■シルヴェストレ・レブエルタス (Silvestre Revueltas 1899〜1940)
組曲『マヤ族の夜』(1939年)
メキシコでは、15世紀のスペインによる征服以来、ヨーロッパから主に民俗音楽が入って来て土着の音楽と融合し、いわゆる”メスティソの音楽”が育まれました。レブエルタスは、そんなメキシコにおけるクラシック系の近代音楽を代表する作曲家のひとりです。
1899年にメキシコ北部の小さな町に生まれたレブエルタスは、子供の頃から音楽的な才能を発揮し、メキシコシティの国立音楽院でヴァイオリンと作曲を学んだあと、アメリカにも留学しました。そして祖国に戻ってから多数の音楽作品を創作しましたが、1940年に41歳で亡くなりました。
メキシコ人としての自覚を強く持っていたレブエルタスの音楽は、執拗に繰り返されるリズム・オスティナート、打楽器をも駆使して生々しい迫力を聴かせるオーケストレーションなどが特色です。それはストラヴィンスキーの『春の祭典』などの影響を伺わせる一方で、ラテンアメリカの民俗色を強く打ち出したものになっています。
レブエルタスは管弦楽曲『センセマヤ』などの音楽作品を作曲する一方で、映画音楽にも意欲的に取り組みました。そんな彼が手がけた映画『マヤ族の夜』のための音楽を、作曲家のリマントールが演奏会用に編曲したのが組曲『マヤ族の夜』です。
第1曲『マヤ族の夜』では、映画のメインテーマと思われる堂々たるテーマが登場します。それは大地に捧げる祈りのような、悲痛な訴えかけを感じさせるもので、一度聴いたら忘れられません。中間部分ではそのテーマが、「アジア的」と言いたくなるような穏やかで懐かしい雰囲気の旋律に姿を変えて登場します。
第2曲『どんちゃん騒ぎの夜』は、陽気なラテンダンス調です。軽快なリズム、屈託のない明るい曲想の楽しい曲ですが、時々調子っぱずれなホルンの音が「ボ〜」と鳴ります。このような音は第4曲「呪術の夜」や『センセマヤ』でも聴こえます。私はメキシコの民俗音楽のことはよく知りませんが、その民俗音楽では角笛がよく使われるのかもしれません。
第3曲『ユカタンの夜』は、穏やかな曲想の曲で、割と常識的なロマン派調が基調になっていますが、第1曲中間部の旋律も顔を出し、懐かしい雰囲気を出しています。静まり返った夜の情景を連想させる音楽です。
ここまでの3曲は、概ね19世紀のロマン派や民族楽派のスタイルの枠の中で書かれていているのですが、次の第4曲『呪術の夜』では様子が違ってきます。短い序奏のあと、軽快なリズム・オスティナートを叩く打楽器が高らかに鳴り響き、土俗的な踊りの音楽が始まります。異なるリズムを持った3つの舞曲がつなぎ合わされて演奏されますが、いずれも打楽器のリズム伴奏と、主に管楽器による短小なモチーフの積み重ねから成る音楽で、野性的な躍動と迫力で聴き手に迫ってきます。音楽が熱狂的な高まりをみせる中、結尾で第1曲のテーマが堂々と再現され、曲は締めくくられます。
ひたすら熱狂的に叩かれる打楽器、猛々しく咆哮する管楽器・・・いわゆる民族主義の音楽は多くあれど、ここまで過激にエスニックな音楽も珍しいと思います。西洋の宮廷や教会で生まれたクラシック音楽ですが、異文化と出会い、ぶつかり合うことで、それまでのものとは全く違う新しい魅力を放つ作品が生まれ得るのです。レブエルタスの作品は、こうした雑種文化の凄さ、面白さを認識させてくれるものと言えましょう。
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エンリケ・バリオス指揮 メキシコ・アグアスカリエンテス交響楽団 NAXOS 8.555917
2002.12.26
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