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月曜昼十二時半/プレハブ屋上


■   ■


手の中のそれを見つめていた。
それは証。
それは己が殺す証。
自分と、そして敵を殺す証。

彼…遠坂は、一人、昼休みをその屋上で過ごしていた。
ゆるやかに流れる風が、掛けられた洗濯物をはためかせている。
彼は食べかけのまましばらく横に放り出してあった弁当の蓋を閉めて、ふぅと息をついた。

ポケットの中から士魂勲章を取り出す。
さっきから何度も、仕舞っては、取り出し、眺めては、
また仕舞うのを繰り返している。

何をいまさら。
迷っているわけじゃ、ないんだろうに。

その瞬間は、何かをしているときはすべて忘れられる、
しかしこうして息をつくと、
余計なことばかりが頭をいっぱいにする。

…何も考えずに、いられたら。

…と、それはちがうと、思い直す。
考えたかったから、ここに来た筈だと。
自分は自分だと、言いたかったからここにきたのだ。
自分は自分だと、示したかったから。

はぁと息をつく。何度目のため息だろう。と、自分であきれる。
まだ早いが教室にもどろうか…と思ったそのとき、
階下から階段を上ってくる音が聞こえた。


「…どちらにしろ、早く三番機を復帰させなきゃね。
 そのためには…パイロットがいる。」
この声は、確か…そう、元三番機パイロットの、速水厚志。
いつも柔らかな雰囲気を漂わせている彼が、日常生活でこんな燐とした声を出すのは、初めて聞いた。

遠坂は座ったまま階段の方へ視線を向けた。シーツがふわりと視界を隠す。
二つの人影は階段と屋根との間、踊り場で足をとめていた。一人は速水だが、もう一人は…

「フフフ、現在戦車技能を持っているフリィの方は
 茜君のみですねェ!あとは整備士に三人、
 即ち僕と、狩谷君と、遠坂君ですか!
 なんともブリリアントに微妙。素晴らしいぃ!」

遠坂はズル、と少しこけた。べつにオチを期待していたわけではないのだが、なんとなく、そう、なんとなく。
…聞き覚えのある岩田の声も、いつになく真剣に聞こえる。
無論、いつもと比べて、内容が、だ。

「うーん、その中から二人三番機に乗せるとなるとなぁ…
 せめてどちらかが戦車経験者だったら、いいんだけど。
 いきなり激戦区に出ることになるだろうし…」

あ、と速水がなにかを思いついたように手を打った。

「遠坂君と岩田君はおなじ一番機整備士だよね。」

まるでいい考えだ!とばかりに速水が子供っぽく声を上げる。
遠坂は自分の名前があげられた、しかも岩田と同列に、ということで思わず腰を浮かす。

「二人に複座に乗ってもらうってのはどうかな?
 職場もおなじってことで、いろいろ互いのことわかるだろうし」

常にふらふら動いている岩田が、目の前でだらんと両手をたらしているのに気がついて、速水はあれ?と首をかしげた。

その瞬間、岩田ははっ!と気がついたようで、即座に両ポケットからお手製火の玉を出現させる。
「ああ、あまりのことにこのイワッチ、
 一瞬素に戻ってしまいました。迂闊!」
よろろとよろめきながら火の玉を自分のまわりで周回させ、そして仕舞う。

「あれ?…ダメ?」
ぽりぽりと頭をかく速水に、岩田は恨めしそうに目を向ける。

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