■エルヴィーン・シュルホフ(Erwin Schulhoff 1894〜1942)
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(1927年)
19世紀後半にスメタナ、ドヴォジャークが偉大な足跡を残したあと、20世紀前半のチェコでは幾人もの優れた作曲家が登場しました。スク、ヤナーチェク、マルティヌーらがそれぞれの方法で独創的な作品をつくりましたが、中でも異彩を放っているのが、ユダヤ系のエルヴィーン・シュルホフです。
シュルホフは、第2次大戦中にナチスのユダヤ人収容所で亡くなりました。そのことから最近ではナチスの弾圧を受けた”退廃芸術家”の一人として注目を浴びているようです。実際、彼の音楽は、古典や民俗音楽に根ざしていながらも、当時のアヴァンギャルド音楽の技法もふんだんに使っているし、ジャズなどのポピュラー音楽のスタイルも取り入れています。そのような広範囲のバックボーンに支えられた多彩な表現こそ、シュルホフの魅力です。
シュルホフは1920年代に弦楽器のための室内楽作品をいくつか書いていますが、1927年の『無伴奏ヴァイオリン・ソナタ』もそのひとつです。古典的な4楽章編成で、全体で約10分という短さでまとまっており、キリリと引き締まった印象を与えます。
第1楽章では、めまぐるしく動き回る生き生きとしたパッセージを、重音も交えて弾きます。5音音階にもとづくその旋律は、一見カントリーミュージックのように聴こえますが、よく聴くとバッハの旋律パターンを模倣しているようにも見えます。第2楽章は無調的なテーマが中心となり、暗く不安な情念を吐露します。第3楽章は「スケルツォ」と題されていますが、テンポとリズムはむしろメヌエット風です。テーマは5音音階をゆがめたような民俗調です。第4楽章は、より粗野な感じの民俗舞曲調です。この極めてエネルギッシュな音楽によって全曲が閉じられます。
無調的な響きなども折りこまれたこの作品は、当時としてはなかなか先鋭な作品と言えますが、民俗音楽的ないきいきとした旋律やリズムの楽しい作品でもあります。古典と民俗音楽、そして適度に斬新な手法とを、ごく自然な形で融合した音楽と言えましょう。ヴァイオリンの技巧の扱いにも全く無理がありません。
ちなみに日本では、1934年に札幌で日本新音楽連盟によって開かれた「国際現代音楽祭」で、伊福部昭氏によって初演されました。『日本狂詩曲』などの管弦楽作品や、『ゴジラ』などの映画音楽で名高い作曲家の伊福部氏は、ヴァイオリニストとしても相当な腕の持ち主だったようです。
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"ERVIN SHULHOFF CHEMBER MUSIC"
アントニーン・ノヴァーク(ヴァイオリン) PRAGA PR 255 006(輸入盤)
2001.01.21
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