とっておきのクラシックトップ

■フランシス・プーランク (Francis Poulenc 1899〜1963)

 フルート・ソナタ(1956-57年)


 イベールの『バッカナーレ』の項でも紹介した”フランス6人組”とは、作家のジャン・コクトーがフランスの若い世代の作曲家から選び出し、その活動をバックアップした6人の作曲家のことです。彼らは反ロマン主義、反印象主義を掲げ、戦間期のフランスの音楽界にセンセーションを起こしました。

 ただ、6人のメンバーの音楽観は必ずしも一致していたわけではありませんし、個性もまちまちでした。そんな中で、オネゲルやミヨーほどに知名度はなかったものの、天才的な才能が際立っていたのがプーランクです。

 プーランクは不思議な音楽を書いた人だと思います。古典的な明晰さ、軽快さのの中に深い憂愁が織り込まれた音楽は他に類を見ないもので(強いて言えばサティに近い)、その大きく深い音楽は反ロマン主義などといった時代特有の美学の枠になど収まりきるものではありません。

 1950年代以降のプーランクは、親しかった故人の思い出に捧げる室内楽作品をいくつか書いていますが、フルート・ソナタもまた1953年に亡くなった音楽愛好家のクーリッジ夫人の思い出に捧げられた作品です。急緩急の3つの楽章から成っていて、演奏時間は12分ほどです。

 第1楽章は「憂鬱なアレグロ」との標語を持っています。その言葉の通り、調性感のはっきりしないテーマは軽やかに流れつつも鬱々とした気分を湛えています。中間部分ではテンポが緩やかになり、夢見心地な表情を見せます。ユーモアと憂愁と夢想・・・様々な情緒がごく自然に溶け合った不思議な感触の音楽で、プーランクの持ち味がよく現れています。

 第2楽章では悲しみの込もった旋律が、静かに歌われます。表情が静かであるがゆえにその悲しみの深さは測りがたく、聴いていて心を抉られるような思いがします。

 第3楽章は明るく快活なテーマが中心となっています。旋律は楽しげに駆け回りますが、それでも憂鬱な気分は残っていますし、中ほどでは第1楽章の中間部分の夢見心地な曲想が回想されます。

 短い時間の中に言葉に尽くせないほど多彩にして繊細な情感を盛り込んだ作品です。私はこの曲を聴く度に、プーランクの天才的な感性を通じてフランス音楽の奥深さというものを思い知らされる思いがするのです。

****************************** 所有CD ***********************************
『プーランク室内楽曲集』
フルート:ヴォルフガング・シュルツ ピアノ:ジェイムズ・レヴァイン DG FOOG20460

『プーランク・室内楽曲全集 第1集』
フルート:フィリップ・ベルノール ピアノ:アレクサンドル・タロー NAXOS 8.553611

2002.01.20
とっておきのクラシックトップ