またまた、ウチのファミリーカーである、キャラバンのバンの車検がやってきた。
去年はキャラバンは初めてだったこともあり、2日間かけてじっくり整備した。といえば聞こえはいいが、実はボンネットのないキャブオーバータイプのバンは初めてで部品の配置が宝捜し状態だったのと、アンテナが引っ込まなくて洗車機に掛けれなかったため、手洗いで洗車したりしたのが大きく時間を食った原因だった。
今年は、どこに何があるかはわかっているし、アンテナも少し前に交換したので洗車機にも入れる。
今年になってからタペットノイズが気になるので、その調整をしても、整備に丸1日、と踏んだ。
それでも何かトラブルがあるといけないので、中3日の飛び石休みを2日間使って、ゆっくり整備するつもりだった。そこへこの、6号、7号の連続台風の襲来だ。予定していた最初の休みは大雨で外で整備できず、次の休みも天気の悪い予想だった。そこで整備できなければ車検切れまで整備に当てれる日がない。たとえ天気がもっても、長雨で庭はどろどろになって、とてもそこに寝そべって整備できる状態ではない。ピンチである。
困っていたら、仕事場の好意で、最近は普段使っていない倉庫の一角をこそっと使えることになった。大助かりだ。朝から工具一式をキャラバンに積み込んで、仕事着でない作業着を着て、仕事場に向かった。
社員が仕事場で自家用車の整備をするなどというのは、それが勤務時間外であってもあまりよく思われないものだ。しかしそこは、うちのキャラバン、表紙のイラストにもあるように、どこから見ても完璧な貨物仕様なのだ。たとえ仕事場で整備しているのを誰かが見ても、ああ、ここの業務車両の整備なのかな、くらいにしか思わないはずで、まったく目立たないのもよかった。チェスタートンのパラドクスというやつだ。一枚の木の葉を隠すには森の中へ、一つの石ころを隠すには砂浜へ。隠したいものはあえて隠さず、それがもっともありふれた光景の中に溶け込ませてしまうのがもっとも目立たなくできる方法なのだ。どはははは。
さて、ガソリンスタンドで洗車して、倉庫にキャラバンを入れ、11時少し前から整備開始だ。
まずはバッテリーを外す。作業中の不測のショートなどの事故防止のためもある。バッテリーは、通常マイナス側がボディにアースされているので、外すときは必ずマイナス側の端子から外す。プラス側から外すと、端子をゆるめているスパナなどの工具とボディが接触した瞬間に、ショートしてスパークする。工具がちょっと溶けるくらいですめばいいほうで、最悪の場合バッテリーが出す水素ガスに引火してバッテリーが爆発したり、やけどしたりする可能性もあるのだ。バッテリーの中には、希硫酸がたっぷり入っている。バッテリーというのは非常に危険な代物なのだ。同様に、バッテリーを取り付けるときも、必ずプラス側から取り付け、最後にマイナスをつなぐ。
外したバッテリーは、充電する。床下にあるバッテリーを外すときには、マット類も外しておく。前席の下にエンジンがあるので、ミッションカバーなどを外し、ハッチになっている助手席をあげておく。これで点検準備完了だ。
今回は床がコンクリなので、ガレージジャッキも安定する。下回りの整備は慣れたもので、ボルトナット類のゆるみを調べつつ、配管や走行装置を点検し、点検したところは黒ペイントで化粧直しする。
キャラバンのスペアタイヤは、クルマの最後尾の床下にホイストチェーンで吊り上げて固定されている。最近は道路がよくなって、パンクというトラブルに見舞われることもほとんどないので、スペアタイヤは車検のときでもなければ外すチャンスがない。スペアタイヤはエアバルブ側を上にして吊られているので、降ろさなければ点検もできない。スペアを降ろして、ホイストに給油して、タイヤを点検する。
エンジンでは、タペットノイズが気になっていたので、バルブクリアランスを調整した。なんか語感からしてやたら専門的な作業のようだが、実はそうでもない。ジープでもよく行なっていたし、バイクのゴリラでも行なう、ごくありふれたメンテナンスだ。
タペットとは、シリンダーの給排気バルブを動かすためのカムの変位を、プッシュロッドに伝える部品だ。プッシュロッドでバルブを動かすOHVエンジンにのみ存在する。ゴリラはOHCだから、タペットという部品はないわけだ。
OHVでも、実際にはタペット自体はエンジンの奥にあって触れないため、プッシュロッドの動きをバルブに伝えるロッカーアームという部品とバルブの間のクリアランス「バルブクリアランス」を調整するのだ。ゴリラでも、同じ「バルブクリアランス」を調整する。
規定値は、温間で吸気、排気とも0.35mmとなっている。冷間での規定値は設定されていないようだ。冷間、とは、エンジン常温状態、温間、とは、エンジン運転直後の状態と思えばよい。
とはいえ、触れないほど熱い状態では実際調整もままならないし、エンジンを停めてからヘッドの上をまたいでいる吸気管やヘッドカバーを外したりしていればエンジン温度も下がってくるので、調整するころにはえてして「ぬるい」程度の温度になってしまう。
また、隙間ゲージとかシクネスゲージとか呼ばれる、ごく薄い板状のゲージをロッカーアームとバルブの間に挟んで測定、調整するのだが、これが非常に個人差の大きい感覚的な作業で、正確に使うには熟練を要する。シクネスゲージの一番いい練習方法は、マイクロメーターという測定器をシクネスゲージの表示された厚さにあわせ、マイクロメーターにゲージを挟んで、ゲージを押し込んだり抜いたりするときの手応えを体で覚えることだ。文字では表現しづらいが、「ゲージを押し込むときにゲージが曲がるほどではないが、動かすのにやや力が必要な、ちょっと粘るような“ヌルネパーッ”とした手応え」が適正だ。
ともかく、TD27エンジンは4気筒なので、吸排気あわせて8本のクリアランスを調整する。調整は圧縮上死点で行うが、完全な上死点を出すのはなかなか困難なので、実際にはシリンダーが圧縮行程にあってロッカーアームが2本とも自由に動くところから調整する。調整後、次のシリンダーを圧縮行程にもってくるには、セルを一瞬「キュン」というだけ回してやる。
測定してみると、0.5-0.6mmにまでクリアランスが広がっていた。これではノイズが出るはずだ。調整し、カバーを掛けて、試運転すると、別物のようにノイズが消えた。この瞬間はいつも、うれしい。
あと、今回はエアクリーナーを交換した。キャラバンのエアクリーナーは、湿式といって、フィルターになる紙に特殊なオイルを染み込ませた、濾過能力の高いものだ。しかし、それだけに細かいダストで詰まってくるもので、ひどくなると吸入空気が足りなくて、排気から黒煙を噴くようになる。しかもオイルを染み込ませていない乾式のエアクリーナーに比べて高価なのだ。キャラバン系の商用バンが黒煙を噴いているのをよく見かけるのは、高価なエアクリーナー交換を怠っているからではないか、とも思う。
去年はかなり汚れていたものの、クリーニングしてエンジン回してみたら、アクセルを吹かしても気になるような黒煙はなかったので、そのまま使っていた。しかし、汚れ具合や、交換履歴がはっきりしないことから、今年は交換することにしたのだ。
こいつは、交換の効果を体感できた。アイドリングで吸気管内のサージ音がボムボムと響くのだ。吹けあがりも軽くなった。もちろん目に見えるような黒煙などは出ない。
ユーザー車検は予約制だ。予約は前日の17時まで、予約取り消しは前日の14時までとなっている。作業に没頭していて危うく予約を忘れるところだった。
16時になってそのことを思い出し、翌日の朝イチのラウンドに車検を予約した。電話で自動予約だ。
そうなると、何がなんでも今日中に片をつけなければならない。結局、作業が終わり、倉庫内の掃除を済ませたのは19時半過ぎだった。
さて、翌日は雨になった。洗車したのに!・・・いや、洗車したからか?・・・ともかく、こればかりは仕方ない。車検が順調に終われば午前中には出社できるので、会社にはことわりを入れてある。直接出社するため、仕事着で出かけた。
例によって、自家用自動車協会で車検の記録になる検査票と、OCRシートという車検申請用紙と、重量税の納付書、重量税の印紙と手数料の印紙を購入する。そして支局の受付で申請書類を書いて、車検証、自賠責、納税証明書、整備記録簿を添付して提出、無事受領されてコースへ並ぶように指示された。コースは特に指定されなかったのできいてみると、別にどのコースでもよいが、慣れているなら自動の1コースがよいだろうとのことだった。
コースに並ぶと、既に2台が先に待っていた。まだ開始時刻の9時には15分くらいある。例によって、並んで待っている間に助手席を上げて固定しておく。雨は止んでいたので、車体の水滴だけでも拭き取っておく。何度も来ているのだが、一応手順を頭の中でおさらいしたりする。
9時に、開始の合図のチャイムがなって、検査が始まった。まずは並んでいるところで外観、灯火類の機能と同一性の検査だ。去年は荷物室の荷物の飛び出し防止装置をきちんと装着するように、という指導を受けたが、今回はお手製のをきちんと装備していたので、指摘事項なしでパスした。去年の秋に自転車用のブザーのようなノーマルホーンがいやで、「保安基準適合」とうたわれた、ボッシュの2連でハモる渦巻きラッパに交換していた。すぐにノーマルに戻せる状態にはしてあったが、ボッシュのホーンのままでまったく問題はなかった。ハンコをもらって助手席を降ろし、ラインに向かう。
次はラインだ。まず、入口で「ディーゼル」の申告をする。これをしないと、排ガス検査が要求される。申告はボタンを押すだけ。他に、4WSとかフルタイム4WDとか、駐車ブレーキが前輪に効くスバル車の申告ボタンなどがあった。該当するものはすべて申告しなければならない。
例によって、サイドスリップ、スピードメーター、後輪ブレーキ、と順調にパスしていくが、駐車ブレーキで「もう一度」のサインが出た。引き方が甘かったのだ。「止まるかどうか」の機能の検査ではなく、規定の制動力の計測になるため、とにかく滑らかにめいっぱい引かなければならないのだ。再度検査して、今度はパスした。そのまま前照灯を検査してパス。前照灯など、フロントを当てるとか、サスペンションやタイヤに異常でも出ていない限り動くことはないので、昨年の状態のままだ。
自動記録器で記録を受けてから前進して、ピットの上にまたがるように進入して、振動装置の台に前輪を乗せる。今年は検査官が既にピットにいて、すぐに検査になった。まずはハンドルを左右に振って、ハンドルを止めると前輪を乗せた台が動いてクルマを揺さぶられ、次に、エンジンを停めて、ブレーキを踏めとか、クラッチを踏めとか、検査官の指示に従う。検査官はテストハンマーで下回りのネジを叩いて検査する。下回りも無事にパス。検査が終わると、検査官にハンコをもらって、
「以上ですので、受付した窓口に書類を出してください」
と言われる。今回も9時15分にもなっていない。
窓口に書類を出すと、例によって担当官の後の機械から新しい車検証が出てきて、窓に張る検査標章のステッカーといっしょに渡されて、
「ご苦労様でした」
と言われて、おしまい。ステッカーは、去年の「運輸省」から、「国土交通省」になっていた。駐車場でステッカーを張り替えて、全て終了。今年もまだ9時20分。さ、仕事でも行くかな。
ちなみに、今回の車検のための費用は、
自賠責(また下がった) | \14,400- |
重量税 | \18,900- |
受検手数料 | \1,400- |
申請用紙代 | \40- |
黒スプレー | \2,507- |
洗車 | \1,050- |
オイル(4リッター) | \1,029- |
エアクリーナー(純正) | \3,600- |
その他の消耗品、オイル、グリス、バッテリー液、オイルフィルター などは保有在庫を使用 |
|
計 | \42,926- |
・・・だった。やっぱり安いでしょ?