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■ベドジフ・スメタナ (Bedrich Smetana 1824〜1884)

 ピアノ三重奏曲 ト短調 作品15(1855年)


 交響詩『モルダウ』で有名なスメタナは、ドヴォジャークと並んでチェコ(ボヘミア地方)の民族的ロマン派を代表する作曲家です。日本では『モルダウ』以外はあまり聴かれず、いまひとつ人気が薄いのですが、本場のチェコでは非常に尊敬されている作曲家で、その人気はドヴォジャークをはるかに上回ると言われています。オペラの分野で特に成功を収めた人でもあります。

 室内楽曲もいくつか書いていて、特に弦楽四重奏曲第1番『我が生涯から』がよく知られ、演奏されていますが、今回は比較的若い頃に書かれたピアノ三重奏曲 ト短調を紹介します。
 
 スメタナは1848年にボヘミアで起こった革命に参加し、その後1866年まで国外で亡命生活を送っていました。また、この時期には幼い娘が病気で亡くなるという不幸も体験しました。そんな時期に書かれたピアノ三重奏曲は、曲想の起伏の激しいロマンチックな作品となっています。言わば音で描かれた”青春自画像”です。

  この曲は3つの楽章から成っていますが、古典的な4楽章構成から緩徐楽章を抜いた構成になっているのがやや異色です。演奏時間は全体で28分ほどです。

 第1楽章はヴァイオリンが低音域で演奏する第1主題で始まります。このテーマは何ものかを強く訴えかけているかのようで、心に残ります。この第1主題が情熱的に盛り上がったあと、安らぎに満ちた第2主題が登場しますが、やがてマーチのリズムが現れ、気分が高揚していきます。この部分は革命に参加した時のことを回想しているように聴こえないこともありません。展開部では第1主題が大胆な転調を伴っていっそう劇的に盛り上がったあと、第2主題がピアノのきらめくような音色で美しく展開されます。極めてロマンチックな性格の楽章です。

 第2楽章はやや風変わりなスケルツォです。軽快だが哀調を帯びた主部の合間に、甘美な舞曲調や重い足取りのマーチ調の部分が差し挟まれています。叙情的な性格の強い楽章で、そのためにスメタナは緩徐楽章を敢えて書かなかったと思われます。

 第3楽章ではタランテラ(急速な舞曲)風の情熱的な第1主題と、優美で慰めに満ちた第2主題が交互に登場します。第2主題の2度目の登場のあと、第1主題が今度はテンポを落とし、葬送行進曲のように重々しく演奏されます。それは娘の死を悲しむ作曲者の思いそのものと言っていいでしょう。しかしその後、曲想は明るくなり、悲しみを乗り越えて立ち上がるかのような感動的な結尾によって曲は締めくくられます。

 シューマンやリストなど、ドイツ・ロマン派の影響の色濃い作品ですが、ロマン派の作曲家が書いたピアノ三重奏曲として、この曲はかなりの傑作だと思います。

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ヨアヒム・トリオ NAXOS 8.553415
※同郷のスク(スーク)、ノヴァークのピアノ三重奏曲他を併録。

2004.10.26
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