ウチのユーザー車検@2001

今回は、ウチのファミリーカーである、キャラバンのバンの車検だ。ウチのキャラバンはバンなので、貨物車というカテゴリーになり、毎年車検を受けなければならない。車検を外注に出すと、法定費用込みでまず7-8万円はかかる。貧乏サラリーマン家庭にとって、これは大きい。なわけで、クルマをちょすのが趣味の私ことおとうさんが、趣味と実益を兼ねて、自分で車検を通すことになったのだった。

実は、私にとってユーザー車検は初めてではない。ジープなどは、北海道に来て以来、最初の車検は近所の整備工場に出したが、それ以後は1997年まで、ずっと自分で通していた。俺のクルマを他人にさわってほしくない、というのもあった。年に2台通していたこともある。しかし、1997年の秋にジープを封印して、ウチに1年車検の車がなくなり、以後はしばらく色々と忙しかったり、私に気力がなかったりで、久しくユーザー車検から遠ざかっていた。今回のユーザー車検は、5年ぶりくらいになる。

いわゆる車検というのは、国による使用過程自動車の継続検査であり、検査の時点で自動車がいわゆる「保安基準」に合致しているかどうかと、自動車の使用者が前回車検以後に規定の定期点検等をきちんと行ってきたかの検査だ。検査に合格すると貰える「車検証」は、運輸省による品質保証ではなく、「この調子で次の車検まできちんと車を使ってくれるなら、公道を走らせてもイイよ」という意味なのだ。車検そのものは決して困難な作業ではないが、ある程度の専門知識が要求されることも確かだ。

専門知識とは言っても、別に自動車整備士を目指すわけでなし、それほどのカルトな知識は必要ない。ただ、自分のクルマがどのような仕組みになっていて、定められた点検ではどこをどのように点検すればよいのか、といったところがわかっていれば上等で、あとはクルマの使用者として車両について当然わかっていなければならない法規類をわかっていればぜんぜんOKだと思う。

私はもともと機械屋、技術屋なので、普通のクルマユーザーよりはいろいろなことを知っているかもしれない。しかし、車については所詮アマチュア、趣味の域を出ない。自動車整備を生業とするプロの方々とは、明らかにランクが違うのだ。しかしそれでも、実際まったく問題はないのだ。

さて、実際の車検だが、基本的には前整備・後検査といって、事前に所定の点検整備を行ってから検査を受けるのが普通になっている。何年か前に法規が改正されて、前検査・後整備でも良い、となったが、実際そのようにしているケースは多くないと聞いている。

事前の整備は、ウチのキャラバンのような自家用小型貨物自動車(白板の4ナンバー)の場合、12ヶ月点検を行う。点検項目は、整備手帳があるクルマならそれに点検表がついているし、ウチの車のように中古車で整備手帳が失われているクルマでも、整備振興会の窓口などで該当するカテゴリー(自家用貨物とか、自家用乗用とか)の整備記録簿の用紙を購入すれば、それが点検表になっている。あとはそれに従って、自分のクルマに該当する項目を点検して、点検表を埋めていけばよい。

・・・のだが、ここにまずひとつ専門知識のハードルがある。自分のクルマのエンジンはガソリンエンジンか、ディーゼルエンジンか、駆動方式はFFか、FRか、フルタイム四駆か、ブレーキはディスクか、ドラムか、パーキングブレーキはどんなタイプでどの車輪に効くのか、サスペンションはどんなタイプか、排ガス浄化装置はどんなタイプを使っているのか、などがわかっていないと、点検のしようがないのだ。

悪質なユーザーや車検代行屋などであるらしいが、新車から初回の車検だし、何もしなくても受かるだろう、書類さえちゃんとしてればいいや、などと、実際の点検を行わずに、とにかく盲チェックで、全ての項目にチェックを入れたりすると、点検表をチェックされた時に簡単にボロが出る。付いてもいないものをどうやって点検したの、付いてるならどこにあるか教えてよ、と。もちろんまともに答えられるわけもなく、車検は不合格になるし、そもそもこれは重大な違法行為で、立派な犯罪だ。

自分と家族の命を預けるクルマであるから、きちんと点検するのが当然、ただ、自分でできるところは自分でやる、というのが、私のユーザー車検のスタンスだ。自分で手におえないところは、専門の工場に出すしかないのだ。

もっとも、きちんと看板を上げている「認証工場」でも、レベルにはずいぶん開きがあるようで、事実ウチのキャラバンに残されていた記録簿では、実際には付いてもいない「二重安全ブレーキ機構の機能」の点検欄に、「点検良好」のチェックマーク(レ)が付いていた。
この二重安全ブレーキというのは、いくつかのタイプがあるが、代表的なのはセフティシリンダ式というやつで、前後どちらかのブレーキ系統から漏れがあった場合に、自動的に漏れを止めるバルブがついている。ふつうは4トン車以上の大型車に装備されていて、ウチのキャラバンのような小型車には、まずついていないという代物だ。しかしあまり何枚も(何年分も)同じ記載だったので、もしかしたら見えないところについているのかと、ディーラーなど数箇所に確認したが、やはりそんなものは付いていない、ということだった。
個人的には、ジープの時も排ガス浄化装置は一切付いていないのにチェックが入っていたり、ということがあって、以来、整備工場といえども信頼できないところは信頼できないのだ、と思っている。
もちろん、今回ブレーキ系統を丁寧に説明してくれた函館日産の整備士さんのように、きちんとした知識と理解があって仕事をしてくれているところが大多数なのだが。

さて、私は素人だし、立派な設備もないので、点検は7/7-8の2日間をかけて、ゆっくり行った。1日目にエンジン周りや電気系統といった車内から点検できる項目と内装の掃除、2日目に下回り、という感じだ。

キャブオーバー車(Cab Over Engineで、エンジンの上にも車室がのっかっているタイプのクルマ)の本格的な整備は初めてだ。いままでこのテの整備をしてきたクルマは、例えばジープにしても立派なボンネットがあって、広々としたエンジンルームは上から覗くと地面が透けて見えるほど余裕があって、作業しやすかった。しかし、キャブオーバーの整備性の悪さはどうだ!助手席がハッチになっているのでそれを持ち上げて固定して、斜めになったイスの下に顔を突っ込んで、小さな開口部からやっと手を突っ込む感じ。エンジン自体のサイズはジープとほぼ同じだが、まあさわりづらいったら。

ジープなどではエンジンルームにほとんど全ての重要部品が集中しているので、フードを上げればほとんどの点検ができた。しかしキャラバンは、エンジンはイスの下、バッテリーは運転席の後ろの床下、ブレーキオイルは計器盤の右端、燃料フィルターは運転席の下、という具合で、どこに何が置いてあるのか、宝捜し状態だ。キャラバンを買った時に、取扱説明書が失われていたので、新たに購入したが、大正解だった。取説がないと、全部のパネルを開ける羽目になったかもしれない。

私は車の掃除はあまりしないほうなので、車検はいい掃除のチャンスだ。別に見てくれをよくして検査官の心証をよくしよう、ということではない。点検の基本はクリーニングなのだ。きれいにしなければ、いいのか悪いのかもわからない。室内もエンジンも、バッテリー室も、とにかくすべてふき取り、掃除機をかけれるところはかけた。バッテリー室などは、何年も掃除していないどころか、バッテリーを外した形跡もなかった。以前のオーナーの時のタバコの吸殻やら木ネジやらがバッテリー室にたくさん落ちていたし、バッテリーは分厚く埃が積もり、バッテリー液はスッカラカンに近く、とても1年前にきちんと点検したようには思えなかったのだ。去年は金払って、認証工場、それも民間車検場で点検したはずなのに!!

まあ、ヒトがどんないいかげんな仕事しようが知ったことではないが、プロを名乗って金を取るからには、一応のレベルの仕事をしてほしいものだ。調子のよくないクルマをいかにゴマかして車検をクリアさせるか、にばかり精通しているのがプロということではないはずだ。そういえば、去年の記録簿にも、二重安全ブレーキがあることになってたな。

今回は、走行距離のタイミングも良かったので、ついでにエンジンオイルも交換した。エンジンも埃をふき取って、きれいにした。さすがに6年9万キロ程度では、オイルのにじみすらない。

下回りの点検は、クルマを持ち上げなければできない。かといって、プアそのものの車載ジャッキで持ち上げただけのクルマの下に入るのは、自殺行為だ。私は、能力2.5トンと表示されたガレージジャッキと、通称「馬」とかクレードルと呼ばれるスタンドを持っているので、それを活用している。要するに、リアならリアを2輪同時に持ち上げて、下に丈夫なスタンドを立てるわけだ。これなら、運悪く大地震でもこない限り、クルマの下敷きになる心配をしなくてすむ。

下回りは、きれいにして点検してから、錆防止のために黒ラッカーを塗った。これを毎年やっておくと、耐久性がぐっと違ってくる。特に北海道の海沿いでは、潮風と冬の解氷材で、下回りは塩漬けになってしまうのだ。

マフラーは二重になった外側の板が錆びて破れていて、ガス漏れの心配はまったくないのだが、放置もできないので、煙突修理に使う耐熱アルミテープを巻いて補修した。しばらくはこれで問題ないだろうが、数年後にはマフラーを交換しなければならないだろう。

きれいになった下周りには、グリスを注せるところには注して、車輪を復旧して、ジャッキから下ろした。今の車は、ほとんどグリスニップルが付いていないのに驚いた。ジープなどは、およそあらゆる可動部分に、グリスニップルという、グリスポンプをつなぐ為の小さな金具がついていて、車検整備の時にはグリスを注しまくった記憶がある。キャラバンでは、ステアリング周りとフロントサスペンションの一部にグリスニップルがあるだけだった。プロペラシャフトのユニバーサルジョイントなどには、グリスを入れられない。密封型のベアリングを使っているのだろう。ジープなどは、水の中を走った後でも、グリスアップすることで水混入グリスによる後のトラブルを回避できるが、キャラバンではどうすればいいのやら。まあ、水の中など走らなければいいのだろうが、どうしても、という場合もあるかもしれない。覚えておかなければ。

翌日の月曜日に、そのまた翌日の火曜日の朝イチのラウンドに車検を予約した。函館陸運支局の車検場だ。何年か前から、電話で自動予約ができるようになっている。そして、昼休みに会社のコンプレッサを借りてタイヤの空気圧を調整し、洗車した。翌日の休みをもらう。

月曜の夜になって、何か忘れ物はないかとチェックしていたところ、「最大積載量」のプラカードがないのに気づいた。ウチのキャラバンは貨物車なので、車検証の最大積載量のいちばん大きい数字をリアゲートあたりに表示しなければならない。いちばん大きい、というのは、ウチのキャラバンは横3列シートの9人乗りだが、リアシートを全て折りたたんだ3人乗りで1000キロ、一番後ろのシートだけを折りたたんだ6人乗りで750キロ、シートを全部立てた9人乗りで600キロの積載が、それぞれ認められているが、クルマには、「最大積載量1000kg」と表示しなければならないのだ。プラカードのステッカーはディーラーで部品として買うことができるが、今日の今日では在庫があるとは限らないし、そもそもすでに夜、店はしまっている。私は、パソコンで即席のデカールを作ることにした。デカールは出来合いでなくても、書いてあるべきことが書いてあるものであれば検査は問題ないのだ。ひどいところでは、リアゲートにガムテープを貼って、マジックで「最大積載量***kg」などと走り書きして、すまして車検を受けている者さえいる。まあ確かにそれで問題はないのだが、それではあんまりなので、A4の長手方向いっぱいの幅で、黒字に白抜きでプラカードを作って、本の補修などに使う薄手の透明テープでリアゲートに貼り付けた。一見、純正のステッカーと見まがう出来栄えだ。やれやれ、である。

さて、翌日は会社を休んで、朝から陸運支局に出かけた。自家用自動車協会で用紙と重量税の印紙と手数料の印紙を購入する。しめて\20,340-。ジープの車検に来ていた頃は書類の代書もしてくれたものだが、今回はしてくれなかった。きいてみると、前の担当のヒトがやめてからは書かなくなったのだと。まあべつに自分で書けるのでいいのだが。

支局の受付で申請書類を書いて、車検証、自賠責、納税証明書、整備記録簿をつけて提出、無事受領されて1コースへ並ぶように指示された。まだ開始時刻の9時には5分くらいある。1コースには、既に1台のステーションワゴンが先に待っていた。並んで待っている間に助手席を上げて固定しておく。検査ラインを覗いて見ると、ジープの時とは検査機械が変わっているようだった。

9時に、開始の合図のチャイムがなって、検査が始まった。まずは並んでいるところで外観、灯火類の機能と同一性の検査だ。まず、検査官が車検証の車台番号とエンジン型式に実車が合っているかを確認する。これが同一性の検査だ。キャラバンでは車台番号は運転席の右下、フロアカーペットの下に打刻されているので、それを提示する。エンジン型式は、エンジンの左側のいちばん前のほうに打刻されているので、それを提示する。次に、乗り込んで、エンジンをかけ、検査官の指示のままに、ライトをつけたり、ウィンカーを出したり、ホーンを鳴らしたりして、それぞれの機能を確認する。ジープの時は、朝まで良かったのに本番でウィンカーの球が切れてしまったことがあったが、今回は問題なし。そして、検査官がテストハンマーを持って、車の周りを一回りする。テストハンマーとは、彫金用の小さなハンマーに細長い柄をつけたような形のもので、ボルトやナットの角を叩いて緩みを調べる道具だ。このとき、規定の寸法以上の改造がされていないかとか、所定のプラカードがついているかとか、ライトのレンズが割れていないかなど、外観の検査と、車輪を固定しているホイールナットの緩みを検査される。そして検査官が室内を覗いて、ミラー類や改造ハンドルなどの検査をする。今回、荷物の飛び出し防止装置をきちんと装着するように、という指導を受けた。その装置とは、荷物室と乗員の間の仕切りになる棒で、ウチのキャラバンの場合はシートの立てかたによって移動できるようになっているのだが、それを付けていなかった。私も検査官に指摘されるまで、すっかり忘れていた。幸い、再検査にはならず、指導のみだった。素直に頭を下げる。検査官は、じゃ、と言って、検査票にハンコを押して、私に次に進むように指示した。

いよいよラインだが、機械が変わっていて勝手が違う。窓を開けて、とりあえずゆっくり、まっすぐ進入する。

最初のブロックは、サイドスリップのテストとスピードメーターとブレーキとヘッドライトのテストが同時にできるマルチテスターだった。なんと女性の声による案内までついている。以前は前方の電光表示板の指示に従うしかなかったのだ。思わず、
「おー」
と声をあげて感心してしまった。

サイドスリップテスターをハンドルを直進固定で握り締めて通過すると、前方の電光表示板に「サイドスリップ○」と出た。自宅では点検し難い項目なので、まずはほっとする。そのままローラーにタイヤをのせて、タイヤがローラーの間に沈みこむと、スピードメーターの検査。押しボタンのスイッチを探すが、ない。メーター40キロでボタンを押すためのスイッチが天井からぶら下がっているはずなのに。と思ったら、ヘッドライトテスターが右からひょっこり出てきた。???と思っていると、よく見たら、電光表示板に、「40キロでパッシング」と出ている。ああそうなのか、へー、と感心しながら、座りなおしてギアを入れ、後輪を回す。40キロでメーターが安定したところでパッシング1回。「スピードメーター○」と出た。しかし、ジープみたいにパッシング機能のない車はどうするんだべか、とか考える。

そのまま、ブレーキのテスト。前ブレーキ、後ブレーキ、駐車ブレーキ。いずれも「止まるかどうか」の機能の検査ではなく、規定の制動力の計測になるため、滑らかにめいっぱいブレーキをかける。すべて○。次にライトを点けて、前照灯の検査。これも自宅では点検し難い項目で、ジープの時はこれで再検査になったこともあるし、そのときは再検査に入って、なんとこの車検ライン上で調整して合格した。我ながらいい度胸だったものだ。そんなわけで今回も緊張して見ていたが、左右両方とも○。すごくほっとした。自動記録装置に検査票を入れて、ハンコをもらう。これがクリアできれば、終わったようなものだ。後は下回りの検査だけで、下回りは完璧に整備済みなのだ。

前進して、ピットの上にまたがるように進入して、振動装置の台に前輪を乗せる。検査官は隣のピットにいて、なかなか来てくれなかった。待っていると検査官が来て、まずはハンドルを左右に振って、ハンドルを止めると前輪を乗せた台が動いてクルマを揺さぶる。接続部分のガタなどの検査なのだ。次に、検査官がテストハンマーで下回りのネジを叩きながら、ブレーキを踏めとか、クラッチを踏めとか、指示を出す。検査が終わると、検査官にハンコをもらって、
「以上ですので、受付した窓口に書類を出してください」
と言われる。9時15分にもなっていない。

窓口に書類を出すと、担当官の後の機械から新しい車検証が出てきて、窓に張る検査標章のステッカー(車検の有効年月が表示された四角い小さなやつ)といっしょに渡されて、
「ご苦労様でした」
と言われて、おしまい。駐車場でステッカーを張り替えて、全て終了。まだ9時20分。何度やっても、心地良い達成感と充実感。陸運支局ロビーの自販機のカルピスがうまかった〜。


ちなみに、今回の車検のための費用は、

自賠責   \15,350-

重量税   \18,900-

受検手数料 \1,400-

申請用紙代   \40-

黒スプレー  \1,565-

その他の消耗品、オイル、グリス、バッテリー液などは保有在庫を使用


計\37,255-

・・・だった。安いっ!貧乏サラリーマン家庭が車を2台も維持できるというのも、わかるでしょ?


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