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■フェリックス・メンデルスゾーン
 (Felix Mendelssohn Barthordy 1809〜1847)

 弦楽四重奏曲第3番 ニ長調 作品44-1(1838年)


 メンデルスゾーンは、ヴァイオリン協奏曲ホ短調、交響曲第4番『イタリア』、劇音楽『夏の夜の夢』、『無言歌集』などが名曲と見なされ、大作曲家の列に加わっています。しかし、その存在が軽んじられることが多かったためか、室内楽からオラトリオまで幅広いジャンルで創作したメンデルスゾーンの作品の中には、優れた音楽的価値と魅力を持つにも関わらず、知られていない作品が少なからずあります。特に、作品番号なしの1曲を含む7曲の弦楽四重奏曲が、ひと昔前まではほとんど演奏されてこなかったのは、非常に残念なことだと思います。

 メンデルスゾーンは、1837〜1838年に3つの弦楽四重奏曲を相次いで作曲し、まとめて作品44としました。弦楽四重奏曲第3番ニ長調は、その作品44の1番目の曲とされましたが、実際には作品44の中で最も後に書かれた作品です。

 第1楽章はいかにも明朗快活で、「弦楽四重奏版イタリア」とでも呼びたい音楽です。生きる喜びを手放しで謳歌しているかのような表現ですが、それでいて、旋律はあくまでも端正で気品があり、形式も整っていて表現が押し付けがましくならないのは、メンデルスゾーンならではの美徳と言えましょう。古典的な美しさとロマンチックな表現の黄金のバランス、といったところでしょうか。
 第2楽章はメヌエットですが、あまり拍子の打点を感じさせず、音楽はゆったり流れます。優美でありながらも、どことなく物憂げな雰囲気が独特です。トリオはメルヘンチックなテーマが中心になっています。
 第3楽章は非常に物悲しい感じの旋律が中心になっています。この旋律はバロック風にも民謡風にも聴こえますが、このいかにもロマンチックな旋律も、この曲の聴き所のひとつと言っていいでしょう。
 第4楽章は第1楽章をいっそう快活にしたような曲想で、めまぐるしく動きまわる躍動的なテーマは、とめどなく湧き上がる喜びを歌い上げているかのようです。

 メンデルスゾーンは、1837年にセシルと結婚しており、この時期の彼はこの上ない幸福感に浸っていたようです。その時の気分が、弦楽四重奏曲第3番にもかなり反映しているように感じられます。聴いているほうも一緒に幸せになれそうな、この魅力的な作品は、『イタリア交響曲』なみに親しまれても不思議のない名曲だと思います。


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『メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1集』 オーロラ弦楽四重奏団(1993年録音)
NAXOS 8.550861

2001.01.07

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