■ヨハン・シュターミツ (Johan Stamitz 1717〜1757)
シンフォニア・パストラーレ ニ長調 作品4-2 (1750年代前半)
ヨハン・シュターミツは、18世紀中頃に活躍したボヘミア(現在のチェコ共和国の北西部)出身の作曲家です。彼はプラハ大学の哲学部で勉強したあと、ヴァイオリニストとして活動して名を上げ、マンハイムの宮廷楽長になりました。
シュターミツが40歳で亡くなった時、ヘンデルは72歳、ハイドンは25歳、モーツァルトは1歳でした。バッハが亡くなってから7年経っていました。
シュターミツは、西洋音楽のスタイルがバロックから古典派へと移り変わっていく時代の重要な作曲家の一人です。管弦楽の演奏に音量を少しずつ変化させるクレッシェンド、デクレッシェンドを初めて取り入れたことが知られています。そんな新しい表現方法を、当時ようやく形式が固まりつつあった交響曲に応用し、当時としては斬新な感覚の作品を生み出したのです。
しかし、過渡的な時代の作曲家は、名は残っても作品は時とともに忘れられ、埋もれてしまいがちです。シュターミツの作品もまた、現在はコンサートでは滅多に取り上げられず、CDもごく僅かしか出ていません。もし、マイナーな曲目を掘り起こして廉価で提供してくれるNAXOSレーベルが、シュターミツの交響曲のCDを出してくれていなかったら、私は一生シュターミツの音楽を聴かなかったかもしれません。でも、実際に聴いてみると、これがなかなか良かったのです。
「シンフォニア・パストラーレ(田園交響曲)」は、シュターミツが1750年代前半に書いた6曲の交響曲をまとめた「交響曲集 作品4」の中に、2番目の曲として収められている交響曲です。タイトルを見るとベートーヴェンの「田園交響曲」みたいか曲かと思ってしまいますが、田園を描写した音楽ではありません。他の交響曲と較べて穏やかな雰囲気の交響曲、という程の意味です。
この曲の楽器編成は、弦楽合奏にホルンとオーボエを付けただけのものです。今からみれば小ぶりな編成ですが、当時はこれが交響曲の一般的な編成で、ハイドンやモーツァルトの初期の交響曲も、この編成で書かれています。下記の所有CDでは、チェンバロの伴奏を付けて演奏していますが、これも当時の慣習に従ったものです。
楽章構成はと言えば、「急速楽章+緩徐楽章+メヌエット+急速楽章」という4楽章構成です。既に古典派の交響曲の定型になっているのです。全体で約14分ほどかかります。
第1楽章は、快速なテンポながらも穏やかな雰囲気の音楽です。大らかに歌う旋律が心地よいです。角笛の信号を思わせるモチーフが印象的ですが、このモチーフはこの後の3つの楽章でも顔を出します。第2楽章では弦楽のみになり、のどかな雰囲気にいっそう浸りきるかのような滋味溢れる音楽を聴かせます。
第3楽章メヌエットは、バロック時代のメヌエットとそんなに変わらない気もしますが、オーボエが伸び伸びと歌ったりして楽しい気分で溢れています。第4楽章は6拍子の軽快なリズムの音楽で、田園で楽しく歌い踊っている様を思わせます。このフィナーレには、ボヘミアの古いキャロル(祝歌)が引用されているそうです。
純真な喜びに満ちた音楽。音楽の楽しみの原点を見る思いがします。モーツァルトの、特に第29番あたりの交響曲のお好きな方なら、気に入って頂けると思います。
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「J.シュターミッツ・交響曲集 第2集」
ニコラス・ウォード指揮 ノーザン室内管弦楽団 NAXOS 8.554447
※作品4の1番、4番、6番を併録。
2004.03.22
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