ポテトマな日々 |
「おはよう。珍しく一人だね」 その日岩田が屋上で一人食事を終え、ギャグを考えたり寝転がったりしていると、速水が現れた。 「フフフ、おはようございますぅ速水司令。 しかし僕はいつでも皆の心の中に。 ですからロンリーではないのですフフフ」 寝転がったまま岩田はぴらぴらと手を振る。歩み寄ってきた速水にやっと体を起こした。 「遠坂君は?」 「フフフ、知りません」 そう、と速水は周りをきょろきょろと見渡した。 「ここにこんなものがあるんだけど」 取り出される写真。 そこには遠坂の…裸体が、今まさにシャツを羽織ろうと四苦八苦している姿が、激写されている。 岩田はそれを一瞥すると、顎に手をやってポーズを決めた。 「フフフ、僕には劣りますね。これがどうかしましたか?」 「司令権限で没収してきたものなんだけどさ、いる?」 速水は笑顔で聞く。笑顔で出すものでもないような気もするが、笑顔である。 対する岩田は跳ね上がるように立ち上がり、実に心外だーとでもいう動きをし始めた。といっても普通の人間なら如何に心外でもそんな動きはしないものだが。 「ぬぁ〜ぜぇ〜それを僕にいうのですか? 理解不能理解不能!!」 岩田は今まで速水が見たことのないような動きでクネクネと左右に振れた。新しい動きだ。 おそらくそれが岩田の動揺を表しているのだが、速水はそれに気づかないふりで首をかしげる。 「じゃあいらないかぁ、誰かいるかなぁ」 速水は背を向けて歩み去ろうとした。 「お待ちなさい!」 ちょっと待ったコールがかかる。 「没収しておいて誰かにプレゼント提案とは どういう了見ですか速水君。」 岩田はなぜか怒っている。 「んー、だって没収したのはこれを売りさばいてたからだからねぇ、 お金がからまない提案なら別によかったんだけど」 「なんと!放任主義ですねさすがはやみん。 ですがこのイワッチは不服です。」 「じゃあいる?」 岩田はびよーんと腕をふりあげながらあとずさり、そのまま揺れる。それは海底に揺らめくワカメに似ていた。 「いる〜いらない〜いる〜いらない〜」 多分動揺している。 「素直じゃないなぁ」 速水は手を腰にあててため息をついた。 「フフフ、なにをたくらんでいるのですか速水君。 僕をモノでつろうったってそうはいきませんよおぉ」 「べつにつろうなんて考えてないってば。 いるならあげようかなぁって思っただけだよー」 速水は手をふるが岩田は警戒するように身構えるだけだ。しかもそのまま軽快な足取りで遠ざかっていく。 「ねぇ、いらないのー?」 速水が口に手を当てて呼ばないといけないくらいまで岩田は遠ざかる。 「ぼかぁ悟りを開いているので物欲はないのですよ、 しかし!なぜか、ぁあこの熱い思いが〜胸をしめつける〜」 岩田ははるか彼方で自分を抱きしめながら回転している。 「いわーたーくーーん」 速水は声をかぎりに叫ぶ。岩田はもう屋根の隅のほうまで行っている。落ちそうだが、器用に回転している。 「フハハハハハハ」 笑っている。 「いらーなーいーのーーー」 もういちど呼んでみる。岩田は屋根を削りはじめている。危険だ。 「フハハハハハハハハ」 笑っている。 「すてちゃーーうーーよーー??」 最終通告のつもりで呼んでみる。岩田の姿が視界から消えた。 「フフフありがたくちょうだいしてあげます」 「うわぁ!」 いつのまにか真横にいた岩田に速水は飛びあがる。 しかも持っていたはずの写真はすでに岩田がぴらぴらとひらめかせている。 「フフフ、見れば見るほどにブリリアント!ですねぇフフフ。 これはぁぁ着替え途中ですか…、 撮ったのは男子ですねぇ…ククク」 いいながら岩田は無表情だ。口元だけで笑う様が鬼気迫っている。 「あ、あー、僕は、僕は撮ったひとはー、わからないー、よー」 速水は無駄とは知りながらも一応嘘をつく。岩田はくるりと回転して、それを懐にしまった。 「フフフ、心配は御無用!ぼかぁ血は好みませんからねフフフ。 吐くのは好きですが」 そんなことより、と岩田は目を閉じる。テレパスを使っているようだ。 「ハンガー二階気力を回復したいなぁ…フフフそこですねぇ!」 カッと目を開くと、一度ためて、ばっと両手をあげ、岩田は空を仰ぐ。 「フフフフこれをタイガァに見せびらかして嫌な顔をされるのです フハハハハ」 岩田は幸福状態になって足元を三十センチ浮かせながらスキップして去っていった。 「……本当ーー素直じゃないなぁ…」 いや、ある意味すごく素直なのかもしれないが。 その後ろ姿が見えなくなるまで見送り、速水もまたその場を後にした。 其の日昼過ぎ、ハンガーから流星が飛んだと小隊の数名が証言したが、着地地点は不明である。 2002/4/24/BXB |
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