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月曜昼十二時半/プレハブ屋上


其の日の朝、司令に就任したばかりの彼が難しい顔で歩いているのを見た。
こちらの視線に気づいて、顔を上げた彼は、困ったように、笑う。
少し前まではいつも見た顔。
いつもその柔らかな笑顔を、彼はしていた。
でも彼はすぐに強い目をした。

「一緒に教室行こうか、別だけど、前まで」



三番機パイロットであった速水が、
絢爛舞踏もあわやとまで言われたその機体を捨てて
真紅のスカーフをまとったのはつい先日のことだ。
傍目にも気落ち激しき柴村の姫君を、どんな話術を駆使したのか二番機パイロットへと押し上げ、
彼は無謀とも思える指揮を執った。

今まで戦力の中心だった三番機は、
パイロット、狙撃手共に不在の為戦場に出ることはできない。
白兵戦を主とする為ただでさえ突出しがちな一番機、急な後方支援を強いられる事となった舞の二番機。
そしてスカウトと指揮車というそのただでさえ急ごしらえな
小隊の、さらに急場しのぎの取り合わせで、
突然数を増やし始めた幻獣がさらにさらに優勢となっている戦場を、厳選するかのように回り始めたのだ。

それは戦死者が出ないのが不思議なほどの。


「フフフ、速水君。其の顔はアレですね?
 悩み、そうアナタは悩んでいるゥゥ!
 ナンですか、ラブですか!恋ですか!?
 遠慮などいりません!
 さぁ、このイワッチにとめどなくぶつけてごらんなさいィィィ!!」
  
白くて細長いものがすさまじい勢いで、回転し、ひねられ、そしてまた逆回転している。
さながらそれは洗濯機のよう、どちらかといえば、脱水されている洗濯物に似ている。
授業が終わってからもしばらく机でぼうっとしていた速水は、目の前で展開されるそれにやっと現実に引き戻された。
あまり引き戻されたくもない現実かもしれないが。

「ああ、岩田君。(…君二組じゃないの?…)
 ええと…僕そんな変な顔してた…?」

他のクラスメイトから見るに、この二人は妙な組み合わせだった。
常に踊っている、何を考えているのかよくわからない、電波、異様、深入りせぬが不文律な男岩田と、
戦場では鬼のような活躍をみせるものの、日常はこのとおり常に花びらか点描かをとばしているようなぽややん速水。
その会話ははっきり言って、かみ合っているようにはとても見えない。
それでもなぜか仲はよろしいようで、話している姿はどこでもよく見かける。
5121小隊、七不思議のひとつである。

「フフフ。そんなことを言ってごまかそうったってダメです。
 僕のこの恐ろしイィ程の洞察力は!見抜いているのです!
 …ズバリ戦況のことですね?フフフ、最高によろしくない。
 宜しくないところがまた、イイィ!」

岩田は、なにもそんな狭いところでそう激しくクネクネせずともいいだろう、と、彼を視界にいれまいと努力している善行元司令にまで心のなかでつっこませる動きでまくしたてた。

言葉の意味だけを抜き出せば、多分彼が新司令官のことを心配しているっぽいということはわかるのだが。
いかんせん岩田の妙な動きと抑揚に気を取られがちな殆どの人間は、速水がアレに絡まれているように見えるだろう。実際、絡んでいる。いや、絡みつきそうな勢いだ。

と、突然その動きが止まる。
ゆらりとした動きで速水に視線を戻すと、言った。
「フフフ、突然アナタの歩行分速が知りたくなりました。
 歩きましょう。」
暗に岩田のいわんとしていることを悟った速水は、少し考えてから、頷く。
「…うん、わかった」
そしてゆらゆらと出て行く二人。正確にはゆれているのは一人。
その「違和感」を見送った一組一同は、一瞬震えた喧騒をまた取り戻すのだった。


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