オムライス根問

 <登場人物>
   ・ご隠居

   ・八五郎



八五郎「ご隠居、オムライスのことなんですがね」

ご隠居「何事だい八っつぁん、いきなり」

「オムライスの『ライス』は飯のことだと分かりますが、『オム』ってのは何です?」

「何かと思えばそんなことか。八っつぁんはオムレツを知らんか」

「オムレツ? あの卵を溶いてはんぺんみたいにした?」

「食べ物を食べ物で例えるな、ややこしい。まぁそうだ。あのオムレツがごはんに乗っているからオムライス。
 つまり『オム』とは卵のことだ」

「なるほど、すると『オム』が付く料理はみんな卵ですか。では『オムすび』ってのは、ありゃ卵料理ですか?」

「あ…あれはその、形状が卵に似ておる。だから卵料理だ」

「苦しいね、どうも」

「偉そうに仰るが、八っつぁんはオムライスの元祖を知らんだろ」

「元祖? オムライスに元祖だの本家だの、土産物屋みたいなのがあるんですか?」

「オムライスの元祖は東京銀座の『煉瓦亭』という洋食店だ。
 しかし『煉瓦亭』のオムライスは具入りの卵焼きのような料理であったというな」

「そうなんですか。随分変わっちゃったもんだねぇ。
 変わったと言えば、最近のオムライスってのは、どの店に行ってもみんな卵がフワフワのやつばっかりで、
 昔みたい に卵の皮でくるんだやつはとんとお見限りですよね。ありゃ一体全体、どうした訳です?」

「確かに最近はどこも卵がフワフワしておるな。あれはまぁ、流行のようなもんだ」

「流行ですか。私なんざぁ古い人間ですから、昔ながらのくるんだオムライスの方が好みですよ。
 あのフワフワが乗っかってるだけのやつはどうも…」

「いやいや八っつぁん、あの形だから流行ったんだ」

「そうですか?」

「ああ、流行なんてのはみんな、乗っかるもんだ」



  <完>



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