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二人の真実



ゲドが船内にある自室に戻ろうと、そこに足を踏み入れると、入れ替わりに若い娘達とすれ違った。
きゃいきゃいと騒がしく顔を見合わせながら、こちらをちらっとみて足早に駆けていく。
その時はどうとも思わなかったが、自室の扉が半開きになっている。開けてみれば机の上に置かれている手紙。


「ゲドさんへ」

ピンク色のレース仕立ての封筒に、ゲドは首をかしげた。







扉の前まで歩いてくる足音には躊躇など欠片もないのに、
そこで一瞬の静寂の後に叩かれるノックの音は遠慮がちで、それだけで誰の物なのかは分かる。

「開いている」
ゲドは顔を向けずに返答した。

「大将、報告書の確認を頼みます」

部屋に入ってきたエースは両手に分厚いファイルを二冊抱えていた。
それをこの男が書いたというのもだが、それを見ろというのもご苦労な話だ。

「…相変わらず、何をそんなに報告することがある」

ここビュッデヒュッケに陣取るようになってから、傭兵の仕事…”炎の運び手を捜せ”はもとより、それ以外も放り出している。
基本的にパーティ要員にも入っていないため、はっきりいって毎日暇で何もしてないも同然だというのに。

エースは肩をすくめてみせる。

「何もないから報告するんですよ。
 それっぽいこと書いておかないと後々アリバイ作るのに
 面倒ですからね。」

まめな男だ。

ゲドは自分の不精を棚上げしてため息をついた。
と、エースがゲドの持っているピンク色の便箋に気がつく。

「なんスかそれ?」

これは、と口を開く間もなく覗き込んできたエースは眉間にシワをよせた。

「っっっっって、
 らぶれたぁじゃないですか!!!!!!!」

「…耳元で、騒ぐな。」

反射的に払おうとして上げた手の中の便箋をエースはばっと取り上げ目を走らせる。

「いつも甲板から日の沈む水平線を見つめている貴方の
 さびしそうな横顔を見ていると私にも何かできないかと」

「…読み上げるな」

「これジャックの間違いじゃないんスか?
 ってか大将甲板で海なんか見てたんですか!?」

「そんなこともあったかもしれん」

「それでもしよろしければ今度一緒にお茶などいかがで
 しょうかたまには気分転換もいいと思うのですが」

「おい」

「−−−−−−−−−−−−っ!!!
 で、どうするんスか大将!これは!!!!!」

「…何がだ」

「お茶するんですか!?」

必死の形相というか、既に半ば泣きそうにも見える顔で自分をみるエースに、ゲドはため息をつく。
別に自分としてはなにも考えていなかったが、是か非かということは一応出すべき答えなのかもしれない。
少し考えて、口にする。

「…お前が代わりにいってこい」

「えっ?あ、いや、そりゃ願ったり…って、そうじゃなくて」

目を白黒させたエースは、便箋を躊躇しながら机の上に置いてゲドを見る。
ゲドはファイルを一枚一枚めくりながら所々にサインをしている。分厚いわりに中身が無いので確認すべきところは少ない。

「いいんですか?」

「何がだ」

「何って」

「………」

「…いや、まぁ、いいならいいんですけど」

頭をばりばりかきながら首をすくめる。

「勿体ねえなーー」

未練たらたらの様子でエースはその便箋を丁寧に封筒に戻した。

「だから、お前がいけばよかろう」

「大将にきた手紙でしょーが、
 さすがにそこまで格好悪ぃことは出来ませんよ」

ゲドは少し目を上げたが、ふたたびファイルをめくりだす。

「大将はーー…あーー、やっぱ、いいです」

「…」

なんとなく何を聞きたいのかはわかったので、ゲドは沈黙を保つことにする。
そのまま、書類をめくる掠れた音だけが、静かな室内に響く。




「お前こそ」

ゲドはふっと口をひらいた。


「あれだけ出した手紙の返事は来ないのか」

「ええ?そりゃまあボチボチ、ねえ」

目どころか顔までそらしてはははと乾いた笑いを漏らす。

「そうか」

ペンを置いて。



ファイルの表紙を閉じて、ゲドは立ち上がった。


「…気分転換に行く」


聞き耳をたてて集中でもしていなければわからないほどの気配を伴って、口にされた言葉にエースは敏感に反応した。

「そいつは、いいですねぇ」



当然のように連れ立って。


「報告書はいいのか」

「気分転換は必要な時にするもんですぜ大将」

「…まぁな」

「さぁさぁ、行きましょう行きましょう」






机の上に置きっぱなしにされたままの封筒をアイラが見つけてまた一騒動おきるのは、別の話である。



2002/9/2/BXB




二人シリーズおそらく完結編…
ってかやけにラブラブめいています。



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