は信じられないほどの活躍を見せた。
柴村いわく、岩田は戦車経験があるのではないか?、いや、絢爛舞踏の経験があるのやもしれんな、…何を変な顔をしている、柴村流のジョークだ、笑え。ってな具合に。

「そうですね、ええ、そうです。
 …いえ、いいんです。気にしないでください。」
遠坂は他人事のようにそれだけ言うと、
地を這うようなため息をついた。

気にするな、といわれても。そのエクトプラズムのように目で見えそうなため息をはかれては、気になる。

「どちらにしろこれが運命だったんでしょう、僕の…。
 ええ、ですから、気にしないで下さい」

力ない微笑み。そして力いっぱいの先走りの考え。
この思い込みの強ささえなければ、きっと彼も人並みの幸せを手に入れられただろうなぁ、と、速水はぽややんとはとてもいえない考えを展開した。

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