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漢達の夜





 そこには男達がいた。
 「今より作戦の実行をします」
 深夜零時。
 「フフフ、合言葉を決めましょう。
  合言葉は、イワッチ・ラヴラヴ・メンソーレです」
 人気のない女子校の裏庭。
 「きちー。それは恥ずかしいばい」
 男達は動き出す。

 「なぁ、あいつら置いてかない?」
 「そうしたいのは山々なんですが」


 抜き足、差し足、忍び足。
 「ボスの言っていたのは、この辺りですね」
 いつの間にボスになったんだ、と突っ込みを入れたいのを我慢して遠坂は頷いた。
 入り口にいる滝川に視線を送る。

 Lesson 1. 手を音が鳴らない程度に叩く。
 Lesson 2. そして、ピース。
 Lesson 3. 両手でイビツな○をつくり、
 Lesson 4. 敬礼でもするかのような(もしくは、覗くような?)ポーズ。

 滝川は以上の事を終えると、不適な笑みを浮かべた。
 それが開始の合図だった。
 中村の手に汗がにじむ。
 「震えていますよ」
 「武者震いばい」
 「わかっています」
 素早く部屋へ入る中村と岩田。

 「今回はただ靴下をとればいいという訳ではない」
 「ああ、わかってると。
  量より質。一日靴下100足でも一ヶ月靴下1足には勝ち目はない!」
 「フフフ、そういう事」
 一目見ただけで何日ものか察知する眼。
 明らかに昔の彼らではなかった。
 (やりますね。今の彼らには流石に私でも勝てるかどうか‥‥‥)
 二人の後ろ姿を見ていた遠坂は靴下が手に入る喜びと共に、少しの歯痒さを覚えた。

 そして、最後の一足に指先がふれた時の事だった。
 「まずい!誰かが来る!!」
 「何ですって!?」
 「きちー!」
 中村は出口へと走った。
 最後の一足は惜しい。
 けれど、今まで手に入れた靴下を失うのはもっと惜しい。
 滝川は逃げる中村を安全な方へと誘導しつつ、自分も逃げていった。
 遠坂は中村の逃げたのを確認すると、最後の一足を手に取った。
 「遠坂くん、僕たちも逃げましょう」
 「ええ」

 「そこにいるのはわかっているわ!!」
 声がした。

 「来ると思った‥‥。
  その為にこれだけの靴下を集めたんだから。
  臭い、汚い、脱ぎたい‥‥‥、ああ、もう水虫になるかと思ったわ!」
 (何!?)
 遠坂はなるべく暗闇に姿を隠しながら、声をきいていた。
 相手の姿は見えない。
 あちら側も遠坂の姿を見つけられないでいるようだった。
 「貴方達は私達の策にはまったのよ。
  さぁ!お縄ちょうだいするわよ!!」
 (くっ!!)
 遠坂はゆっくりと手に持った靴下を岩田に渡した。
 (これを持って逃げて下さい)
 (‥‥?)
 (私が囮になりますから。早く‥‥)
 (‥‥遠坂くん‥‥)

 その時だ。
 バタバタと人が走ってくる音が響いた。
 「委員長!!」
 「何?そんなにあわて‥‥」
 「早くきてください!校庭にソックス・ハンターのやつらが!!」
 「そんなバカな」
 委員長と呼ばれた女は一瞬戸惑いながらも、後輩の後をついていった。
 「やられたわ‥‥。
  あちらの方が一枚上手だった訳ね」
 女は自嘲した。

 「行った‥‥ようですね」
 「ええ」
 遠坂がため息をついた。
 「あの〜、遠坂くん、ちょっと痛いのですが‥‥」
 そこには遠坂と部屋の角に挟まれた細長い岩田がいた。
 「す、すみません」
 「いえいえ」
 (よくこれで靴下を持って逃げろと言ったものだ‥‥。
  というのはおいといて)
 「まさか貴方が僕の為に身体をはろうとするなどとは、思ってもみませんでした。
  イワッチ感激」
 取り敢えず、クネクネしてみた。
 「そ、そんな‥‥あれは靴下の為です」
 「フフフ、まぁ、そうは言っても‥‥何かお礼をしなくてはいけませんね」
 岩田は暗闇の中イソイソしだした。
 「身体をはろうとしてくれた、という事でこちらからもお返しを。
  あ〜、いそいそ。は〜、いそいそ」
 「い、いりません!」
 「いやですよ、こっちを向いちゃ。
  今脱いでるんですから、破廉恥です」
 「な、な、な‥‥‥!?」
 岩田を殴りつけようとしたが、空をきっただけだった。
 「何を脱いでるんですか!?」
 「ええ、ですから。僕の最高の愛を」
 「あ、あいぃ?いりません!!」
 喉がさける程叫んだ。
 世界中の人々が起きてしまうくらいに。

 「え、いりませんか、僕の靴下」
 「くつ、した?」
 「ああ、もう。また履かなくちゃ」
 「靴下‥‥ですか‥‥」
 「ええ、靴下を。それ以上の愛がどこにあると?
  もしかして、変な事を考えていらっしゃいました、フフフ」
 「‥‥‥」
 頭に血がのぼって事が出ない。

 バタバタバタ。
 大きな足音。
 1人、二人、三人‥‥‥十人はいるかもしれない。
 「さぁ、出てきなさい!
 「もーうだまされないわよー!!」

 「え?何?何故バレたんですか!?」
 (そりゃぁ、アレだけ大声出せば)
 岩田は心の中でつっこみを入れながら窓を開いた。
 「さぁて、帰りますか」
 「帰るって、どうやってですか」
 「そうよ、もう入り口も塞がれてるのよ。そして、ここは三階。
  どう?絶望的でしょ?」
 岩田はそれを聞きながら、ククク、と笑っていた。
 月を背にした彼の顔はよく見えなかったが、肩が上下していた。
 細く長い影をつくって、漆黒の髪をユラユラと風になびかせる。
 「夜分遅くまで私達をお待ちして下さったのに、あまりお相手出来なくてすみません」
 絶望的というにはほど遠く、寧ろ、楽しそうでもあった。
 「何を言っているの?
  これから私達がたっぷり可愛がってあげる」
 「フフフ、それは楽しそう。
  けれど、残念。
  それはできないのですから、お嬢さん」
 「な、バカにしてんの!?
  そこのたっかい窓から飛び降りるおつもり?」
 「ええ、察しの良い。その通りです」
 岩田は遠坂の腕をひっぱるとそのまま抱きかかえて、窓の外へと跳んだ。
 「え、そんなのアリ?ちょっと待ちなさい!!」

 とん。

 長い足を上手につかって、軽やかに地面についてみせた。
 遠坂は何が何だかわからず、目が点になってた。靴下だけは握って離さなかったけれど。
 「さぁ、降りてください。
  それとも、このままで帰りますか?」
 月夜に照らされた岩田の顔、白かった。
 「お、降ろして下さい」
 遠坂は顔を真っ赤にしながら言った。
 「フフフ、どうぞ。
  ‥‥どうやら今夜は騒がしい。デートのお誘いなら、また今度」
 「なっにを!?」

 「待てー!!」


 「さぁ、逃げなくては。

  静かな夜に。

  再び月が現れ、僕達を照らし出す。

  その時また二人で会いましょう」

 彼の足は恐ろしく早くて、ついていくのがやっとだった。
 その後ろ姿を見ながら、遠坂は思う。

 それも悪くはない、と。













B.D.O.の岩澄さんより掲載許可をいただきました小説です。
なんというか!イイですね!こう!ソワソワしてきますね!編集作業をしながら顔がゆるみっぱなしです。岩田は変だし面と向かって友達をするには障害が多い、でも心の底の一欠片の羨望は時折気持ちそのものすらも揺らすんですよってなんか語り始めてますね。すみません。ウキウキしてきました。ハハハハハ。遠坂君にはぜひ岩田をぶん殴りながら友情を深めて頂きたいと思っています。頑張れタイガー!!

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