オムライス根問
<登場人物>
・ご隠居
・八五郎
八五郎「ご隠居、オムライスのことなんですがね」
ご隠居「何事だい八っつぁん、いきなり」
八「オムライスの『ライス』は飯のことだと分かりますが、『オム』ってのは何です?」
隠「何かと思えばそんなことか。八っつぁんはオムレツを知らんか」
八「オムレツ? あの卵を溶いてはんぺんみたいにした?」
隠「食べ物を食べ物で例えるな、ややこしい。まぁそうだ。あのオムレツがごはんに乗っているからオムライス。
つまり『オム』とは卵のことだ」
八「なるほど、すると『オム』が付く料理はみんな卵ですか。では『オムすび』ってのは、ありゃ卵料理ですか?」
隠「あ…あれはその、形状が卵に似ておる。だから卵料理だ」
八「苦しいね、どうも」
隠「偉そうに仰るが、八っつぁんはオムライスの元祖を知らんだろ」
八「元祖? オムライスに元祖だの本家だの、土産物屋みたいなのがあるんですか?」
隠「オムライスの元祖は東京銀座の『煉瓦亭』という洋食店だ。
しかし『煉瓦亭』のオムライスは具入りの卵焼きのような料理であったというな」
八「そうなんですか。随分変わっちゃったもんだねぇ。
変わったと言えば、最近のオムライスってのは、どの店に行ってもみんな卵がフワフワのやつばっかりで、
昔みたい に卵の皮でくるんだやつはとんとお見限りですよね。ありゃ一体全体、どうした訳です?」
隠「確かに最近はどこも卵がフワフワしておるな。あれはまぁ、流行のようなもんだ」
八「流行ですか。私なんざぁ古い人間ですから、昔ながらのくるんだオムライスの方が好みですよ。
あのフワフワが乗っかってるだけのやつはどうも…」
隠「いやいや八っつぁん、あの形だから流行ったんだ」
八「そうですか?」
隠「ああ、流行なんてのはみんな、乗っかるもんだ」
<完>