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■早坂文雄 (はやさか ふみお 1914〜1955)

 左方の舞と右方の舞 (1941年)


 早坂文雄は、伊福部昭氏(以下敬称略)とは同い年にして同じ北海道出身(ただし生まれたのは仙台)の作曲家です。大学時代に札幌で伊福部や三浦淳史と知り合い、”新音楽連盟”を結成して当時のヨーロッパの現代音楽作品の演奏などを行いました。そして戦前戦後を通じて意欲的な作曲活動を行いましたが、1955年に結核のため惜しくも41歳で亡くなりました。

 早坂は戦前から映画音楽を手がけており、特に黒澤明監督の『羅生門』や『七人の侍』での仕事がよく知られています。他にも『古代の舞曲』(1937年)、『室内のためのピアノ小品集』(1941年)、『管弦楽のための変容』(1953年)、交響組曲『ユーカラ』(1955年)など、優れた作品があります。彼は東洋的な美観の音楽を目指して探求を続けた作曲家で、研ぎ澄まされた感性から生み出されたその作品は、日本の若い世代の作曲家に大きな影響を与えました。

 『左方の舞と右方の舞』は、そんな早坂が古代日本の宮廷文化が生み出した優れた伝統音楽である雅楽のスタイルを借りて書いた管弦楽曲です。

 雅楽には左方、右方と呼ばれる二つの様式があります。左方は中国から、右方は朝鮮から伝わった音楽と舞踊の様式に基づいているとされています。早坂はこのような雅楽のスタイルに倣って左方と右方の性格を持った二つの曲想が交互に登場する構成の曲を書きました。

 曲は龍笛を思わせるピッコロの旋律で始まり、続いて拍子感の曖昧な左方のテーマが登場します。穏やかに流れる雅びな旋律にはうっとりさせられますが、やがて音楽は高まり、壮大な盛り上がりをみせます。このあと、拍子感のある伴奏が入り、右方のテーマに移ります。こちらも緩慢なテンポによる優美な旋律ですが、左方よりも動きと緊張感を感じさせます。二つのテーマは交互に現れつつ変幻自在に展開され、最後は静寂の中へ消えていきます。

 約15分間、緩慢なテンポで一貫している曲ですが、刻々と移り変わっていく曲想は聴く者を飽きさせません。オーケストラならではの壮大な響きもよく生かされていて、雅楽風の旋律と違和感なく融けあっています。古代の東アジア諸国の音楽が融合して生まれた雅楽が、千年の時を超えて今度は西洋からやって来たオーケストラという媒体と出会い、このような美しく感動的な音楽が生まれたのです。

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『現代日本の音楽名盤選3』 山岡重信 読売日本交響楽団 VICC-23008
 ※伊福部昭、清瀬保ニ、箕作秋吉作品を併録。
『早坂文雄管弦楽選集-1』 芥川也寸志 新交響楽団 fontec FOCD9081
 ※『古代の舞曲』、映画『羅生門』の音楽、『管弦楽のための変容』を併録。


2004.11.29
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