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| ■黒■ |
ややあって男は目を覚ました。
その暗がりの中で、まるで確かめるように、唇の間から息を漏らした。
手も足もぴくりとも動かさずに瞼を開くと、
その前となんら代わりのない闇が体にのしかかっている。
腕を上げればそれがただの空気なのだとわかった。
乾いたのどが熱を持っている。
立ち上がろうと手を空中に掻いた。背中が床についている感覚はあったが左右に壁があるはずのそれには触れなかった。
両手で掻いてそれでも届かなかったのでおとなしく床におろして、力を込める。体中が悲鳴を上げた。
体を支えようとした手のひらが短くずるりと滑る。
泥のようなそれは血なのかもしれなかったが、自分に覚えがない以上知ったことじゃない。
ただ一張羅がまたひどく汚れたであろう予想は、それを確かめるのを億劫にさせるばかりだ。
エースは頭を振った。
立ち上がって見れば思ったよりも足はしっかり土を踏んだ。
何歩か進めば真っ黒な視界の中の曖昧な気配が感じられなくもない。
それにしても目をあけても閉じても真っ暗だ。
それを見込んで逃げ込んだのだから当然なのだが、安堵してすぐに気を失ってしまうとは自分が思っていた以上に消耗していたらしい。
いまはいつなのか、そもそもがむしゃらに進んできたここはどこなのか。
だんだんと意識がはっきりしてくるのにしたがって、頭の片隅が一定のリズムでうずき始める。
はぁと息をついて、一瞬そのとき掠めた顔があった。
無意識に自分が呟く名前があることが、気づけば妙におかしかった。
きっとひどい顔をしている。
そんなことを気にしながら乾いた血がこびりつく髪をなでつけた。
なんでこんなに必死なんだろうかと思うと笑えてくる。
死に場所の一つから全速力で逃げ出して、
俺はその真っ黒な腕を振り払って、
死ぬほど陰気なあのひとのところにもどるのだ。
黒いというより赤黒いといわれました。
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| 2003/02/23//BXB |
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