降下作戦 |
「誘導は、いりません、準竜師」 「……ふん、よかろう。通信回線は」 「こちらからシャットダウンさせていただきます、宜しいですか?」 「好きにしろ。それで作戦が成功するのならな」 「ありがとうございます」 「どういうことですか?」 「僕にはあなたがいますから」 「…どういうことですか」 「私には私の、戦いがあるのです、タイガー」 (戦い?) 「音声通信終了します、緊急通信は各自の端末から行ってください」 「了解」 「了解」 「それでは、健闘を祈る」 可能な限りギリギリまでライトを絞ったヘリから、機体は伸びるワイヤーに繋がれて降りていく。 風の音。聞こえる気がする。ぞくりと肌が泡立つ。 降り立ったのは敵軍からは死角になる山脈の裏手。 行軍する幻獣は二十、スキュラ二、きたかぜゾンビ四、ミノタウロス四、キメラ六、ゴルゴーン四。しかしいつ増援が来るかも分からない。 ヘリが高度を上げ、みるみるうちに厚く黒い雲の谷間に飲まれていく。ゆるやかに、ぬるい風が吹いた、 呼吸すら躊躇させる空気の中、岩田が、つぶやく。 「…行きますよ」 屈んだ機体が大きく伸びる、静かに踏み入り山上に立つと、 こちらの気配に気づいた獣がぐるりと首を回す。 高く上げた右手のアサルトが、真っ黒な空に煙幕を放つ。 上空で、弾ける音、それが合図のように。 己一騎に群がってくる獣はまるで現実味がなく、遠坂は頭の奥が痺れそうになる、そのたびに歯を食いしばった。 「いつもと同じですよ、タイガァ、フフフ」 岩田の声。愉悦の気配を乗せながらも、どこか張りつめた響きが伺えるのは気のせいだろうか? 「わかっています!現在視界内十二体、視界外四体、ターゲットロックオンします、防御体制!」 口の中でつぶやく、いつもと同じだと、そうして、遠坂は座席の背に背中を押し付けるようにして、振動に耐えた。 獣の群れの中に飛び込む、展開される装甲。次々とそれに向けて生体ミサイルが打ち込まれる、そのたびに足が地面へとめり込み機体が揺れる。 「ミノタウロス三体撃破!ゴルゴーン三体、きたかぜゾンビ四体、キメラ二体撃破!」 ミサイルの衝撃に沈んだ機体を起こし、左に飛ぶ。ミサイル効果範囲外に居たキメラをそのまま左腕の太刀が薙ぎ払う。 「残機、スキュラ二体、ミノタウロス、ゴルゴーン各一体、キメラ三体確認」 ここまでは、いつも通り。しかしこれも一度きりだ。後は援護の無い中単独で残党を殲滅する。 体制を立て直し、向き直る。上空に浮かぶ巨大な生体飛空船の、単眼が火を吹くように赤く染まった。 瞬間熱線が機体を貫く。煙幕は風に薄まり既にその効果をなくしていた。 遠坂の頭に、布を裂くような叫び声が何重にも響く。脳裏を焼く声。この声は、お前の。 「遠坂!」 呼ばれた声に遠坂は目を開いた。赤い視界。機体状況を示すモニターの一部が明滅を繰り返している。 「っ、右足が損傷しています!スキュラ、前方より接近!」 機体がスキュラの真下に滑り込むように飛ぶ。がくりと右足が力を失い機体が揺らぐが、踏みとどまる。左足だけで跳躍し、切り上げる。 刃がその頭部を切り離すと、生体船はぶくぶくとその巨体から血を吹き上げた。ねっとりと生体部品であった獣が滑り落ち、力を失うように地表へと沈没していく。轟音。 腰を沈めた機体に、上空から熱線が襲い掛かる。跳躍、地面に足がつく瞬間にめきりと嫌な感触がした。 「フフフ、どうなりました?」 「切り離したほうがいいくらいですね。前方スキュラ!来ます!」 「了解、もうすこし、無茶をしますよ」 |
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