多忙な休日の仕返し。(11111HIT) |
晃哉のベッドで目覚めた洋美は時計を見た。 「9時か…」 今朝5時頃、一緒に寝ていた晃哉に起こされて、「ごめんな、仕事だから先に出るよ。洋美はそのまま寝てなよ。鍵だけ閉めといて」と言われてそのまま沈み込んだのだった。 のっそりと起き出してダイニングのテーブルに行く。キッチンには使ったマグカップがひとつだけ置き去りにされていて、晃哉が今朝はコーヒーだけ飲んで出ていったんだなと洋美には分かった。パンくらいは囓って出ていこうと洋美は思う。洋美は今日は仕事も休みで一日時間があった。掃除をして、買い物でも行って、仕事が終わった晃哉にあわせて晩ご飯でも作ろう。何が良いかな、と考えながら食パンを冷凍庫から出してトースターに入れた。その時ふと、テーブルの端に目が留まった。 「…神波さん?」 神波愛用のダガーチョーカーがそこには置き去りにされていた。夕べ、日付が変わるくらいまでは神波と晃哉と3人でこの晃哉の部屋で飲んでいたのだ。神波は「お邪魔はしませんよ」とかなんとか呂律の回ってない舌で言って終電には帰ってしまったのだが。その時に忘れていったのだろう。 パンとコーヒーだけの朝食を摂った後、部屋の電話を使って神波に電話をする。 『もしもし』 「あ、神波さん? 洋美だけど今話して大丈夫?」 神波が電話に出たことを洋美は意外に思った。仕事中ではないのか? 『うん、歩きながらだけど大丈夫。どうしたの』 「神波さん、ダガーチョーカー忘れていったでしょ。晃哉の部屋に」 『あー、やっぱり平山さんとこだったかー! 今朝から探してたんだけど見つからなくてさ。良かったー』 「探してるかなと思って、だから電話したの。留守電に入れとくつもりだったんだけど」 『今ショップに撮影で使った服返して回ってるんだよ。洋美ちゃんはまだ平山さんのとこにいるの?』 「うん」 『じゃあさ、あと1時間くらい待っててくれない? 俺チョーカー取りに行くよ』 「分かった、待ってる。じゃあまたあとでね」 と電話を切った。 すぐに出られなくなったので、着替えたあとに洋美は部屋の掃除をして溜まった晃哉の洗濯までしてやった。すると1時間なんてあっというまで、すぐにインターホンが鳴った。 「おはよー」 神波だった。 「ご苦労様。朝から大変ね、仕事」 玄関のドアを開けて洋美は「コーヒーでも飲みますか?」と聞いた。 「いや、仕事中だから、一応。それに平山さんに悪いし」 神波の科白に洋美はあはは、と笑って、テーブルからチョーカーを取ってきて渡した。 「ありがとう。俺なくしたかと思ってかなり焦ったんだよね」 「焦ってるかなぁと思って電話したから」 予想通りの神波に洋美は可笑しくなった。晃哉が弟のように可愛がるのが分かる気がする。 「あっ、あのさ洋美ちゃん、あとお願いなんだけど。傘貸してくれない?」 「え、雨?」 見ると神波の後ろはどんよりとした雲が広がっていて、空気も湿っている。 「うん、こっち来る途中で降り出してきちゃってさ」 「やだなあ、私買い物に行こうと思ってたのに」 狭い玄関の下駄箱から洋美は男物の傘を引っ張り出す。そう言えば、晃哉は傘を持って出てるのだろうか。 「晃哉ので良かったら持っていって。本人には言っとくから」 「ありがとう」 黒い傘を洋美は神波に手渡した。 「じゃあそろそろ。またね、洋美ちゃん」 笑顔を残して、神波は帰っていった。 『じゃあ神波、うちまで取りに来たの?』 「うん。雨が降ってきてたから晃哉の傘も貸しちゃった」 『ふーん』 「晃哉は傘持って行ってるの?」 洋美は百貨店の売り場を歩きながら晃哉に電話で尋ねた。昼休みに昼食をとりながら晃哉は電話を入れてくれたのだった。まだ寝てるのか、と。 『車に入れっぱなしのが1本あるから大丈夫』 「なら良かった。ねえ、今日晩ご飯どうする? 何か食べたいものある?」 3階の婦人服売り場から地下の食品売り場までエスカレータで洋美は移動する。平日の昼間なので空いていた。空調の利きすぎた店内は少し寒いくらいだった。 『グラタン』 「分かった、じゃそうする。帰る前に電話してね」 『今日は出が早かった分、夜は早めに帰れると思うから』 今日の晃哉の仕事は、ロケに行く出演者のスケジュールの関係で5時起きだったのだ。秋の特番撮りシーズンで、このところ晃哉は満足に休日も取れていなかった。 『じゃあ仕事戻るよ。また』 それで電話は切れた。洋美は軽快な足取りでエスカレータを降りた。本当なら今日は晃哉も休日のはずだったので、いきなり朝早くから出勤することになって今朝の洋美は随分と不機嫌だったのだ。当てつけに、嫌味なくらいに一人の休日を満喫してやろうと、掃除や洗濯をしたり、買い物に来たりしているのだが、何だか急に胸の奥が騒ぐ。軽快な足取りと言うよりは、浮き足立っていたかもしれない。そのまま洋美は買い物をして晃哉の部屋へ戻った。 がちゃがちゃと鍵を回す音が玄関でして、晃哉だな、と洋美は思った。オーブンの火加減だけもう一度見てから振り返ると、目の前に大きな花束。 「ただいま」 両手でないと抱えきれないほどの花束を持って、晃哉が立っていた。 「どうしたの、これ…!」 驚いて見あげると、花に埋もれて晃哉が歯を見せて笑った。 「番組の撮りで使ったヤツ、もういらないって言うから貰ってきた」 スタジオのセットにでも置いていたのだろう、夏の花が賑やかに咲いていた。いくつかに分けてあったものを無理矢理まとめたのか、何だか花束全体には統一感がない。それでもこれだけの量だと迫力があって、とても綺麗だった。 「すごい、綺麗」 晃哉の腕からはみ出して、前に垂れた小降りの向日葵に手を伸ばして洋美は言った。 「今日、休み取れなくてごめんな。神波が合間にうちに来れてるのに、俺が来れないのって何か変だよな」 おや、と洋美は思った。 晃哉はもしかして、神波に焼き餅を焼いている? 「だから、その埋め合わせってことで」 そう考えると何だか可笑しくなってきた。くすくすと漏れそうになる笑いを片手で堪えて洋美は少し俯いて顔を隠す。 「ありがとう。確かに晃哉も休みだった方が嬉しかったけど」 でもこのお花、すごく嬉しいよ、と俯いたまま洋美は言った。きっと晃哉には洋美が照れているのだと見えただろう。 「休みなら何か考えてた?」 晃哉が花を抱えたまま、俯いた洋美の頭を撫でる。洋美は可笑しくて仕方がなかった。 「そうだな、久しぶりに私、晃哉の歌が聴きたい」 「カラオケくらい今からでも行けるっしょ」 「明日は私が仕事なんだけど」 ようやく笑いを隠して洋美は花を受け取った。晃哉の家にこんな大きな花瓶があるわけがないので、ゴミ箱に水を張ってそこへしばらくつけておくことにした。新聞紙を敷いてダイニングの隅に置く。とても華やかで良い。 「まあ、いいか。ご飯食べたら行こう」 洋美は晃哉に笑顔で言う。だけど半分は面白くて笑っていた。晃哉はもう一度洋美の頭を撫でて肩をぽんぽんと叩いた。この調子では、今夜のカラオケに神波は呼ばれそうになかった。 End |
神波出過ぎ(笑) あさくらかぐらさんからの11111HITリクエスト、キィワードは「傘、チョーカー、カラオケ、花束(花の種類はお任せします)」でした。 チョーカーがすべてを狂わせたぜ(笑) まあ、焼き餅焼きな晃哉が書きたかったんですけどね? でも大人だからあんまりそういうことしないんですテルチカ(笑)しかしすごいぜ! 遅筆なナナがたったの40分で粗方書いちゃったぜ! いつも大体、キィワードを頂いた時点ですぐにインスピレィションで部分的に書いておくんですが、今回は本当に速攻で形が出来ました。つーか、晃哉さんとこんなに呑気な関係で良かったですか、あさくらさん・・・? これってどう考えてもただの新婚家庭じゃん(笑)しかも、「夫婦共々で神波の面倒を見て可愛がる」というナナの夢を密かに実行していますね(笑)ああ頼む晃哉結婚してくれ(笑)リクエスターさんの意思を全く無視しているとしか思えないこの暴挙。こんなことでいいんでしょうか。晃哉出てこないわ神波出過ぎだわ、その上出てきた晃哉の扱いが適当だなんて!!(笑) まあたまにはこんな晃哉さんも許してください(爆) ナナはどうも、晃哉さんは適度なわがままを言える男だと思っているようです。書いていてそう思ったんですが。わがままをちゃんと言うことさえ優しさ〜みたいな、何とも言えない気づかいが出来る人な気がします。つくづくナナは晃哉を良く思っているようですね。 |
当サイトの管理人ナナへのメールは →cs7_factory@hotmail.com |
妄想リストへ戻る トップへ戻る |