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■ダグラス・リルバーン (Douglas Lilburn 1915〜2001)

 交響曲第2番(1951年)


 ニュージーランドといえば、この国の出身である映画監督ピーター・ジャクソンの映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のロケが行われたことが記憶に新しいですね。雄大に聳え立つ山脈、広大な森の中を流れる大河など、美しい自然の景観が心に残る映画でした。第1部の最初のほうに、絵に描いたように美しいホビット村の場面がありますが、このような田園風景を撮影できる場所は、原作者トールキンの祖国である英国には残っていないそうです。

 先住のマオリ族が彼らの言葉で”アオテアロア(白雲島)”と呼ぶニュージーランド。今回は、この国が生んだ作曲家、ダグラス・リルバーンの作品を紹介しましょう。

 リルバーンはニュージーランド北島の中央部の牧場地帯で生まれ育ちました。英国に渡ってロンドンの王立音楽大学でヴォーン・ウィリアムズに師事し、帰国後は管弦楽作品を中心に創作活動を行ったようです。「ドライスデール序曲」(1937年)、「島々の歌」(1946年)などの作品があります。

 私はリルバーンの作品は下記のNAXOSレーベルから出ているCDに収録されている3つの交響曲しか聴いたことがありません。このうち交響曲第1番(1949年)はシベリウスをより洗練させたような作風で、自然の情景を連想させる叙情的な音楽となっていてお薦めです。一方、単一楽章構成の交響曲第3番(1961年)は無調的な作風に変わっていて、ややとっつきにくいのですが、透明な響きと軽快なリズムに魅力があります。

 交響曲第1番が初演された1951年に書かれた交響曲第2番は、より思索的な雰囲気の音楽になっていますが、基本的には前作の延長線上にある作風です。透明感のある叙情と、内面の不安を感じさせる思索的な表現とが表裏一体になったような、独特な感触の音楽です。

 「前奏曲」と題された第1楽章は、辺りをうかがうかのような穏やかな雰囲気で始まりますが、次第にスケールを増してゆきます。中ほどでは警告を発するかのようなモチーフがトランペットによって演奏され、緊迫した雰囲気になりますが、やがて音楽は穏やかさを取り戻し、雄大なクライマックスに到達します。

 第2楽章「スケルツォ」は、屈託のない感じの民謡風テーマによる快活な音楽です。爽快な響きと軽快なリズムが心地よい。

 「導入」と題された第3楽章は、クライマックスらしい部分を持たない内向的な音楽で、夜明け前の情景を思わせます。沈痛な感じのテーマが中心になっていますが、深刻になりすぎず、透明感を保っています。淡い光が差しては消えてゆくかのような表情の移りゆく様が美しい。

 第4楽章「フィナーレ」は、朝の情景を思わせる明るさ、爽快さを感じさせる音楽です。木管による淡い哀感を帯びたテーマを交えつつ音楽は喜びを歌い上げ、満ち足りた大らかさの中で曲は閉じられます。

 これだけ充実した作品を書いている人なのにあまり知られていないのは、やはりクラシック音楽の本場から遠く離れたオセアニアの作曲家だからでしょうね。かくいう私も最近までは、ニュージーランドはあまりクラシック音楽に縁が無いというイメージを抱いていました。まあ、あちらでは日本のことをそう思っているかもしれませんが・・・。考えてみれば、英国系移民の多い国という点はアメリカと同じわけです。アメリカにもクラシック系の作曲家はたくさんいますから、ニュージーランドにいても不思議はありません。

 何はともあれ、NAXOSがリルバーン作品集の第2弾を出したら真っ先に買います!

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「リルバーン 3つの交響曲」
ジェイムズ・ジャッド指揮 ニュージーランド交響楽団 NAXOS 8.555862
※なかなかの快演です。

2003.11.17
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