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記憶の痕跡(3)


「フフフ、ラブラブビームに撃墜されたようですねタイガァア」

結局そのまま後ろ向きに階段を最後まで下りてくる羽目になった遠坂を、会話ポーズで岩田が出迎える。

「…知ってたんですか。」
知ってたならとめろよ、と思ったが、岩田が止めるわけがないことはもちろんわかっているので、言わない。
「フフフ、貴方で三人目です。」
…そういえば、午後の授業に二人は出ていなかったな…と遠坂はぼんやり思った。

「それで、岩田君は、
 二人に気をつかってここにいる…んですか?」
「まさか!!」
岩田は三回転半してひねりを加えたままのポーズをきめた。
もちろんそう思っていったわけがない。どうせ他のメンバーがあわてて戻ってくるのをひやかしていただけだろう。
「フフフ、しかし皆さん気合が足りませんね。
 即ちソウルがこもっておりません。どうせ!邪魔をするなら!
 もっと抉りこむようにかつ執拗に雰囲気をぶち壊すべきです!」
「…別に誰も邪魔をしたいわけでは」
「いいでしょう!特別に僕がお手本をみせてさしあげましょう!
 ククク、ハハハハハ!」
言うなり岩田は階段を二段抜かしで軽やかに駆け上がっていった。

間。

音も無く、岩田は二階の柵を軽々と飛び越えて華麗な放物線を描き、落下した。

■     ■


彼は言った。
幸福が欲しいと。
本当の、あるべき正しい世界を、と。

彼には見えていたんだろうか、その「正義」が?

何者もすべてが等しく幸福であるべきだと言うのだろうか、
それとも、すべてが等しく不幸であるべきだと…

そしてそのために貴方は。

死を選んだのか?

それとも、貴方は…、

その正しさを掴めないと思ったからなのか…




彼は宙空に手を差し伸べるようにして、目を開けた。
薄暗さに、いまだ夢の中のようで、しばらくそのままだった。
ふっと、腕を下ろした。埃っぽい布団がばふ、と音を立てた。

…ここはどこだ?

天井を見ながら彼は声なくつぶやいた。

顔を横へ向ける。ゆっくりと部屋の中を見回して、そこが医務室だということを確認した。
…医務室。自分の部屋じゃない…

いまは、いつだ? 状況は?


突然襲ってくる焦燥感に、彼は飛び起きた。その瞬間頭に鈍痛が響く。
痛みに動きを止めた時、室内に光が差し込んだ。
ガチャリと音がして、ドアの開く気配。赤く低い西日がちょうど体に当たる。

「あ、復活しましたね」

まだぎしぎしと痛む頭を抑えて、顔を上げる。
うず高く毛布類を抱えた青年がドアをあけた姿勢のままこちらを見ていた。

…遠坂。

唇で反芻する。

遠坂はかかえた布団で押すように扉をあけると、部屋の中から足で扉を閉めた。
部屋はまた薄い闇に染まる。


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