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■ヴァディム・サルマノフ(Vadim Salmanov 1912〜1978)

 交響曲第2番 ト長調 (1959年)


 ヴァディム・サルマノフは、革命直前のサンクト・ペテルブルクに生まれ、旧ソ連で活躍した作曲家です。大学では地質学を学びましたが、その後レニングラード音楽院に移り、子供の頃から好きだった音楽を学びました。そしてショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、ハチャトゥリアン等が活躍した時期に、彼もまた充実した創作活動を行いました。

 サルマノフは日本ではあまり知られていない作曲家ですが、旧ソ連の作曲家としては珍しく十二音技法による作曲も試みたりしており、注目すべき存在と言えます。彼は生涯に4曲の交響曲を作曲していますが、今回は叙情的で親しみやすい2番目の交響曲を紹介しましょう。

 交響曲第2番ト長調は4つの楽章から成り、演奏時間28分ほどです。曲全体に対して与えられたタイトルはありませんが、各楽章には森や自然と関わりのあるタイトルが与えられています。

 第1楽章「森の歌」は3分程度の序奏風の楽章で、木管によって奏される波打つような旋律から始まります。この爽やかさと不気味さの入り混じった不思議な感触のテーマは、森の妖精の唱える呪文のように聴こえなくもありません。このテーマは弦に受け継がれて展開され、音楽が高まりますが、やがて再び静けさの中に消えてゆきます。

 第2楽章「自然の呼び声」は、緩やかなテンポによる叙情的な楽章です。冒頭でシングリッシュ・ホルンが息の長い旋律を歌います。それはまさに霧濃き森の彼方から聴こえる”呼び声”のようです。このテーマを中心に、シベリアの広大な森の冷気を感じさせる荘厳な音楽が展開されます。そうはもう、神々しいまでに美しく感動的な音楽で、全曲中の白眉と言っていいでしょう。

 第3楽章「日没」はスケルツォに相当する楽章です。突如、チャイムがけたたましく鳴り響き、管楽器がおどけたようなモチーフを吹き、弦が敏捷に駆け回るパッセージを奏します。この騒々しい主部は、森の夕暮れのイメージからは遠いものの、非常にスリリングで面白く聴けます。中間部ではテンポが緩やかになり、ヴァイオリン・ソロを中心に森の夕暮れを思わせる幻想的な音楽が展開されます。

 第4楽章「森が歌っている」は前の楽章に続いて切れ目なく演奏されます。テンポは再び緩やかになり、弦を中心に穏やかだがやや不安な感じの旋律を歌います。中ほどでチューバのソロが瞑想的な旋律を歌ったあと、第1楽章のテーマが再現され、最後は金管を中心に堂々と曲を閉じます。

 ショスタコーヴィチの影響を感じさせるような節回しも多々聴かれますが、暗さよりも透明感のある叙情が前面に出ているところに、サルマノフの持ち味が感じられます。もっと人気が出てもよい作品だと思います。

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エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
 RUSSIAN DISC RD CD 11 023(1966年のステレオ・ライブ録音)
※これとは別に、同じ指揮者とオーケストラによる交響曲全集がメロディアから出ていた。
 (第2番はモノーラル録音)

2002.12.02
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