傾月
いつものように暇をもてあまして本をめくっていると、デュークが部屋に来た。

ガンガンと扉を叩いて返事も聞かずにどやどやと上がりこんできて、
よぉゲドあいかわらずしけたツラしてんじゃねえか、といって、
ニヤニヤしながら手に持った小さな包みをテーブルに勢いよく叩きつける。

「…なんだ、これは。」

机に乗っていたカップの中の液体が揺れるほどの勢いで叩きつけられた包みは、
デュークの手の中でぐしゃぐしゃになったのであろうリボンをかろうじて纏ったまま、
四肢を投げ出して瀕死の様を見せている。

「見てわかんねえのか、プレゼントだプレゼント。
 ははぁん、おまえ貰ったことがないんだろ?俺なんかもう毎日のようにだな…」

「…俺にか?」

状況から判断して一応聞いてはみたものの、言葉に即座に反応して
身体全体で否定するデュークにゲドは心から安堵する。

「んなわけあるか!!ニコルにだよ、ニコル。
 てめーになんざダレが高い金出して贈り物なんかするかよ!!!」

「じゃあなぜ、ここに置く」

「あン?そりゃぁ、俺様はやさしーからな、仲間に日ごろの感謝ってもんをこう、
 形にしてだな、お届けするわけよ。お前らにはそういうのはねえんだろ?
 エースがよく愚痴ってるからな。」

質問に答えてない気がするのだが。
それにしても、エースはそんなことまで愚痴っているのか。
ゲドはしばし考え、口を開く。

「…つまり、見せびらかしにきたわけか?」
デュークは得意げに顎を上げると大きく頷いた。

「まあ、ありていにいえばそうだな。 ま、この俺を見習って、
 とまでは無理だろうが、少しはお前も仲間にシッポ振ってみたらどうなんだよ。
 といっても俺はちがうぜ、俺はまあ隊長の余裕ってやつだがな、
 おまえはそうでもしないと仲間なんかついて…」

ゲドは軽くため息をついて立ち上がり歩み寄ると、
目をつぶってとうとうと語り始めるデュークをぐるっと旋回させ、
そのまま背中を押して部屋の外まで移動し、そのまま扉を閉めた。

窓際に寄せた椅子に腰を下ろして、
開いたままの本を手にとり文字列に再び目を落としながら、
扉の向こうからいまさら響いてくる怒声を右から左へ小気味よく聞き流す。

しばらくすれば、扉の向こうは静かになった。飽きてどこかへいったのだろう。

窓の外から、かすかに喧騒が響く。
それがよりいっそう静寂を引き立て、紙の擦れる音が耳に強く残った。



…日ごろの感謝か…。

よくよく考えればまあ、デュークもきっとまともなことを言っているのだろう。
なにかきっかけでもなければ流してしまうようなささいな感謝を、
ああやって即物的にでも形にできるというのは、確かに才能だ。

だが、なんというか、柄ではない。
その言葉に逃げるわけではないが、実際そんなことをすれば
心配されて熱を測られるかもしれない。
感謝していないわけではない…
こうしてなんの利益にもならないだろう戦いにまきこんで、
それでも共にあってくれることも、そうでなくとも、その与えられるものが、
そばにあることが、

時折理解できないほどに…

大切だと思う。

立ち上がり窓を開ける。ふわりと風が部屋の中の空気を揺らし、ゲドは目を細めた。


>>

企画トップへ