■ニコライ・ミャスコフスキー(Nicolai Myaskovsky 1881〜1950)
弦楽四重奏曲第13番 イ短調 作品86 (1949年)
ニコライ・ミャスコフスキーは、ショスタコーヴィチやプロコフィエフ、ハチャトリアン等と並んで、旧ソ連を代表する作曲家です。ストラヴィンスキーやバルトーク等と同世代の人ですが、作風は比較的穏健で親しみやすいものが多いと言えます。旧ソ連当局の意向により国策的な題材の交響曲なども書いたため、体制的な作曲家と見る向きもあるようですが、基本的には叙情的な資質の持ち主であり、政治的な背景を意識させない作品がほとんどだと私は思っています。
ミャスコフスキーはてらいのない作曲をする人だと思います。特に目新しいことはせず、先人から謙虚に学び、それを自分の中に取り込み、反芻し、融合し、熟成させる・・・古典的なもの、ロマン的なもの、民俗的なものなどを絶妙に溶け合わせた熟成の美こそ、ミャスコフスキーの音楽の魅力だと思います。
ミャスコフスキーは交響曲を27曲も書いていることで知られていますが、弦楽四重奏曲も13曲書いています。今回はその最後の作品となる第13番を紹介します。この曲の作品番号は86で、最後の交響曲である交響曲第27番作品85とは連番になっています。これらはミャスコフスキーの最晩年の作品であり、彼の慎ましやかな音楽人生の最後を飾る作品なのです。
全体は古典的な4楽章構成になっています。第1楽章は憂いに満ちた第1主題から始まりますが、ここで早くもミャスコフスキーならではの濃く深い叙情の世界に引き込まれます。第2主題はその憂いを慰めるかのような、やや和んだ雰囲気の旋律で、カノン風に展開されます。これら2つのテーマの明と暗のぼんやりとした対比によって、味わい深い叙情の世界が展開されます。
第2楽章は自由な3部構成によるスケルツォです。主部はメンデルスゾーンを思わせるメルヘンチックな曲想で、目まぐるしく動き回る軽快な旋律には情熱のほてりが感じられます。中間部は深い詠嘆を感じさせる旋律が印象的です。
第3楽章は穏やかな曲想ながらも、そこには寂しさがつきまとっています。過去を懐かしく振り返りつつ、言葉に尽くせぬ深い思いの中に沈潜していくかのような趣があり、諦観を感じさせます。
第4楽章は何かを決意したかのような力強いテーマで始まり、ゆるやかに歌う旋律を交えつつも躍動的な音楽を展開してゆきます。それは第3楽章の諦観を振り払おうとしているようにも聴こえますが、哀愁はなおもつきまとっています。その感触はロマ(ジプシー)の音楽に例えてもいいかもしれません。
全体に暗い色調の音楽ではありますが、作曲者の晩年の心情が痛いほど伝わってくる、感動的な作品だと思います。
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レニングラード・タネーエフ四重奏団 MELODIYA MCD148
※第3番、第10番と併録。
2002.11.05
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