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■大栗裕(おおぐり ひろし 1918〜1982)

 吹奏楽のための『神話』 (1973年)


 大栗裕は、大阪で生まれ、大阪で活躍した作曲家です。オーケストラでホルン奏者を務める一方で、1955年頃からは作曲家としても充実した活動を行いました。去年の年末にお亡くなりになった御大・朝比奈隆が積極的に作品を取り上げた作曲家ですが、知名度ではまだまだという気がします。

 彼の音楽は、ストラヴィンスキーやバルトークなどの近代音楽の手法をベースにして、アジア的なバイタリティを盛り込んだものが多いようです(まだ一部の作品しか聴いていないので断言はできませんが)。代表作と目されているのは『大阪俗謡による幻想曲』(1955年)ですが、私はまだ聴いていません。ここでは私が非常に気に入っている『神話』を紹介しましょう。

【天の岩屋戸の物語】
 太古の昔、太陽神アマテラスオオミカミは、弟のスサノオが暴れ回るのに恐れをなし、天の岩屋戸に身を隠してしまった。世界は闇の世界となった。そこで神々が集まってどうしたものかと相談した。女神アメノウズメがあられもない格好で踊り始めた。神々はそれをはやしたて、いっしょに踊りだした。アマテラスオオミカミはその騒ぎを不審に思い、岩屋戸から外を覗いているところを外に引っ張りだされた。世界は光明を取り戻した。


 以上が、天の岩屋戸の物語のあらすじです。吹奏楽のための『神話』は、この物語に基づいた演奏時間14分ほどの標題音楽です。

 曲はゆっくりとしたテンポの序奏から始まります。いかにも不機嫌な感じのアマテラスオオミカミのテーマが現れ、トランペットやトロンボーンのグロテスクなモチーフが闇の世界の不気味な光景を描写します。そのあと、打楽器の軽快なリズムが高らかに鳴り響き、アメノウズメたち神々の踊りを表す躍動的な主部を導き出します。

 この舞曲部分を聴いて、アメリカっぽいと思うのは私だけでしょうか? シンコペーションのリズムがいかにもノリが良く、聴いていて思わずいっしょに踊り出しそうになります。雰囲気としてはバーンスタインの『ウェストサイドストーリー』や『ミサ』のダンスナンバーに近いとさえ言えます。英語の「ダンサブル」という形容のよく似合う曲想です。
 その一方で、モチーフは中近東風のものが多く、東方的な質感もよく出ています。打楽器や金管を効果的に用いた野性的な響きも快感です。

 最後は再びテンポが遅くなり、アマテラスオオミカミのテーマが今度は勇壮に鳴り響き、世界に光明がもたらされたことを現します。

 実に聴き応えのある魅力的な作品で、これ一作だけでも大栗裕は注目すべき作曲家だと私は思っています。今年の3月末には、朝比奈隆指揮のオペラ『赤い陣羽織』(1955年)の録音がCDで復刻されましたし、5月にはNAXOSレーベルから『神話』の管弦楽版や『大阪俗謡による幻想曲』も含む大栗裕管弦楽作品集が出ます。これを機に、この大阪の生んだ優れた作曲家の作品がもっと知られるようになるといいと思います。

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『深層の祭』 小田野宏之指揮 東京佼成ウインドオーケストラ 佼成出版社 KOCD-0401

下野竜也指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団 NAXOS 8.555321J
 ※本文中で触れたNAOXOSの大栗裕管弦楽作品集。管弦楽版を収録。

2002.04.08
2003.01.20 所有CDを追加、あらすじを修正
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