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■ペロティヌス(Perotinus 12〜13世紀)

 オルガヌム『ヴィデルント・オムネス』 (1198年頃)


 中世ヨーロッパの音楽は、グレゴリウス聖歌にせよカルミナ・ブラーナにせよ、1本の旋律のみが楽譜に記され、残っているものがほとんどです。この時代では、楽譜には主旋律のみを記し、伴奏は演奏家が慣習に従いつつ各々の考えたものを付けることが多かったのです。しかし、12世紀に入って記譜法が整備されると、吟遊詩人(トルヴェールやミンネゼンガー)の歌の旋律がたくさん書き記される一方で、複数の旋律から成るポリフォニー音楽が盛んに書かれるようになりました。

 そのポリフォニー音楽も、初めの頃は簡素なものでしたが、ノートルダム寺院の二人の僧侶音楽家レオニヌスとペロティヌスによって、より充実した内容のポリフォニー合唱曲が書かれました。それは、その後のヨーロッパ音楽の発展の礎となる、画期的な創作でした。

 レオニヌスとペロティヌスは、オルガヌムと呼ばれる曲種の教会合唱曲を書いています。オルガヌムとは、低い声部がグレゴリウス聖歌の旋律を一音一音長く引き伸ばして歌い、それに対して幾つかの高い声部が細かい動きの旋律を歌うスタイルのポリフォニーのことです。実質的には、ドローン(持続音)付きの合唱曲と言っていいものになっています。ただし、全ての部分がこのスタイルで書かれるわけではなく、グレゴリウス聖歌をそのまま歌う部分も置かれています。

 こんな風に書くと、何だか理屈っぽくて退屈な音楽みたいですが、実際にペロティヌスの『ヴィデルント・オネムス』を聴くと、結構楽しく聴けるのです。高い声部の歌う旋律は軽やかな6拍子リズムで、戦前の日本の童謡や軍歌に多かった”ぴょんこ節”に似たリズム感が親しみやすい。そんな旋律が複数組み合わされることで、生き生きとした表情をつくり出しています。そして低い声部の歌う引き伸ばされた旋律が音楽に和声的なメリハリを与え、全体の構成に輪郭を与えているのです。

 『ヴィデルント・オムネス(地上の全ての国々は)』は、クリスマスに歌われる聖歌です。その喜ばしい内容の歌詞に合わせて、音楽も明朗な気分を基調としたものになっています。旋律の動きはかなり変化に富んでいて、聴き手を飽きさせない構成になっています。私はこの曲を聴く度に、天使が手を振って踊っている様を思い浮かべてしまいます。

 中世ヨーロッパの音楽の中には、こんな風に新鮮な感動を与えてくれる曲は少なくありません。古い音楽だから古めかしく退屈だとは限らないのです。

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『ゴシック期の音楽』
デイヴィッド・マンロウ監修・指揮 ロンドン古楽コンソート ARCHIV POCA-2098/9

2002.11.18
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